http://mastertwotone2020.livedoor.blog/archives/13903767.html

登場人物は、こちらからご覧ください)
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Wボーイさん、本当にそういうの言わないほうがいいよ。女の人って、けっこう聞こえているから。」

JDさんが、本気で心配しながらアドバイスしていた。

「そうだ。言わない方がいい。」

僕が、真顔で言うと、彼女は深く頷いたが、「面白いけどね。」と付け加えると、吹き出してしまった。

「自分だって笑ってるじゃん。」

Wボーイさんが、自分も吹き出しながら指摘した。「うるさい!笑っていない!」と言いながら、彼を引っぱたこうとするJDさん。その様子は、仲が良い友人同士がじゃれあっているようにも見えた。

そこに、ガイドがやって来た。

「二人とも、アルガンオイルは買わないの?」

「母が買ってます。僕は興味ありません。」

「ひとつ小さいのを買いました。いいなとは思うんだけど、高くて。」

日本で購入することを考えると、かなりお得なのだが、確かに大学生が気軽に手を出すには、少々高い。

「そうだよね。でも、みなさんが楽しんでいるから、もう少し待っててね。」

そう言ってにこやかにその場を立ち去った。

この頃になると、ガイドが近づいてくるたびに、JDさんが構えるようになっていた。彼が誘うような言葉をかけてくるのは、周りに人がいない時だと分かってはいるのだが、なんとなく反応してしまうのだ。

「あー・・・このままいい旅行で終わりたいなあ・・・。」

少し感情的になっている彼女のつぶやきには、かなり本音が詰まっていたと思う。既に、こんなことを口にする時点で、少々嫌な思い出が残る旅になりつつあるようで心配になった。

 

その後、無事に最後の宿泊ホテルに到着した。山をひとつ超えてたどり着いた都市は、やたら暑い事に変わりはないが、砂漠地帯ではない。カラカラに乾いた砂漠から来ると、わずかに緑があるだけでも、ほんのり湿気を感じることができてほっとする。

この日から二泊する都市部の高級ホテルは、どの部屋も似たようなタイプのアメリカンスタイル。安心して部屋の割り振りができた。注意したのは、ガイドに、JDさんの部屋番号を分からないようにしたくらいだ。

ボディーガードのWボーイさんとは隣同士の部屋にした。本来なら一番危ない組み合わせだが、Wボーイさんは、お母様と一緒の部屋だから悪さはしにくい。寧ろ隣同士だからできない。我ながら名案だと思った。

今後のスケジュールを案内して、ルームキーを受け取られた方から解散ということにした。みなさんが、次々とエレベーターのあるほうに歩き始めたが、早いうちにキーを渡したJDさんは、まだロビーでモタモタしている。売店が気になっているらしい。

「早く部屋に行けよ。」と、思いながらイライラしていた。

そして思っていた通りになった。殆どのお客さんがロビーからいなくなったタイミングを見計らったかのように、ガイドが彼女のところに歩み寄った。

「あー・・・もう!」と、心の中で怒鳴りながら、仕方なく観察していた。すると、ガイドは手に持っていたものを、彼女の手にスッと渡して、微笑みながら離れて行った。おそらく、アルガンオイルが入った小さな瓶だった。

何かを渡されたJDさんは、離れて行くガイドに駆け寄って、渡されたものを差し出した。ガイドは、「返されても困る」という仕草を見せて、立ち去った。

売店にいらした女性の二人組のうち、一人が「誰も見ていないから、もらっちゃいなさいよ。大丈夫よ」という内容の言葉を、JDさんにかけているのが聞こえた。

とりあえず、この場はこれでおしまいだと思った僕は、自分も部屋に向かった。JDさんたちの様子を伺っていたことは、植木の陰になって、おそらく彼女たちからは見えていなかった。

「もう少し注意深くなってくれないかな。」歩きながら、JDさんのことをそう思っていた。ルームキーを早く渡したのだって、さっさとあの場を離れられるようにしたつもりだった。ガイドは、添乗員同様にキーが全員に行き渡るまでは、その場を離れられない。今までの動きで、それは分かっているはずなのに。

「そりゃ、ずっとそんなこと気にしていたら旅行どころじゃないだろうけど・・・売店なんて、一度部屋に入ってから、少しすれば覗きにいけるじゃん。」

注意すべきポイントを、なかなか掴めない人っている。この場合、言い換えれば「隙だらけ」に見えるということだ。男性からすると狙いやすい。JDさんは、ガイドのそういう部分を嫌がってはいるのだが、そう見えないところがあった。

友達なら、キツく指摘したいところだが、JDさんはお客さんだ。指摘はほどほどに、彼女が不愉快にならないように、それこそ文字通りに守らないといけない。「守らないといけない」というとかっこつけているようにしか聞こえないので、正直に言っておこう。面倒くさかった。

 

自分の部屋に着く前、二つ手前のドアがいきなり開いた。びっくりした。別に僕を待ち構えていたわけではなく、偶然だったようだ。お互いにびっくりした。Wボーイさんのお母さんだ。

「わ!すみません、ツートンさん驚かせちゃって。」

「いえいえ・・・。」

「あの、ついでだからお聞きしますけど、今晩も宴会はなさるの?息子から事情は伺ってます。」

「はい、そのつもりです。訳あり宴会。宴会というほどのものではないですが。」

「あの、私も参加してよろしいですか?」

「え?・・・はい、もちろん。」

W母さんが、パーっと明るい笑顔になった。
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