マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

こんにちは。海外添乗員のマスター・ツートンです。天使の添乗員です。

長年している海外添乗員という仕事の中で、経験したことを、ドキュメント小説風にシリーズとして書き上げていきます。

海外旅行好きの方、旅行や添乗のお仕事に興味のある方は、ぜひお立ち寄りください。時には、旅の情報も載せますよ。

コメントはお気軽に。返信は必ずします。ただし、誹謗中傷や内容に関係ないものは、ただちに削除いたします。

あくまで個人的な感覚や相性の問題かもしれないが、ルフトハンザ航空は大好きで、添乗員としてもっとも信頼している航空会社のひとつ。

本日、羽田を1時間遅れで出発。フランクフルトでの乗り継ぎが、元々1時間20分しかなかったため、計算上は20分というタイトな乗り継ぎとなってしまった。

「フライトは飛ばして定刻より20分程度の遅れで済む予定です。」
なるほど。それは助かる。でも、スーツケースの積み残しが心配だ。
「今回、ポルト行きのお客様のタグには、こちらをおつけします。」

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「このタグがついているスーツケースは、急ぎの乗り継ぎ専用のコンテナーに入りますから、よほどのことがない限り積み残しに合いません。確約はできませんが、おそらく大丈夫です。」

果たして、間一髪ではあったが、乗り継ぎはうまく行った。荷物もお客さんの分も僕のものも、全て届いた。

さすが!長い添乗員生活において、乗り継ぎが絡んで、たったの一度でさえロストバゲージがない唯一の航空会社。ルフトハンザだけある。

みなさんは、どんな経験をされているかわからないけど、僕の中では、何かあった時に踏ん張ってくれる、最も信頼できる航空会社のひとつ。
これからもよろしくお願いします。

さて、今晩からポルトに三連泊。お客さんの部屋の不備に備えて、チェックイン後、1時間はフロントに待機するのが、この取引先のルール。とりあえず、なにもないようだ。
僕も寝よう。おやすみなさい。

あ、日本ではおはようか。
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先ほど、となりで受付していた添乗員とお客さんのやりとり。

「お客様、お顔を覚えたいので、マスクをお取りいただけますか?」
「はいよ。」
「どうもありがとうございます。」
「僕の場合は、これ(ツルツルの頭を指さして)が目印になるよ」
「いえ、そういう方は、他にもたくさんいらっしゃいますから」
「え?」
「え?」
「え?…やだ、ごめんなさい!」
一瞬固まったご年配夫婦は、その後すぐに爆笑。苦笑しながら真っ赤な顔をしている添乗員。
僕にしてみると、彼女が言ってしまったことより、真っ赤になっているところが面白かった。
添乗員が、リアクションに困る発言をお客さんがすると、たまにこんなことになります。
案外、こんなのがきっかけになって、仲良くなることもあるもんですが。

では、行ってきます。 
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今回の行き先はポルトガル
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「ツートンさん、私、ここの観光に参加しないでバスで待っています。いやね。会社のミーティングに参加しないといけなくて。いや、同僚から頼まれたんですよ。聞いているだけでいいから、この会議には参加してくれって。」

こんなことを仰るお客さんが増えつつある。

その度に僕は、不満そうな顔をしていたのかもしれない。今まで、どの方も付け加えた。

「無粋ですみませんね。でも、気を遣わせないように、他の方には分からないようにしますから。」

一頃流行った「忙しい自慢」はしないから、そこはいい。仰る通り、他の方々にも分からないようにされていたから、そこも文句はない。

でも、「無粋ですみませんね」というお客さんたちの言葉に対しては、本当に無粋だなと思っていた。海外旅行という「現実から離れた異世界」に、「会社の会議」という現実を持ち込んで欲しくないのが、案内人としての希望だ。

「ズームでその会議に参加できるから、このツアーに来られた。もし、それができなかったから、長期の休みさえ取れなかった。」

という反論はあるだろう。

でも、「聞くだけで良い会議」は、果たしてその方にとって、生で参加しないといけないほど大切なものなのだろうか。議事録を確かめるだけではダメなのか。僕も、サラリーマンの端くれだったことがあるから、少しは分かるつもりだが、その人にとって本当に大切な会議なら前後がある。事前準備や決定事項に基づいた会議後の調整が必要だ。それこそ最初から海外ツアーなどに参加できるはずがない。・・・と思ってしまうのは間違いだろうか。

ズームは確かに便利だ。僕もコロナ禍真っただ中に、そのおかげで自宅にいながら旅行会社のオンラインイベントに参加できた。

オフィスにいなくても仕事ができる便利さは、21世紀のドラえもん型アイテムだ。でも、自宅出勤でない休暇中にそれを使うのは、21世紀型ではあってもドラえもん型ではない。夢がないという意味で。

ひょっとしたら、「同僚に頼まれて」というのは単なる言い訳で、会議への参加は、その方の義務感であり責任感であり、単に性分によるものかもしれない。だとしたら、気持ちを切り替えて旅行中に仕事のことは忘れて欲しい。旅行中は、もっと真剣に遊びに集中して欲しい。

もし、休暇中の部下や同僚にオンライン会議への参加を求める人がいるなら、控えていただきたい。それって働き方改悪だと思いますよ。休みは休みですよ。

あまりやり過ぎると、いつかメディアで取り上げられてしまいますよ。
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こんな風景を見ながら会議できますか?僕には無理です。
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Oh!

薬局の女性店員は、僕の歯の様子を見ると、両手で口を覆いながら世紀の大悲劇に遭遇したかのような表情を見せた。確かに、僕の状態はそれに近いものではあったかもしれないが、それにしても大袈裟なリアクションだった。

「どうにかできませんか?」

切なく訴える僕に対して、しばし考えた後、彼女は口を覆う両手をゆっくりおろしながら言った。

「こちらではどうにもできないわ。」

そんな・・・。ツアーの残りはまだ六日間もあった。ロワールの素敵なお城を歯なしで巡れというのか。聖地モンサンミッシェルを歯なしで案内しろいうのか。パリのシャンゼリーゼ通りを歯なしで歩けというのか・・・。どれを考えても、一生十字架を背負わざるを得ないような悲劇的なシーンばかりだ。だいたい、歯がない添乗員と一緒に歩くなんて、お客さんたちだって嫌に違いない。

「昨日、ネットで調べたら、歯の接着剤のようなものがあるようだけど、こちらにはないのですか?」

「ないわ。確かに歯の接着剤はあるけれど、一般の薬局では扱うことはありません。歯医者に行かないと・・・。」

「・・・・」

茫然としている僕を、しばらく申し訳なさそうに見つめていた店員は、その場を立ち去ろうとした。

「・・・あの、すいません!」

とはいえ、諦められるはずもない。前歯がないままパリの街を行き来する自分を想像したら死にたくなった。絶対に引き下がれるはずがなかった。それはもう必死だった。

「あと六日間だけの対策でいいんです。日本に帰ったら歯医者に行きますから。この間だけ、一時的になんとかできればいんです。お願いします。」

店員は、少し困ったような顔をした後、「少々お待ちください」と言いながら店の奥に入った。そして一分もしないうちに戻ってきた。

「今、ご用意できるのはこれだけです。」

「これは?」

確かめてみると、入れ歯の固定剤だった。

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「一本の歯を固定するのは難しいと思います。ちょっと固いものを噛んだら取れてしまうでしょう。その時、欠けた歯を飲み込んでしまうかもしれない。リスクを考えたら、おすすめできません。」

「いいんです。とりあえず、前歯がない状態をなんとかできれば!」

店員は、従業員用の洗面所まで貸してくれた。

「今すぐお使いになるのでしょう?口の中をきれいにしないとだめですよ。歯ブラシして、口もちゃんとゆすいでね。つけてすぐは取れやすいから、しばらく舌で触らないように気を付けてください。」

優しい。急にお母さんモードだ。

果たして、歯はくっついた。大きく息をついても、「ばびぶべぼ」を激しく発音しても、歯が飛んでいくことはなかった。ああ、前歯があるだけで世界はこんなに違って見えるものなのか!

バスに戻って、お客さんたちの前で精いっぱい大きく口を「い」の形にして、くっついた前歯を見せると拍手が起こった。ひょっとしたら、このツアー中で一番大きい拍手だったかもしれない。

ただし、しょせんは入れ歯の固定剤だ。食事中はすぐに取れてしまうので、外しておくことになった。それ以外でも安定しているのは、せいぜい5時間くらいで、わりと細かいケアが必要だった。

「ツートンさん、歯、大丈夫?」

と、お客さんに励まされながら、なんとか残り6日を乗り越えた。

ちなみに簡単に取れないように丁寧な治療を今も続行中で、今、入っているのは不安定な仮の歯だ。もし、みなさんがどこかのツアーに参加されて、いきなり前歯が飛んだりなくなったりする添乗員がいたら、たぶん僕だ。

その時、お願いだから「ツートンさん?」とか聞かないで欲しい。本気で聞かないで欲しい。一生のお願いだから聞かないで欲しい。

おわり
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前歯が入った後のサンテミリオンの街とぶどう畑はさらに美しく見えた。これもは一本の余裕だね。
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朝、神秘的な光をたたえる外の風景に気付く。

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部屋の前に広がっていたのは、黄金色に輝くぶどう畑。でも、まだ僕の歯はなかった・・・。
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朝のぶどう畑は美しい
「ふー・・・」と、大きく息をつくと、欠けた歯の隙間から息が抜けていった。このように書くと、けっこうな笑いのネタではあるが、当時の僕にとっては、過酷な現実であった。

朝食会場に向かった。気の早いお客様たちが、既に何人かいらした。

「おはようございます。」

「おー。おはようございます。」

何人か挨拶を交わしていく中で、僕の顔を見ているのに目が合わない方がいらっしゃるような感じがした。同じテーブルで隣に座った女性客に声をかけた。

「お客様。」

「はい?」

「僕とお話してくださるときは、目を見てください。、歯じゃなくて。」

「やだもう!余計に見ちゃうじゃない!」

その方は、赤面しながら僕の肩をペン!と叩いた。やはり、歯をご覧になっていたようだ。

正面ではご夫婦がそのやり取りを見て笑っていた。ご主人が、

「大丈夫だよ、ツートンさん。そろそろ皆さん慣れてこられる頃だ。今さらそれくらい見ても・・・あ、ごめん笑っちゃうな。悪い悪い。」

と苦笑した。ほんと悪い人だ。面白いけど。

ホテルのチェックアウト時は、年配の男性スタッフが対応していた。いつもの僕なら、昨晩の美人スタッフ軍団がいなくて、かなりがっかりするのだが、この日はかなりホッとしていた。歯が一本ないだけで、人はこうも変わる。

観光が始まった。仕事になれば歯のことなど気にはしていられない(というつもりでいただけかもしれない)。朝の光に当たる美しいサンテミリオンの街を、英語ガイドの案内で快活に進めていった。

そして、バスパーキングに向かう時だ。誰かが僕の袖を強く引っ張った。振り返ると、朝食時に隣に座っていた女性客だった。

「どうかされましたか?」

「ツートンさん。バスに戻る前にあそこに行って。」

彼女が指差す先には薬局があった。

「え?薬局ですよ。」

「そうよ。薬局よ。あそこに行って、歯がどうにかならないか聞いて来なさい。」

「あそこは薬局です。歯医者じゃありません。」

「そんなこと分かってるわよ。なにかしたアイディアを出してくれるかもしれないわよ。決めつけないで行きなさい!」

「そうだ。行ったほうがいい。」

別の男性客が言った。

「明らかに昨日までと違って集中できていない。きっと歯が関係している。とりあえず、今できることを教えてもらえるかもしれない。」

「ほら。他の方もおっしゃっているじゃない。私も、今のあなたは見ていられない。・・・というか、つい見ちゃう。・・・あ、ごめんなさい。」

どこまでが本気で、どこからが冗談なのか。

「ガイドさんがパーキングまで案内してくれるから大丈夫だ。言葉が分からなくても、後からついていくくらいなら問題ない。」

「わかりました。ありがとうございます。すぐに済ませます。」

「いえ、時間かけてもいいから、歯をなんとかしてきて。じゃないと、気になっちゃって、あなたと話す時に集中できな・・・」

「行ってきます!」

最後の言葉を遮って、僕は薬局に向かった。言葉を遮ったとはいえ、こんな時間をくださったお客さんたちには感謝していた。

日本なら歯が欠けて薬局にいくだなんて考えられない。果たして、僕の歯くっついたのか。
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石灰石の家並みが美しいサンテミリオン
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