これは、ある市民の怒りを収めたコールセンタースタッフの、愛と勇気と正義感にあふれた話である。

 

それは、一本の電話から始まった。

「はい。ワクチンコールセンターです。」

「ちょっと、この前問い合わせたことだけど、どういうことよ!全然言っていたことと違うじゃない!」

初っ端から、怒鳴り口調での問い合わせに、スタッフは一瞬慌てたが、気を取り直して聞き込みを続けた。

「何かご不快な思いをさせてしまいましたなら、大変申し訳なく存じます。」と、丁寧なあいさつで始めて、お怒りになるまでの経緯をお話しいただいた。

当コールセンターでは、市民とのやりとりは、スタッフが決められたフォームに残すことが義務づけられている。登録されている電話番号を元に履歴を検索すると、それらしいものが出てきた。問い合わせの内容が合致していた。

電話で話しながら、過去に対応したスタッフのレポートに目を通した。そこには、市民の要望を勘違いしたスタッフの対応が記載されていた。

「まずい。このままでは、同僚が名指しのクレームに晒されるかもしれない。自治体に話が行ったら面倒だ。」

そう思った彼女は、何も知らないフリをして市民にたずねた。

「お怒りはごもっともでございます。そのような対応をした者は誰でしょうか?恐れ入りますが、名前などはご記憶されていらっしゃいますか?」

「誰か?名前・・・・・おばさんよ!!!」

思い出せない果てに、市民はそう絶叫した。名指しのクレームは避けられると思った。しかし、スタッフは、その先の気の利いた言葉を思いつかない。そして、咄嗟に大声で対応した。

「申し訳ございません!ここのスタッフの大半は、おばさんでございます!私もおばさんでございます!」

傍にいた、その時に電話をとっていないスタッフたちが、何事かと注目した。僕も注目した。彼女の言葉しか聞こえないので、みんな「いったいどんな対応なのだ」と驚きながら、様々なことを想像した。

しばしの沈黙の後、対応したスタッフが耳にしたのは、電話主の笑い声だった。

「ふふ・・・ふふふふふ・・・あははは。私もおばさんなのよー。」

そこで一気に緊張が解けて和やかな空気になり、電話主は、機嫌を直して予約をしてくださったという。

スタッフ曰く、「女性同士だからこそ通じ合えた」対応。そして「緊張と弛緩」の絶妙なタイミング。

プロのコールセンタースタッフの凛とした姿が、そこにあった。

 

※本人の話(実話)を元にしてつくった記事です。拍手の数が多いと、ますます彼女は頑張れることでしょう。
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