マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

こんにちは。海外添乗員のマスター・ツートンです。天使の添乗員です。

長年している海外添乗員という仕事の中で、経験したことを、ドキュメント小説風にシリーズとして書き上げていきます。

海外旅行好きの方、旅行や添乗のお仕事に興味のある方は、ぜひお立ち寄りください。時には、旅の情報も載せますよ。

コメントはお気軽に。返信は必ずします。ただし、誹謗中傷や内容に関係ないものは、ただちに削除いたします。

できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

これまでの登場人物は、上のリンクをご覧ください。

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「よく見てるね、宮古さん。」

「いえ。ただ仕事としてどちらが正しいかはともかく、旅行はお客様のものだから。あの人たちの心をつかんだほうが添乗員としては・・・って話です。」

「うん。わかるわかる。」

「添乗員の評価で、一番重く見られるのが、お客さんのアンケートでしょ?今日のディナー会場で、一番高評価を得られたのは、間違いなく国定さんだと思います。仕事をやってた感がすごかった。駒形さんのやり方って、理想論というか、うまくいっても、お客さんには伝わりにくいんじゃないかなあ。」

「うんうん、当たり。宮古さん、本当によく見てる。確かに、アンケートの添乗員評価は、国定君のほうが全然高いの。」

「やっぱり!」

「半期ごとに、社内で集計取るんだけど、国定君は、いつもトップ3に入っている。5点満点の評価で、平均4.9は下回らない。ほとんど満点。お客さんのコメントも熱いものが多い。一生この人を応援します!みたいな。」

「すごーい。」

「ちなみに、トップ3は、ここのところ不動でね。あとは、桐生君と私。自慢じゃなけいけど、と言いつつ自慢だけど。あはは。」

「そんなすごい人たちとご一緒できて光栄です。・・・でも、不思議。」

「なにが?」

「それって、国定さんが駒形さんよりも格上ってことですよね?それにしては、駒形さんが強くありませんか?八木崎さんの評価も、駒形さんのほうが上みたい。このツアーに来る前も『駒形のやり方をよく見ておけ』って。」

「駒形君だって、いいことはいいんだよ。平均で常時4.8はあるんだから。五本の指に入るくらいのところにはいるの。」

「そんなに高いんですか・・・。国定さんのほうが全然高いって言っても、そのレベルでの争いなんですね。」

「と言っても、駒形君が国定君を上回ったことは一度もないし、そこには明確な差があるのよ。でも、評価は駒形君のほうが高い。なぜか?」

「どうしてなんですか?」

「アンケートの一番最初の項目は、旅行の満足度。『今回の旅行には満足しましたか?』っていうあれね。あの平均値が、彼は異様に高いの。そこは国定君を圧倒しているし、私も桐生君もかなわない。」

「そうなんですか?」

「うん。わかると思うけど、添乗員評価と違って満足度についてはお客さんは厳しいの。あそこは5点満点で、平均4行けばまあまあ。4.3行けばわりと高い部類に入るんだけど、彼は4.5以下をほとんど取らない。ほとんどっていうか・・・たぶん、4.5以下は取ったことないんじゃないかな。」

「それじゃ、さっき国定さんに言っていたのは・・・」

「駒形君にとっては、理想論ではなくて、現実的なアイディアなの。彼が仕切りをまかされていたら、さっき言った通りにスムーズにやったと思うわよ。宮古さんが言うように、お客さんにとっては、それが当たり前だろうけど、サービスマンが足りない、ホテル側の要領が悪いというような印象は残らなかったでしょうね。添乗員の評価は上がらなかったかもしれないけど、ホテルの評価を下げずに済んだ。お客さんの心の中に、このホテルを五つ星ホテルとして残せたかもしれない。」

「駒形さんは、満足度にこだわる人なんですか?」

「そうよ。たまに言ってるけど、『添乗員の仕事は、現地で見せるべきものを見せるとき、その価値を実際の価値以上に感じられるくらいにすること。満足度第一。それを心がけていれば、添乗員の評価は自然に上がる。添乗員評価なんて4.7くらいあれば十分な高評価。それ以上はおまけ。』なんだって。」

「はー・・・。そんな考え方、会社はどう思っているんですか?」

「八木崎さんは、とてもいいと思っているみたい。でも、添乗員のランクってアンケートの添乗員評価だけで決まるでしょ?あの人、たまにランク落ちそうになるの。そんなときは、『少しはパフォーマンスしろ!落ちるぞ!』って、激入れるんだって。すると、ギアを入れて添乗員評価も上げてくるんだってさ。」

「嫌味だなー。普通できませんよ、そんなこと。」

思川は、駒形の添乗哲学を宮古に理解してほしかったのだが、逆に嫌悪感と拒否感を強めてしまったようだ。

「接客って、その場でお客様に心地よく感じていただくものだと思います。無駄なパフォーマンスはともかく、私は自分のしたことに「ありがとう」って言われたい。そうでないと報われない気がする。満足度を高めるための伝わらない接客なんて、添乗員の自己満足だと思うけど。」

「いや、伝わってるって!」

少し昂ってきた宮古を、思川は慌てて抑えた。

「実際に、すごいの駒形君は!私達、旅行会社から依頼されて、たまにパンフレットに顔写真載せるの。『この出発日は、この添乗員が行きます』みたいな感じで売り出すんだけど、一番お客さんを集めるのは駒形君なの。」

「え?国定さんは?」

「国定君も集客力はあるけど、駒形君とは比べ物にならない。」

「・・・・・どうして?」

宮古は、狐につままれたような顔をしていた。
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できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

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「大丈夫?」

駒形が去った後も、しばらく動かないでいた国定に、思川は優しく声をかけた。

「・・・うん。大丈夫。まいったな・・・。なにも言い返せなかった。」

「そんなに気にすることないよ。この場で、なにかクレームされたお客様がいらっしゃるわけではないし、疲れていたお客様には、先にお帰りいただいたんだし。最後まで残られていた方々は、笑顔でお礼を仰ってたじゃない。」

「そうですよ。私のお客様も、みなさん喜んでいました。」

宮古が、国定を一生懸命励ますように言った。

「うん。ありがとう。」

国定は、二人の言葉に精一杯の笑顔でこたえた。思川は、それに少し安心した。

「駒形君の考え方や観察力は、私も勉強になったよ。確かに、旅行はトータルだよね。いつもあんなふうには考えられないけど、これからは意識しようと思った。」

「うん・・・。」

フロントに話があるという国定と別れて、思川と宮古の二人は、自室に戻るためにエレベーターに乗った。その時、考え込んでいるような宮古を見て、思川は自分の部屋に誘うことにしたのだった。

 

缶のクスケーニャビールを飲んで、少し話しやすくなったのだろうか。ハーっと息を吐きだすかのように宮古が言った。

「今日の駒形さん、怖かったー。」

それを見て、思川は誘ってよかったと思った。

「そんなに怖かった?」

「怖かったですよー。あの人が話している間に、国定さんの逃げ場がどんどんなくなっちゃって・・・。私、自分があんなふうに責められたら、耐えられません。絶対に泣く。あの人だけは敵にまわしたくないと思いました。」

「そうだね。あれは容赦なかったね。でも、駒形君の言おうとしたことはわかったでしょ?」

「はい。まあ。考え方がしっかりしていて、自分のプランが完璧に頭に入っているというか・・・とにかくすごかったです。」

「そうね。彼は、いつもツアー全体を眺めているの。その中で絶対にうまくやらなければいけないところを外さないようにツアー組み立てる。

今日のディナーショーは、パンフレットには記載されているけれど、お客さんにとって、それほど重要ではないから、スムーズに済ませることが何よりと考えたのね。明日クスコに飛んで、明後日はマチュピチュの観光だから、それまでに疲れをためないことが第一。目玉を、できるだけいい条件でお客さんにご覧いただくことを心掛ける。それが駒形方式。」

宮古は、缶ビールを持ったまま頷いた。酒は好きらしいが、すぐ顔に出る性質のようだ。ほんの少し頬がピンク色になっている。

「国定君はね。ひとつひとつの観光を大切にするの。よく言えば完璧主義ね。目玉だけでなく、すべての観光を楽しんでいただかないと気が済まないの。さっきは駒形君にコテンパンにやられていたけどね。仕事は、とても丁寧なのよ。」

「わかります。」

「もし、さっきのショーの途中でお客さんのどなたかが『つまらない』って言ったとするでしょ?駒形君は『お付き合いいただいてありがとうございます。ご意見として承ります。』と軽く言えてしまう。国定君は、『申し訳ありません』と、まじめに謝ってしまう。」

「そんな感じですよね。・・・でも、聞いていいですか?さっきの駒形さんの話を聞いていたら、なにもかも正論に思えるけど・・・国定さんのほうが普通ではありませんか?」

「そう思う?」

「だってそうですよ。目玉ではなくても、お客さんから『ショーがつまらない』なんて言われたら、『申し訳ありません』て言いますよ。それが普通だと思います。駒形さんみたいに、ツアー全体を計算して対応している人って見たことありません。」

「そうかもね。あの人は、フレンドシップツアーズで、ずっと企画の仕事をしていたから。盛り上げどころとか、それほどこだわらなくてもいいところとか、自然に考えるようになっているのよ。

国定君も五大陸旅行社の出身なんだけど、企画や手配のようなツアーの中身がわかる仕事は経験していないの。ひたすらお客さんにツアーを売って添乗に出ていた。二人の考え方の差は、そのあたりにあるのかもしれない。そうね。そういう意味では、国定君のほうがスタンダードね。」

「やっぱりそうですよね。」

「駒形君みたいなスタンスで添乗する人は稀だから、いっしょに仕事をできる機会は貴重ね。あなたにもきっと勉強になる。」

「うーん・・・そうでしょうか?今の私には、国定さんの接客のほうが勉強になりました。」

「どういうこと?」

宮古の異論を唱えるような物言いに、思川は違和感を覚えて聞き返した。

「駒形さんが言ったことは完璧に近かったけど、お客さんからは見えない部分ばかりです。ディナーショーの段取りも何もかも、駒形さんに言われたときは『なるほど』と思ったけど、もし、あのまま終えていたら『こんなもんだ』で済んでいました。

仮に、駒形さんの意図通りにやって、スムーズに行ったとしても、それはそれで、お客さんたちにとっては、『当たり前の状態』だと思います。」

「・・・まあね。」

「今日のディナーショーの時だって、一生懸命動いてたし。だから、お客さんから、めっちゃ感謝されてましたよ。駒形さんには、どなたも簡単な挨拶しかされなかったけど、国定さんへのお礼は半端なかったですよ。お客さんから評価されるのは、国定さんのやり方だと思うんだけど・・・違いますか?」

思川はこの時、宮古という人間が、他人の強い言葉に流されない思考力と強さ、観察力の持ち主であることを知った。
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「サービスするスタッフが三人しかいなかったんだ。やはり、飲み物のオーダーは、会場に早く入られた方から取るべきだった。早いお客さんは、15分前くらい前にはいらしていたし、それができていれば、ディナーの開始時間には、大半のお客さんに飲み物が行きわたっていただろう。その状態なら、ディナーの開始と同時に食事のサービスを始められた。最初の段階で、20分時間を縮められた。」

「でも、それは机上の計算だろ?」

「そうだ。僕の机上の計算だ。お前の段取りよりも、僕の机上の計算のほうが、よほどましだ。まだ全部話したわけじゃない。最後まで聞け。」

国定の抵抗を駒形は一蹴した。

「前菜のサービスを素早くできれば、スタッフにも多少余裕ができるはずだった。全員同じタイミングで食べていれば、飲み物のおかわりを希望されるお客さんには、その時にサービスすることができた。

今日は、余裕が一切なかったから、お客さんも仕方なくサービスの途中で、強引に飲み物のおかわりをねじ込むしかなかった。それが、お客さんの手元に料理が届くまでの時差を生んだ。

見たろ?最初にデザートを食べ終えた方は、全員が食べ終えて、ショーが始まるまで四十分以上お待ちになっていた。最後にサービスされた方の中には、気を遣って急いで召し上がっていた方もいらした。あれは仕方のないことだったのか?」

駒形は、その場で起きていたことを、すべて把握していた。話し方は厳しかったが、そこには感情的な言葉や表現は一切なく、偏見もなかった。ただただ冷静に国定を責めて、締め上げていた。

「僕は、サービスマンが三人しかいないと聞いた時、通常のパーティー形式のサービスではダメだと思った。最初に飲み物のサービスを先行させることで、なんとか一時間で食事を終えられる方法を考えた。そうすれば、ショーも含めて一時間半で終わる。」

「それこそ机上の計算だろう。一時間半はなんでも無理だ。」

「そう。無理だ。いくらなんでもね。」

「どういうこと?何が言いたいの?」

思川が口を挟んだ。

「こんなもの、どんなことを考慮していても机上の計算だ。二時間を想定していたら、二時間では絶対に終わらない。一時間半で想定していて、初めて二時間でおさまる。早いサービスを試みて、無理なところでペースを落とすことはできる。でも、その逆は、あとからペースアップするのは難しい。」

だんだん、国定の表情が敗北に満ちたものになってきた。駒形は、それでも容赦なく責めた。

「スタッフ三人は、オーダーシートとペンを持って準備していた。大変な仕事になることを、きっと僕らよりも分かっていた。でも、お前が『全員揃ってから』と形式にこだわったせいで、止められてしまった。わかるか?お前のせいで、終わりがこの時間になった。」

しばしの間、その場が無言に包まれた。駒形は、自分が言い過ぎたとは思っていない。毅然として国定を見つめていた。

「でも、そこまで言わなくても・・・」

重い空気が流れる中、最初に口を開いたのは、一番若い宮古だった。

「え?」

若手の意外な反応に駒形は、しかめっ面をした。

「駒形さんのおっしゃることは、その通りだと思いますけど・・・でも、国定さんは一生懸命やっていました。レストランの人たちを手伝って飲み物を運んだり、バーにカクテルを取りに行ったり。お客さんたちは、すごく感謝していました。もう少しねぎらってあげてもいいと思います。」

思川は、横から宮古の左腕をつかんで、彼女がそれ以上なにも言わないように促した。宮古は、目を合わせた思川が、怖い顔で首を横に振っているのを見て、それ以上なにか言うのをやめた。

駒形は、「分かってないなあ」という表情で話し始めた。

「立派だよ。スタッフを手伝ったのは。僕もたまに手伝う。どうしても時間が押してしまっている時とかにね。いやー、すごいよ。仮にも五つ星でスタッフのサービスに参加するなんて。僕には思いつかなかなった。」

「余計なことを言った」と思った宮古の表情が変わった。

「きっとお客さんたちは、僕らに感謝してくださったよ。特に一番動いた国定は、あれだけ頑張っていたから。遠くのバーからカクテルを運んでくるなんてすごすぎる。あれでは、スタッフのマンパワー不足を、お客様にばらしたようなものだ。僕らの・・・いや、国定の評価が上がったかわりに、ホテルの評価は、間違いなく下がったね。」

思川が静かに頷いた。

「国定。お前はホテルに不足している部分をカバーしたつもりなのか?だとしても、僕にはそう思えない。ホテルの不足分を踏み台にして、自分の評価を上げようとしたパフォーマンスのようにしか見えなかった。カクテルをバーから運ぶなんて添乗員の仕事じゃない。お前は、彼らの仕事を奪ったんだ。」

「パフォーマンスなんかじゃねえよ。全部お客様のためだ。」

「じゃあ、そう見えるようにやれよ。」

宮古は、自分のせいで国定への批判が激しくなったと思っているのだろう。気まずい表情が険しくなってきた。

「まあいいや。これくらいにしておくよ。でもさ、国定。なんだかんだ言って、添乗の仕事は、トータルで物事を考えないとだめだ。場面場面で正しいことが、トータルになると正しくないってことはけっこうある。まさかとは思うけど、今日のディナーショーがうまくいったなんて、思っていなかったよな?」

国定は、真っ赤な顔をしてうつむいていた。駒形は、彼の返事を待たずにその場を去ろうとしていた。

「ここから先は、ツアー共通のイベントはない。泊っているホテルが一緒でも、完全な単体ツアーだ。下手な指示を出すなよ。と、いうことで、今度こそおやすみ。」

「ちょっと、駒形君!」

「思川さんもおやすみ。宮古も明日ね!」

振り切るようにその場を去っていく駒形。国定はうつむいたまま動けずにいた。宮古は、心配そうな顔をして国定を見つめている。思川は、国定に歩み寄った。
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「あー・・・疲れたねー。宮古、つかれたでしょ?これ、私のおごり。」

ディナーが終わって、部屋に帰る時、思川は宮古を部屋に呼んだ。おごったのは、ミニバーに入っていたペルーのビールだ。

「クスケーニャだ。ペルーに来たって感じがしますね。ありがとうございます。いただきます。」

缶をプシュッと開けて、グッと飲んで「プハーッ」とやる姿はオヤジそのものだ。ショートカットで童顔の宮古のイメージとは、ギャップがあって面白く、思川は笑ってしまった。

「なにオヤジぶってるのよ!」

「すいません。このノリ好きなんです。父の影響受けちゃって()

もう一度ビールを口に運び、今度は普通に飲んで、小さくため息をついた。

「それにしても、さっきの駒形さん怖かったー・・・。」

窓の傍にある、小さな丸テーブルで向かい合って座りながら、「やっと言えた」という感じで宮古がつぶやいた。思川は、ディナーが終わった時の宮古の様子を見て、フォローが必要だと思って部屋に誘ったのだった。

 

国定が仕切ったディナーショーは、ひとことで言うと失敗だった。その場にいた客からすれば、そこまでひどいものではなかったかもしれないが、盛り上がりに欠けた。

やはり、全員が席に座ってからウェイターがオーダーをとって、たった3人で67人分の飲み物をとってくるのは、時間がかかった。多少、添乗員三人が手伝ったが、焼け石に水だ。

コースメニューで、最初の皿をサービスできたのは20分経ってからだったし、皿をサービスしている時に飲み物のおかわりなどの要望が生じるなど、すべてのサービスが、いちいち中断されて、二時間以内におさまるはずのディナーショーが3時間近くかかってしまった。あまりに長くなってしまったため、参加者の中には、ショーを途中で切り上げる者がいたほどだ。

 

最後の客が、会場を後にすると、国定がほっとしたように言った。

「大変だったなあ。みんなお疲れ様。ちょっとバーにでも行って一杯やってから寝ようか。」

「僕は遠慮する。お先に。おつかれ。」

ぶっきらぼうに駒形が言って、出口に向かって歩き出した。その言い方には、他のメンバーに対する配慮も労いもなにもない。かなりイライラしている様子が伺えた。

「ちょ・・・ちょっと待てよ駒形。」

慌てて国定が止めた。

「せっかく一仕事終えたんだから、少しくらいいいだろ?みんなで労い合おうよ。軽い反省会もしたいし。」

駒形は、「みんなで労い合う」というところには共感したようだ。思川と宮古に笑顔で「おつかれさま。」とあいさつすると、

「似たような宴会が、この後あるわけではないし、反省会なんて必要ないだろ。疲れたしもう寝る。」

そう言って、またスタスタと歩き出した。

「待てよ、駒形!実は、今日のお前の案内に言いたいことがある。」

「なんだよ?」

「ちょっと、やめてよ。」

急に厳しい口調になった国定に、駒形は低い声で挑発的な言い方で返し、険悪な雰囲気を感じた思川が慌てて止めに入った。

「大丈夫だよ。ちょっと指摘するだけだから。」

「指摘?なにを?」

駒形は、国定の一言一句にイライラしているようだった。

「最後のショーの時、お前のテーブルのお客さんの半分くらいは、席を立って部屋に帰ったろ?添乗員のテーブルのほうを見て挨拶されていたけど、最初からそうするつもりでいるようだった。ひょっとしてお前、『途中退席したかったら、いつでもどうぞ』みたいなことを事前に言った?」

「言ったよ。」

「いつ?」

「メインディッシュが出てくる前かな。国定が、ばたばたウェイターの手伝いをしている時に。」

「それは、よくないよ。なんでそんなことを言ったんだ。」

「早く休みたい方にお休みいただけるようにだよ。」

「気持ちは分かるけど、それはだめだ。グループが四つも集まった、ディナーショーだよ?途中で誰か退席したらしらける。この宴会は、パンフレットに謳っているくらいのものなんだから、盛り上げる様に工夫しなきゃ。途中退席をおすすめするようなことを言ったらだめだろ。お前は、自分と自分のグループのお客さんのことしか考えていなかった。」

駒形は、手を仰ぐようにして大きく息をついた。そして、大きな声で怒鳴りそうになっている自分を必死に抑えていた。

「わかった。次に同じようなことがあった時には気を付けるよ。おやすみ。」

「ちょっと待てよ!」

小馬鹿にしたような駒形の物言いに、腹を立てた国定は声を荒げた。

「こっちは真面目に聞いてるんだ。ちゃんとこたえろよ。」

「駒形君。」

睨み合う二人を見て、思川が駒形に何かを促すように、声をかけた。駒形は、それで少し落ち着いたかもしれない。

「国定。僕に言わせるんだったら、ちゃんと話を聞けよ。悪いけど、お前と議論する気は、さらさらないから。」

「分かった。」

「よし。じゃあ言うよ。まず、今晩のディナーショーは、元々約二時間という案内をしていた。でも、メインを食べ始めたところで、すでに二時間近く経っていた。」

「ああ。でも、それは仕方な・・・」

「今朝、何時に出発したと思っている?うちは朝三時半だ。お前のグループだって四時半には出たはずだ。おまけにイカまで往復八時間のドライブ。だから、夕方早めに、六時半にディナーショーを開始して二時間で終わらせる。そういうことじゃなかったのか?」

「それはそうだけど・・・」

「そうだけどじゃない。昨日、日本から着いて、今日のこの行程で、みなさんフラフラだ。ディナーショーは、なにがなんでも、二時間以内におさめなければいけなかったんだ。それを守れないことが分かっていたのだから、みなさんの集中力が切れてイライラする前に、逃げ道を提供しておくのは当たり前だ。」

「でも、自分のグループだけそういう案内をしなくてもいいだろ?」

「自分のグループだけじゃないよ。お前が、ばたばたしている時に、思川さんと宮古には、『疲れた方はお部屋にお戻りいただいてけっこうです』という案内をすることを伝えた。」

「え?そうなの?」

国定が、思川と宮古のほうを向くと、二人とも頷いている。

「確かに言われた。私たちも一応同じ案内を、自分のお客様にはしたの。退席されたのは私のグループで一人。宮古さんのほうが・・・」

「うちは全員残りました。」

「うん。僕のグループと君たちでは、条件が違うからね。」

「なにが?」

駒形が言う条件の違いを、国定は分からずにいた。

「宮古のグループは、昨日、ブエノスアイレスからリマに入ってきただけだ。四つのグループのなかでは、今朝の時点で一番体力的に余裕があったと思う。しかも、18人のグループだから、大型バスが手配されていた。当然乗り心地が良い。車内でもゆっくり寛げたはずだ。」

「はい。確かにそうでした。」

「思川さんのグループも、バスは大型だった。でも、僕のグループは11人と少なかったから、バスは中型のポンコツだった。クッションはイマイチだし、エンジンの音はうるさいし、決して乗り心地は良くなかったよ。あまり寛げなかった。しかも朝の三時半発。手配内容に恨みはない。仕方ないよ。でも、だからこそお客さんの体調には気を付けていた。実際、ディナー会場に集合されたとき、うちのグループのお客さんが、一番元気がなかった。」

「・・・わかった。でも、先に相談してくれても。」

「お前が、そんな広い視野で物事を判断できるわけがない。了承するはずがない。僕は、自分の判断でお客さんの健康を守ったんだ。」

国定が唇をかんだ。

「まだあるぞ。聞くか?」

駒形が止まらなくなった。


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昨日、コールセンターの職場で、東京の新規感染者数が少ないことが話題になった時、「連休が重なったから少なかったんでしょう」と、けっこう冷めている人がいた。

いや、実際は、そんなことない。確かに253という数字は、検査数が少ないおかげで出た数字かもしれないが、ピーク時に20%以上あった検査の陽性率は6.1%まで落ちている。まちがいなく、新規感染者数は減少している。

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LINEに東京都-新型コロナ対策パーソネルサポートというアカウントがある。ここと友達になると、毎日、新規感染者数や重症者数が、都の発表とほぼ同時に送られてくる。過去の平均ではあるが、検査数も記載されており、過去のそれと照らし合わせてみても、減少は明らかだ。なお、このサイトはウェブでも検索できるので、様々なデータを見ることができる。

 https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

 (これです。勉強になるからぜひご覧ください)

これまで静かに動いていた旅行会社も、準備してきた秋以降の国内ツアーを前面に出しつつある。

意外だったのが、ワクチン接種を二回済ませたことを参加条件にしているところが、いくつかあることだ。国がワクチンパスポートを実施する前に、自分のところで実行してしまっていることになる。一部のお客さんから反感を買うことを承知で、「安心」を売りにしているのだろう。

安心のほかに、もうひとつ思い付くことがある。以前のGO TO キャンペーンの時に、国内添乗をした際、移動中のバスの中で、平気でマスクを外して過ごしている参加客が何人かいた。

「喋っていない時はいいじゃないか。」

「個人的には、マスクはそれほど重要とは思えない。」

「好きじゃないんだ。どうしてもしなくてはだめか?」

マスクの着用が参加条件のひとつであったのに、大変だった。その都度、説得したものだ。

「話していなくても、飛沫が飛ばないわけではありません。また、急にくしゃみや咳が出た時は、飛沫を止められません。周りの方に迷惑です。」

「お客様の意見ではなく、行政からの指導でそうなっています。ご協力ください。いただけない場合は、会社に報告して、次回からご参加いただけなくなる可能性もあります。」

「好き嫌いの問題ではありません。つけてください。他のお客さんの精神衛生もお考えください。」

変な・・・いや、個性的なお客様がけっこういらした。ワクチンを接種するということは、自分の健康を守るだけでなく、国の政策に協力しているということでもある。二回接種済み限定というのは、案外、個性的過ぎるお客様の回避につながるかもしれない。

 

問題は、体質で接種をできない方だ。ワクチン二回接種を条件にしている会社では、その先の対応が二手に分かれる。

まず、「二回のワクチン接種、または72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明」としているところ。次に、ワクチンだけで、ワクチンなしのPCRの陰性を条件に含めていないところだ。

これについては、テレビで医師が興味深いコメントをしていた。

「同じ陰性でも、ワクチン接種済みとPCRのみではリスクが違う。ワクチン接種なら、感染する確率、重症化する確率、感染している場合でも他人を感染させる確率すべてにおいて、一通りリスクを避けていると言える。しかし、ワクチンなしのPCRに陰性が出ても、検査から結果が出るまでの間に感染しているかもしれないし、その後も感染してしまうリスクも確率もワクチン接種者より高い。

そう考えると、同じ陰性であっても、両者を同じグループに入れるのはどうかと思う。」

頷けるご意見だった。ワクチン接種のみを条件にしている旅行会社は、そのあたりを考慮してのことだろうか。

ただ、それが実行された場合、旅行会社がグループ分けするだけでは意味がない。ホテルの宴会場やレストランでの食事場所でも、ある程度対応が問われるだろう。下手したら差別的に映ってしまうから、分からないように区別しないといけない。

ちなみに、この区別は差別ではないと思う。永遠に続いてしまったら差別だが、あくまでコロナ禍の中でのみの「区別」だ。いつまでと聞かれたら困る。が、ペスト、スペイン風邪など世界的に流行した疫病でも、永遠に人々を苦しめたものはない。コロナにもきっと終わりが来る。その時までの「区別」だと、消費者には割り切っていただきたい。

といっても、ワクチン接種を条件にしている旅行会社は、まだ少数派だ。ワクチンを推進している動きとしては変わらないが、接種した方を対象に「ワクチン割引」をしているだけでのところが大半だ(ただし、PCRは義務。検査を旅行代金に含んでいるところもある)。

 

11月。希望者の大半がワクチンを接種しているであろう時期に動こうとしている国内ツアーは、GO TOの時期同様、またもや一時的な復活に終わるのか。それとも、海外旅行再開につながるものなのか。またもや手を合わせて祈る。僕も、リクエストされている国内添乗があるから、とても気になる。
ワクチンコールセンターの契約は、11月いっぱい。その頃、どうなっているだろうか。
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