登場人物
毎回同じのを載せるのもなんだから、こちらをご参照ください。
http://mastertwotone2020.livedoor.blog/archives/6155172.html
香港へのフライトは、思ったよりも混んでいた。僕の隣は空席だったが、全体では9割方埋まっていたのではないか。お客様が利用されたビジネスクラスも、ほぼ埋まっていたという。コロナ事情で減便されていたため、乗客がそこに集中していたのかもしれない。
夕方に羽田を出発して、夜に香港に到着した。
いつもなら不夜城のようににぎやかな香港の空港は、静かだった。これにはコロナの影響だけでなく、ずっと続いていた大規模なデモのせいでもあった。乗り継ぎのセキュリティーでは、かなり高性能に見えるマスクを係員がつけており、手荷物検査の前に検温している。きちんとウィルス感染対策に関するお知らせも提示されていた。
「リラックスしてください。」
と、笑わないが優しい言葉をかけてくるセキュリティーのお兄さんの検温を無事に通過して、出発エリアに入った。ラウンジ前に着いたところで、僕はお客さんたちにお願いした。
「今日は、私も中にご一緒させてください。外にいても問題はないと思いますが、ラウンジ内のほうが、人と接する可能性がより低いので、念のため、安全確保ということで。」
「もちろん。そうしていただいたほうが、我々も心強い。」
E男さんがそう仰ると、D夫妻もうなずいた。こんなことは稀だが、今回は特別だ。やはり、コロナに対する緊張感はあった。検温も形式的な感じはあったが、誰もが口にする「万が一」や「念のため」という言葉の響きには、いつも以上の重みを感じられた。
少し座って、冷たい飲み物で一息ついてから、お客さんに声をかけた。
「ワンタンメン食べに行きませんか?」
「え?機内食出るのに?」
「夜中ですよ。ラウンジ内にヌードルバーがありまして、けっこう美味しいらしいのです。飛行機の中では、寝るだけでいいではありませんか。」
キャセイパシフィックのラウンジの軽食は、美味しいという話は聞いたことがあった。夜の9時頃。ちょうど小腹が空いてくる時間。ラウンジ内の食事は、一品ずつの量が軽く、気楽に食べられる。
「おー!いけますねえ!」
僕を含めた4人でワンタンメンとジャスミン茶を楽しみ、その後会話がはずんだ。温かい食べ物が、気分をリラックスさせてくれたのだろう。
E男さんは、南部アフリカは二度目だそうだ。ビクトリアの滝と南アフリカは二度目。ナミビアに来たことがなかったのと、ビクトリアの滝の遊覧飛行を経験していないので、このツアーにいらしたということだった。
D夫妻は、奥様は、最初乗り気でなかったらしい。ところが、何人かの添乗員からアフリカの魅力を聞かされて(覚えてないのだが、僕もイギリス旅行中にアフリカの魅力をかなり熱く語ったらしい)、その気になったご主人が「B社だったら大丈夫!」と奥様を説得したのだった。
「それは心配ありませんよ、奥様。アフリカは、空気乾燥してるし宿泊施設もよくてねえ!・・・」
E男さんが、D夫さんの援護とばかりにD妻さんにアフリカの魅力を語りだした。
お客様同士での会話が盛り上がる。しかもそれが旅の話だったら最高だ。変に添乗員が気をまわして会話に入ることもない。D妻さんは、途中から少しうんざりして話を聞いていた。
「みなさん、いろいろなところに行ってるなあ。」
と、僕は感心しながら、こっそりとワンタンメンをおかわりした。そして、それをD妻さんに見つかり「食べ過ぎよ」と、注意されたのだった。
そこからは、順調なフライトでヨハネスブルクに到着した。ところで、香港からのフライトも9割方埋まっていた。驚いたのが、僕らのほかにそこそこの人数の日本人グループが、3つもあったことだ。この記憶は、キャンセルされる方が増えている一方で、2月下旬はまだ、ツアーが普通に出発していることを物語っている。
ヨハネスブルクに到着して、手荷物検査場を過ぎた。ここでも
「二週間以内に中国に行きましたか?」
と聞かれたが、軽く「ノー」と答えて通過。その後、乗り継ぎゲートでC子さんと、無事に待ち合わせ。そして、最初の宿泊地、ボツワナへ向かったのだった。
カサネという小さな国際空港に到着して、入国カードと、普段は存在しない問診票を記入した。記載されている問診内容の一番最初が、
「二週間以内に中国にいきましたか?」
だった。日本を出発して、香港、ヨハネスブルクと、ずっとまとわりついてくるコロナ関係の質問や書類。コロナの影。出発直前まで、いくつもの心のハードルを越えてきた4名様は逞しかった。こんなことがあって当たり前くらいに、かるーく手続きを無事に済ませ、いよいよアフリカの旅が始まる。僕も、久々のアフリカを満喫した。
だが、一方で、日本から次々に入ってくる微妙な情報に動揺する日々でもあったのだ。