できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

これまでの登場人物は、上のリンクをご覧ください。

===============

マリネされた生の白身魚を、美味しそうに食べている宮古を見ながら、

「やっぱり白身魚が入ると美味しそうだよなあ。」と、駒形は思っていた。実は、彼もそのほうが好みだ。

彼女が「以前来たツアーでは出た」と言っていた通り、生の白身魚入りのセビーチェを出す旅行会社はある。その一方で、生魚を苦手としている人には、それを入れないものを出す丁寧な手配をするところもある。

旅行会社によって、考え方や方針は大きく異なる。添乗員は、現場では旅行会社の窓口的役割も果たす。その方針を理解したうえで、対応しなければいけない。

宮古は、正義感が強いタイプだった。会社の方針を理解しないで、「こうするべきだ」とレポートにでも書いてしまったら、それは正義感などではない「世間知らずな幼稚な発言」となってしまう。

駒形が、彼女に教えたいのはそこだった。

宮古は、すぐに気持ちを切り替えられるタイプで、先輩と一緒に食事をしているからこそできる質問を、次々に投げかけた。会話には、現地のベテランガイドも入って盛り上がった。現場では、常に一人でいる添乗員は、なにか問題があっても、アドバイスを受けられるのは帰国後が大半だ。このように現場でいろいろ学べる機会があるのは、とても恵まれたことだった。また、それは八木崎の狙いでもあった。

そして、「ドイツの食事は塩辛いことで有名なのに、なぜツアーに出てくるものは味がしないのか」ということが話題になった時、駒形のガイドが言った。

「キリがありませんよ。私たちはもう食べ終わっているのだから、もう出ましょう。」

予定より20分も遅れていることを、時計で確認した駒形は、慌てて席を立った。彼の客たちは、ビールをおかわりするなどして盛り上がっており、「もう出るの?」という顔をしていた。

 

入れ替わりで、国定のグループがやってきた。

「おつかれ。」

と、お互いに声をかけてすれ違った。彼のグループもまたご機嫌だ。やはりナスカの地上絵の威力は絶大だ。国定が駒形に声をかけた。

「今晩、民族舞踊のディナーショーだけど、手配がこんな感じになっているんだ。ホテルに着いたらチェックしておいてくれよ。お前が最初に帰ることだし。」

「いいけど・・・お前が電話するだけじゃだめなの?」

「もちろん電話はするけど、会場の様子とかは、実際に見てみないと分からないしさ。ヨーロッパの手配とは違うんだ。頼む。」

「了解。」

「しっかりやれよ。」

いつもは見られない、少し威張っているような口調だった。駒形は、いつもと違う国定の様子に、気付き始めていた。

いくつかのグループが、同じホテルに集まってイベントを開催する場合、その中でリーダーが決められる。今回は、一番南米に詳しい国定が任命された。ディナーショーの段取りも、担当者と国定の間で打ち合わせが行われて、現地では彼が仕切ることになっていた。

ジェットストリームの添乗員の中で、添乗員の格としては、微妙に国定よりも駒形のほうが上だ。だが、二人が現場で一緒になった時、どちらが主導権を持つかは行先による。

駒形は、そのあたり柔軟だ。南米ツアーの経験も、そこで発揮できる力も国定のほうが上だとわかっているから、意見を言っても、基本的に彼の言うことには従う。グループがいくつか現場で重なった時は、スムーズにスマートにが信条の彼は、現場ですべきでない議論も避けた。

国定は、高い評価を得ている一方で、もう少し自分の評価が高くてもいいと思っていた。こと、駒形、桐生と三人で比べられた時、桐生は仕方ないが、常に、駒形が自分よりも上の評価だったことには違和感を持っていた。

強い妬み、嫉妬というほどではない。駒形とは、言い合うこともあるが、数少ない男性添乗員同士ということで仲も良い。桐生と三人での飲み会は、本当に楽しみだ。

だが、この南米ツアーで、駒形が自分の監視役として選ばれたことは、まわりが想像している以上に面白くなかった。

「なぜ南米で、俺が駒形に監視される。仕切るのは俺なのに。」と、ずっと思っていた。

彼を四グループすべてのリーダーに選んだのは、旅行会社だ。駒形を彼の監視役に選んだのは、派遣元の家富社長で、公式な役割ではない。ある意味、気にする必要はないし、仕事をきちんとこなしさえすればイライラすることではない。

だが、理屈ではなかった。時差ボケ対策のアドバイスも、ディナーショー会場のチェック指示も、南米における経験値やこのツアーでのリーダーとしての立場を、駒形に示したかったのかもしれないしれない。

 

こういった心理は、ちょっとした考えの違いで急に爆発することもある。

四グループとも、翌日は午前中にクスコに飛ぶということで、朝早くにホテルを出発をすることになったいた。そのため、この日のディナーショーは、夕方六時からの開始で手配された。

四人が集まって、最終的な確認が終わり、あとは客の集合時間を待つだけとなった時、国定が、急に駒形に絡んだ。

「駒形、忘れないうちに言っておくけど、ランチの時に、宮古にアドバイスしたことを聞いたんだけど、あまり自分の価値観を押し付けないほうがいいぞ。」

思川はなんのことかさっぱり分からず、宮古は「ここでそれを言うか?」という顔をした。そして、いきなり矛先を突きつけられた駒形は、訳が分からず眉をひそめた。
にほんブログ村 旅行ブログ 海外旅行へ
にほんブログ村
↑ ↑ ↑ ↑
ブログランキングに参加しています。上位に行くと励みになるので、よかったら上のバナーをクリックしてください。

FullSizeRender

https://livedoorblogstyle.jp/archives/11140907.html



いつも読んでいただいてありがとうございます。今年も、ライブドアブログ読者賞の時期がやってきました。良かったら、上のURLから入っていただき、投票してください。画像からは入れません。