10月25日。初めて国内添乗を経験した。
朝早く集合して、山梨県への日帰りバスの旅。お客様からお土産の注文を承り、数と受け取り場所を確認。5種類も品数があり、受け取り場所が3か所もあるから段取りが大変。集金も支払いもある。慣れれば大したことないのだろうけど、商品を間違えたら大変だし、午前中は、お土産ばかり気になった。
お昼は松茸定食。遠くからいい香りが漂ってくる。胸をときめかせて、ランチ会場に案内された。お客様38人分の松茸料理。いや、ここまでくると、「香りが漂う」というよりも「香りが充満」していた。すごい。
「添乗員さんはこちらです。」
別室に通されてみると、とても美味しそうなカレーライスが用意されていた。そうか。国内の仕事は、お客様と食べるものが違うのか。がっかり感が顔に出ていたのか、係の人のフォローが入る。
「ナポリタンスパゲティーもありますよ!」
確かにおいしそうだった。松茸ではないキノコも入っていた。
38人という人数を数えるのも、なかなか大変だ。時々海外ツアーでも、時々ある人数だが、これほど人数確認は苦労しない。海外にいけば、周りはみんな外国人だから(正確には日本人の僕らが外国人)、簡単に見分けがつく。ところがどっこい、日本では、特にコロナ禍の現在では、ほぼすべての観光客が日本人だ。しかも、参加者全員がマスクをされている。他のグループの人たちとの見分けなど、一日でつくものか。もちろん一応確認はする。
「えーと、私のグループのお客様でしょうか?」
「はい!」
と、自信満々でこたえておきながら、実は違うということが2回もあった。天然な方がいらっしゃるのは、海外ツアーでも国内ツアーでも同じらしい。
日差しが強い中、サングラスをみなさんされようものなら、一巻の終わりだ。マスクとサングラス。さらに帽子。これで集団テロリストのコスプレチームの出来上がり。もはや、なにがなんだか分からない。手掛かりは、ツアーバッジとその色のみ。海外ツアーでは、あまり気にしないバッジが、国内ツアーでは、とても大切なものだった。
そんな中、あっという間に1日が過ぎた。とにかくテンポが速い速い。掴んだと思った時は、帰りのバスの中だった。そんな中、最後の挨拶はきちんとした。
「このような状況の中、ツアーにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。私は、今年の3月まで、海外の添乗のみをしていました。国内のツアーは、今月に初めて、まだほんの数本しかこなしていません(実は初めて。この仕事、初めてとはなかなか言いにくい)。GOTOキャンペーンが始まってから、国内旅行が再開したとはいえ、まさか、海外専門で仕事をしていた自分に声がかかるとは思いませんでした。その機会が得られたのは、皆様が、こうして旅行をしてくださってるからです。おかげで、私もこうして旅行の仕事の現場に、思っていたよりも、遥かに早く復帰することができました。これにつきまして、この場にいらっしゃる皆様はもちろん、すべての旅行をされている方々に厚くお礼申し上げます。」
現段階で、未熟者の国内添乗員が言うセリフではないかもしれないが、感謝だけは伝えたかった。
今は、栃木の那須にいる。初めての宿泊ツアー。今回は、バスガイドつきなので、それなりに落ち着いている。数をこなせば、慣れてくるのだろう。なにもせずに、思考が悪いことばかりに向かっていくよりはマシだ。
コロナの収束は、僕一人の力ではどうしようもない。でも、僕個人のコロナ禍は、工夫で和らげることができるということを、今さら知った。
かっこつけてばかりいないで、本音も書いておこう。国内添乗の仕事をすればするほど、勉強しようとすればするほど、海外が恋しい。海外添乗が恋しい。
連載中の「史上最悪の盗難」は、このツアーが終わるまでお預け。この連載は、いろいろ思い出して、これでも神経を削って書いている。とても添乗中にはできない。特に、これからの部分は。