マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

こんにちは。海外添乗員のマスター・ツートンです。天使の添乗員です。

長年している海外添乗員という仕事の中で、経験したことを、ドキュメント小説風にシリーズとして書き上げていきます。

海外旅行好きの方、旅行や添乗のお仕事に興味のある方は、ぜひお立ち寄りください。時には、旅の情報も載せますよ。

コメントはお気軽に。返信は必ずします。ただし、誹謗中傷や内容に関係ないものは、ただちに削除いたします。

今日は、墨田川を水上バスに乗って浅草まで行き、帰りは歩いて帰って来ようとしていたのだが、都が運営している水上バスが、年明け8日まで運航中止となっていたため、あきらめた(観光船は運航。なお、密を避けるため、浅草寺でのお参りは予定していなかった)。

 

人を動かさないようにするための運航中止は、緊急事態宣言以来だ。仕方なく近所の散歩で済ませたが、年末のこの時期にしては人が少なかった。地元の人はともかく、遠くからの人は殆どいなかったような気がする。

 

感染者が増えて、国が呼び掛けて、ようやく緊張が高まってきたのだろうか。

 

僕は、明日民間のPCR検査を受けてくる。一週間ほど前に予約した。

今年の3月に海外添乗が完全になくなってしばらくは「海外に行ってたんだろう?コロナ大丈夫?」と言われて、その後に実父が亡くなって、実家に帰った時は「東京から来たんだろ?コロナ大丈夫?」と言われて、国内添乗を始めたら、仕事再開を祝ってくれる一方で「たくさんの人と接してるんだろ?コロナ大丈夫?」と言われて・・・ずっと警戒される側の人間になっている。

 

発熱もその他の症状もない。自分が接した人にも出ていない。感染対策も自分なりにしている。感染している確率は低いと思うが、それを胸を張って言える「心理的な印籠」が欲しくなってので行ってくる。

もし、陽性だったら死ぬほどショックだが・・・。

 

さっき最寄りの神社で「陰性であること」を祈り、お参りしてきた。明朝に行ってきます!

登場人物(詳しい紹介は、エピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者で、ストーリー中の添乗員。

 

色白OLさん

ただ泣いたわけではなかったかもしれない。


素敵な帽子さん

色白さんの同僚で、一緒にご旅行されている。

 

マダム無邪気さん

彼女が諸悪の根源と思われていたが・・・

 

マダム姉御さん

口数の少ないしっかり者のイメージだったが、喋り始めた途端に預言者に昇格しつつある。

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「お疲れさま♪」

 

爽やかな笑顔の二人。僕の肩を叩いたのは素敵な帽子さんだった。走ってきたのだろうか?少し、息を切らしている。

「あれに乗ってきたんです。」彼女が指差したのは、あの恐怖のタワーハッカーだった。あの高いところから落ちる趣味の悪い乗り物。僕は、後楽園遊園地で一回乗ったことがある。あまりの怖さで悲鳴さえ出なかった。落ちていく時に、涙が出てきたが下に流れず、上にあがっていったのを覚えている。

「そう。めいいっぱい遊んでますね。最後まで遊んでいきますか?僕はもう帰るけど。」

「他の方はどうされたんですか?」

「もうお帰りになったみたいですよ。一部の方はお見送りしました。」

「無邪気さんたちは?」

「さっき、そこからタクシーに乗ってお帰りになりました。」

「ふーん・・・。」

素敵な帽子さんが、色白さんをチラッと見て、僕に言った。

「ねえ、ビール飲みに行きましょうよ。いいバーとか知りませんか?ここ、カールス・バーグの本場でしょ?ね?ね?」

帰国日は、ゆっくりの出発だった。夜の10時半からの飲みは、少々遅かったけど、色白さんも素敵な帽子さんも僕より少し年下で、しかも女性。お客様とはいえ、ある程度楽しんで気楽に飲めるだろう。そう甘く考えた僕は、喜んで誘いに乗った。

 

この二人とは、ツアーの後半、食事のテーブルがよくいっしょになった。特に夕食時は、ほぼ毎日だった。添乗員にもよるが、僕は、お客様と常に食事をご一緒させていただく。なんだかんだいって、お客様と落ち着いた会話をできるのは食事中くらいだし、体調が悪い方、ばて気味の方を見つけるのにも食事が一番役立つ。食が進まないお客様に声をかけると、実は、体調が好ましくないことが多い。食欲は、体調のバロメーターである。(旅行会社によっては、添乗員に、常にお客様との食事中同席を義務付けているところもある)

普通は、毎回違う方々と食事をする。お客様が全員おかけになった後、余った席につくので、自然とそうなるものなのだが、なぜか、色白さんとと素敵な帽子さんとは、同じテーブルになることが多かった。

 

最初に入ったバーは、きれいなお姉さんがビールを注いでくれるところだった。女性としては、かっこいい男性に注いで欲しいというので、隣のバーへ。キャッシュオンスタイルのイギリス式パブの店。日本でカールスバーグというと、普通はラガータイプだが、本場では他に、エールと黒がある。彼女たちは黒、僕はエールを注文した。僕がまとめて三杯分を払おうとすると、

「あ―――!だめだめ!!ここは私たちが誘ったのだから、私たちが払います。」

と、いった具合に払われてしまった。かっこつけたのにな。

さて、席についていよいよ乾杯。パイントグラスを傾けてビールを口に運んだ。うまい。その銘柄の生まれ故郷で飲むビールは、本当に美味い。世界で一番カールスバーグがおいしく飲めるのはデンマークに間違いない。

そこから、楽しい会話が始まるかと思いきや、素敵な帽子さんが何やら盛んに色白さんを促している。肘でつついて、「ほら!ほら!」といった具合に。そして、色白さんは、ようやく決意したかのように、

「ツートンさん!今日のディナーの時だけど・・・すいませんっ!」

平身低頭ではなく、“やっちゃったー”系の謝り方だた。僕の頭の片隅には、姉御さんの顔が浮かんだ。

「今日の夕食のことですか?」

「はい。びっくりしたでしょう?いきなり立ち上がって・・・」

「しかも泣いてるしー()

素敵な帽子さんが横からちょっかいを出した。色白さんは、「うるさいっ!」と言って素敵な帽子さんの腕を叩き、また僕のほうを向いた。

「でも、あれは無邪気さんが悪いですよ。気にしないでいいんじゃないですか?」

「違う!違う!!それ違うの!!」

顔は笑っている。色白な顔は、ほんのりピンク色に染まっていた。ビールだけのせいではないだろう。喋り口調は真面目だ。横では、素敵な帽子さんが頬杖をついて見守っていた。

「確かにムカつくとを言われたけど、、たったあれだけで、あんなに腹を立てるはずはないでしょう!?」

「実は、今だから言えますけど、席を立つほどのことでもないかとは思っていました。」

「そうそう!そういうことです。実は・・・」

色白さんは堰を切ったように話し始めた。無邪気さんの前に、他の方々からも、しばしば似たようなことを言われていたという。つまり、色白さんのメンタルが負の方向に向かっているタイミングで、たまたま地雷を踏んでしまったのが、無邪気さんだったというわけだ。

僕は、全然気づかなかった。お客様の会話には、ある程度はアンテナを張っているつもりなのに。

 

「それはそうですよ。だってツートンさんの前では、誰もそんなこと言わないもん。」

色白さんが話し始めた。

「え?」

「ツアーの後半から私たちが、ツートンさんと同じテーブルで食事をすることが多かったのを覚えてます?あれ、偶然じゃないんだなあ。」
「ええ?」
食事の度に結婚しているのかとか、子供がいるかとか、昔の自分の苦労話などのお説教に耐えかねた彼女たち。たまたま僕と一緒のテーブルになった時、以前、一緒したご夫婦、特に奥様たちの態度が全然違うので、びっくりしたという。ひょっとしたらと思って、その後も僕と同じテーブルになるように工夫してみたら、これまでうるさかった人たちと一緒になっても、全く問題なくなったそうだ。

 

このツアーの参加客は22名で、一人参加はなし。みんな夫婦なり友人同士などのペアだった。僕を含めて23名だから、必ず奇数のテーブルが出来上がる。そこに入れば、必ず僕と同じテーブルになれたわけだ。

 

そんな駆け引きがあったとは。次々と僕が把握していない真実が浮かんできた。
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iPhoneのパノラマ機能を使って撮影したフィヨルドの写真。クルーズ船でソグネフィヨルドから、ネーロイフィヨルド(右)とアウランドフィヨルドを同時に見渡せる。撮影場所としては、わりと貴重なスポットなので、お客さんには、必ず案内している。

登場人物(全体的な登場人物はエピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者であり、作中ツアーの添乗員。気を利かせているつもりが、実はいろいろださい。

 

マダム無邪気さん

いろいろ言うが、無邪気なキャラでツアー中乗り切ってきた。しかし、最後に地雷を踏んでしまった。

 

マダム姉御さん

無邪気さんの姉、母親、お目付け、ばあやなど、様々な面を見せるが、今回は完全な姉御キャラ。

 

色白OLさん

無邪気さんが踏んでしまった地雷。

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚。彼女と同じ地雷を持っているはずなのに、なぜかこちらは不発に終わった。

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「もちろん、悪いのは無邪気よ。言ったことは、確かに色白さんにとって不愉快だもの。私も、彼女の暴走を止められなかったのは悪かったし、ちょっと責任を感じて、いろいろ考えたの。自分たちのことを棚に上げて、なんなんだけどね、あそこで怒って、泣いて席を立つって、あとで考えてみてね・・・うーん・・・腑に落ちないのよ。」

無邪気さんが帰ってきた。荷物を整えて席を立つ二人。

「ツートンさん、10時半に集合だったわよね?集合時間を無視して勝手に帰っていいっておっしゃってたけど・・・この時間なら他の方々は帰ったと思うわ。でも、色白さんたちは来ると思う。」

「え?・・・どうしてですか?さっきは、自分たちで帰るって言ってましたよ。」

「私が彼女たちの立場だったら、私たちに対してよりもあなたに対して申し訳ないと感じるわ。謝るとまでいかなくても、なにかお話したいことはあるはずよ。心配かけてしまったなぁ・・・と思ってるんじゃないかしら。だから来る。」

「そうかなあ・・・。」

「それにね、さっき、集合時間よりもだいぶ早くロビーに来たでしょう?いつも、あの二人はギリギリに来るのに。私たちじゃなくて、あなたに話があったから早く来たんじゃないかしら。でも、私たちが先にいたから、無邪気に声をかけて、あなたには何も言えなかったのかなって思うのよ。明日は帰国だし、落ち着いて話せるのって、今晩だけでしょ?それに気付いたら、集合時間に来るわ。」

 

姉御さんと顔を合わせながら僕は考えていた。これより前に、色白さんを怒らせるようなことを、無邪気さんが言ったのではないか・・・。でも、この友人同士の二組が同じテーブルを囲ったのは、間違いなく今晩が初めてだ。観光中も特に一緒にいた印象はない。一番長く話したのが、今日のディナーだろう。席について、前菜が終わって、メインディッシュが出る前までの約30分間。

「姉御さん、お二人が色白さんたちと話したのって・・・?」

「今晩がはじめてよ。バスの席はいつも離れていたし、観光中だって、他愛もない話しかしてないわ。いっくら考えても(なぜ無邪気さんの一言で怒ったのか)思いつかない。」
「・・・・・・・・。」

「ね?あの一言が失礼だったとしてもね、変なのよ。」

「実は僕も、失礼にしても泣くほどのものでなないと・・・」

 

「ねえ、なに?なんの話??」

トイレから帰ってきた無邪気さんが会話に入ってきた。

「別にあんたの悪口じゃないわよ(笑)。帰りましょう。」

そう言って歩きだした。無邪気さんは、どうやら姉御さんには従うしかないようで、多少不満そうな顔をしながらも、その後を追った。

あれ?でも、おかしい。タクシーに乗ると言ったのに、反対側のゲートに向かっている。

「姉御さーん!タクシーは、こっちのゲートの前ですが!」

二人は、一瞬固まった後、「きゃ~!!」と照れ隠しで叫びながら、吉本タレントばりのオーバーリアクションを取った。

「そう言われたわよね、ほんと、どうしようもないわね(笑)。こんなだから、ツートンさんも、いつになっても安心できないのよねぇ。あっはっはっはっはー!」

ずっと大笑いしながら、半分腰砕け状態で今度こそタクシー乗り場に向かった。最後にばっちり決められなかった姉御さんだが、少しだけ真顔になって、アドバイスをくださった。

1030分に来なくても、40分までは待ちなさいよ。」

二人が揃っている時は、いつも無邪気さんばかり喋って、姉御さんは、「そのへんににしなさい」と「いい加減にしなさい」くらいしか言わなかった。こんなに長く、姉御さんとお話したのは、ツアー最終日にして初めてだった。

これほど記憶をしっかり整理して、それをご自身の観察力に生かせるとは、なんてすごい方だろう。

そして、色白さんたちへのお気遣い。「あの一言で、あれほど怒るのは、腑に落ちない」としたうえで、なにか別の要因があるのかもしれないと、心配していた。同時に、僕のこともお気遣いくださっていた。

 

10時25分。集合時間の5分前に僕は、メインゲートに向かった。今回のグループは、皆、集合時間をきちんと守っていた。が、どなたも来ない。と、いうことは、みなさんご自身でお帰りになったのだ。それでも10時30分までは待たなくてはならない。いや、どなたもいらっしゃらなくても、40分まで待たなくてはならない。姉御さんにそうアドバイスをいただいた。

 

10時35分を過ぎた頃、星が目立ち始めた空を見上げていた僕の肩を、ポンと誰かが叩いた。

「お疲れ様♪」

色白さんと素敵な帽子さんが、爽やかな笑顔で立っていた。

とりあえず、ここまでは姉御さんの筋書き通りだ
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このツアー中、最も盛り上がったゲイランゲルフィヨルドの風景

登場人物(全体的な登場人物はエピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者であり、作中ツアーの添乗員。気を利かせているつもりが、実はいろいろださい。

 

マダム無邪気さん

いろいろ言うが、無邪気なキャラでツアー中乗り切ってきた。しかし、最後に地雷を踏んでしまった。

 

マダム姉御さん

無邪気さんの姉、母親、お目付け、ばあやなど、様々な面を見せるが、今回は完全な姉御キャラ。

 

色白OLさん

無邪気さんが踏んでしまった地雷

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚。彼女と同じ地雷を持っているはずなのに、なぜかこちらは不発。

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チボリ公園に到着して、園内マップと、アトラクションの乗り物チケットの購入方法を説明して自由行動にした。

「一応、10:30を集合時間にします。ここ(メインゲートそば)でお待ちしていますが、先に個人的にお帰りいただいてもけっこうです。1030を過ぎた場合は、それ以上はお待ちせずに帰りますからご了承ください。」

30~40代の4人は、「集合時間には来ません。自分たちで帰ります」と言い残して、さっさと離れていった。

残った14人のうち、8人は僕にお勧めを聞いてきて、すぐに自分たちで動き出した。6人の年長組は、すぐに自分たちだけで行動するのは不安ということだったので、しばらく僕がご一緒することになった。その中には、無邪気さんと姉御さんもいらした。

少しずつ陽が陰ってきて、僅かに明かりが灯った園内は、昼間のテーマパークとは違い、大人っぽい雰囲気を醸し出していた。一通り園内を歩いた後、僕を含めた7人は、庭園を広く見渡せるカフェに席を取った。

夕方の涼しい時間帯。きれいな庭園とおいしいコーヒーのおかげだろうか、話に花が咲いた。内容は、このツアーの観光の話。

何度も書くが、今回は奇跡的に快晴が続いた。出発前の週間天気予報は悪かったから、余計に感動が大きかった。これ以上、北欧の大自然を楽しむのは無理ではないかというくらい、毎日青空が広がっていたのだから、観光の話が盛り上がるのは当然だった。

夜も遅くなり10時を過ぎた。来園した時から比べると薄暗くなってきたが、夏至の東京の夕方7時くらいのものだ。濃紺の空にはろくに星も出ていない。

北欧では太陽の動きが日本とは違う。太陽は真っすぐ地平線に落ちていかない。緩やかな坂道を転がるように落ちていく。だから、地平線に太陽が近づいてからも、日没にはかなりの時間がかかる。

北欧での時間の流れがゆったりと感じるのは、この太陽の動きのおかげかもしれない。逆に言うと、暗くならないから、注意して時計を見ていないと、知らないうちに時間が過ぎている。

 

「もうすぐ10時になりますよ。」

話し疲れたように見えたお客様たちに声をかけた。

「え?明るいから全然気づかなかった。」

ツアー最終日まで、なかなか沈まない太陽を経験したお客様のうち4人は、それぞれに席を立ち、ホテルへ向かった。残ったのは、無邪気さんと姉御さんのみ。この二人は、典型的な年配のツアー客で、とにかく常に添乗員におんぶにだっこの人たちだ。簡単な道とはいえ、自分たちだけではホテルに帰れないだろうと思い、

「あと30分で最終の集合時間だから、このままご一緒しましょうか?」

と、聞いてみた。すると、

「いえ、これくらいなら自分たちで帰れます。ツアー中、同年代の方々が、自分のことは自分でなさるから、何もかも添乗員任せの自分たちが、けっこう恥ずかしかったわ。ホテルの名刺もいただいたし、タクシーの運転手にこれを見せればちゃんと連れてってくれるでしょう?だから大丈夫です。」

姉御さんがそう答えて、「それでいいでしょ?」という視線を無邪気さんに送ると、

「私たちばっかり、あなたを独占するわけにはいかないし、姉御んと二人だから、なんとかなります。・・・あなたには、迷惑かけてしまったし。・・・彼女(色白さん)にとっても、本当大きなお世話だったわね。・・・なんか、あれくらいの子を見たら、娘や孫と重なって、ついつい言っちゃうのよ・・・迷惑よねえ、親でもなんでもないんだしね・・・。」

後悔のため息をついた後、無邪気さんはトイレに向かった。

 

「まあ、いい意味でも悪い意味でも天真爛漫なのよ、彼女は。」

姉御さんが話し始めた。

「何か揉め事があったら、『自分は悪くない』とは言わない人よ。相手に全部責任を押し付けるようなことは絶対にしないの。そのくせ、言っていいことと悪いことの区別がつかない時があるのよ。もう少し考えてくれたらいいのにね(笑)。でも、部屋で私がお説教してた時も、ずっと打ちひしがれていたのよ。」

「・・・・・・・・。」

「言葉がない?(笑)でもね、本当に手間ばかりかかって、その上、一切他人に気遣いしない人なら、私も一緒に旅行しないわよ。」

「そうですね()まあ、僕はいいんです。お客様同士で解決してくだされば。参加者同士の喧嘩と言っても、大人同士ですからね。僕が感情をなだめることができても、仲直りさせたり、解決したりはできません。」

「そうね・・・。でも、大騒ぎにならなくてよかったわね。」

コーヒーの支払を終えた。まだ、無邪気さんは帰ってこない。

「ねえ、私ね、ひとつ気になることがあるの。色白さんなんだけどね・・・。」

「なんですか?」

「うーん・・・。なんであんな簡単に怒ったのかしら?」

「それは、言われたくないこと言われたからでしょ?結婚の話とか・・・」

おとなしく話す姉御さんが、珍しく僕の言葉を止めて話した。

「いえ、そうなんだけどね。ツートンさんも一緒のテーブルにいたから分かるでしょう?無邪気は、確かに言ってはいけないことを言ったかもしれないけど、長々お説教をしたわけじゃないわ。ほんの一言よ。イライラしても、あんなにヒステリックになるようなことじゃないわ。」

確かにそうだ。あのディナーで色白さんが怒り出したシーンはよく覚えている。普通に談笑している中で、無邪気さんが、海外旅行によく行くのかと色白さんと素敵な帽子さんにたずねて、その流れの中で、

「いいわね。若いうちからこんな旅行ができて。独身なんでしょ?早く結婚して子供つくればいいのに。相手いないの?旅行なんて歳をとればいくらでもできるんだから。」

それだけだ。それ以前の会話はいたって普通だった。内容的に、決して愉快なものではないにしても、いきなりディナーの席を立つほどの一言でもないように思えた。
これまでの極めて常識的で、年配の方々に優しかった色白さんのことを考えると、余計に不自然だった。

登場人物(詳しくはエピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者で、作中ツアーの添乗員。未熟で鈍い。でも、必死に一生懸命やっている。

 

マダム無邪気さん

みなさんから可愛がられている無邪気でかわいい60台後半のマダム

 

マダム姉御さん

無邪気さんの親友であり、お姉さん役であり、お目付け役。60台後半

 

色白OLさん

不覚にも、最後のディナーで無邪気さんと火花を散らしてしまったが、夕食後の外出集合時間には、きちんと現れた。30代半ば

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚で、今回は一緒にツアーに参加している。同じテーブルで、同じことを無邪気さんから言われているはずなのに、なぜかへっちゃら。ネームの由来は、おしゃれに帽子を被り分けてることによる。

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ディナーが終わった。最終日に宿泊していたのは、デンマークの首都コペンハーゲン。夕食後は、チボリ公園というテーマパークに案内することになっていた。岡山県倉敷市の、あのチボリ公園の本家本元である。規模は小さいが、昼は家族連れが多い遊園地で、夜は遊園地を兼ねた大人の遊び場になる。おいしいレストランもあるし、野外でジャズコンサートなども行われる。観光客だけでなく、地元の人々にも愛されているテーマパークだ。

このツアーでは、ツアー料金に、チボリ公園の入場料が含まれていた。ただし、テーマパークに興味がないと言う人もいたので、この日は、希望者だけ連れていくことにした。22人中、前もって希望したのは18人。その中には、色白さんも無邪気さんも含まれていた。果たして、あんなことがあった後で、集合場所に現れるのだろうか、気になった。

 

集合時間は夜の8時15分。僕は7時55分からロビーで待機した。僕がロビーに行って間もなく、一番最初に現れたのは、無邪気さんと姉御さんだった。姉御さんが、無邪気さんに、僕のところに来るように促している。彼女は気まずそうに僕のそばにやってきた。

「あの・・・ツートンさん、さっきはごめんなさい・・・。今、散々姉御から怒られたの・・・。あなたにも余計な気を遣わせちゃったし、色白さんたちには、本当に申し訳なかったわ。」

そう言って、うつむいた。子供がしょんぼりしたような顔。この世の終わりのような顔。本人に自覚はないかもしれないが、このしょんぼり顔は、彼女の人生の中で、大きな武器になっていたに違いない。なにか怒っていても、こちらからそれ以上は言いにくくなってしまう顔だ。

得をしてきた一方で、人から何か言われにくい、叱られにくい、長い目で人生を見た場合に、得と同じくらいの損もしてきたのではないかと思う。きちっと叱ってくれる姉御さんは、とても大切な友達に違いなかった。実際、彼女のアドバイスには、よく耳を傾けていた。

 

「色白さんたちも、必死に働いて稼いだお金で参加なさっています。無理して仕事の調整をして・・・。素敵な帽子さんから聞いたんですけどね、二人とも旅行前の一週間は、毎日終電まで働いたそうです。」

「そうよね・・・。みんな頑張ってるのよね。私たちの子供といっしょよね・・・。」

うつむいて、少しの間黙った。

「ねえ、ツートンさん・・・私ね、ずっと頑張って夫を支えて、子供を育てて・・・やっと60を過ぎてから旅行できるようになったの。必死だったの。あの子たちの年頃の時は、海外旅行なんて考えられなかったの・・・。必死に頑張ったのよ。それを少しでも分かってほしかったの・・・。」

気持ちは伝わってきた。あの場に相応しい話かどうかはともかく、その言い方で仰れば、色白さんもあんな風にはならなかったはずだ。

「それでは、そういう風に言いなおしましょう。(ちょっとニヤリとして)でも、お説教はだめですよ。」

彼女は、肩をすくめて頷いた。

やがて、エレベーターのドアが開いた。次に集合場所に現れたのは、なんと色白さんと素敵な帽子さんだった。最後のディナーを途中退場したので、気分的に参加されるか心配したのだが、行く気になったようだ。そういえんだ、チボリ公園のことは楽しみにされていた。・・・と思いきや、よりによって、今集合場所にいるお客様は、先ほど騒ぎを起こした二人とその友人たちだけだ。なんというタイミングの悪さ。

 

エレベーターを降りた二人。こちらに気づいてから、なにか話し合っているのが見える。無邪気さんと姉御さんは、彼女たちに背を向けて僕と話しているので気づいていない。そのうち、色白さんが真っ直ぐに向かってきた。無表情で怖い・・・。

ソファに座っていた無邪気さんは、色白さんに気づくと立ち上がって出迎えた。何かを言おうとしたとき、それを遮るようにして、色白さんが先に言葉を発した。

「さっきは、ムキになっちゃってすみません。大人げなかったですよね、私・・・。」

え・・・?予想外の色白さんの先制パンチに、僕は呆気にとられた。先に謝られてしまったは無邪気さんも完全に動揺していた。しどろもどろに謝る彼女に対して、色白さんは、

「いや、私が大人げなかったです・・・。もう最後だし、お互いに楽しみましょう。ね?」

と言ってニコッと笑い、その後の相手の言葉を遮り、誠に鮮やかに会話を終えてしまった。

あとから集合場所に現れた他のお客様に対しても、素敵な帽子さんと笑顔でごあいさつされている。まるで、先ほどは何もなかったかのように。かなりの役者であるとは感じた。

 

集合時間ちょうどに希望者が揃い、歩いてチボリ公園へでかけた。この時期のコペンハーゲンは、11時を過ぎてようやく暗くなる。8時はまだ明るい。この時間の外出は、“午後のお散歩”のようだった。
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古き良きコペンハーゲンの様子を残すニューハウン地区



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