マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

December 2020

今朝方、940分の予約でPCR検査を受けてきた。案内では、翌日に結果をメールで通知ということだったが、朝早くの予約のせいだろうか。本日18:46に結果が通知された。無事に陰性だった。

 

予約はネットからしかできない。当日は、入口から連なっている列に加わる。

IMG_0058

予約通知は必ず受付で提示を求められるから、大切に保存しておこう。オフィス入口で、アルコール消毒。検温はなかった。ただし「発熱されている方は、検査をご遠慮ください。」とあった。これだけ見たら、無症状者のみが対象のように見える。
順番が来たら、キットが渡されて、いよいよ検査。と言っても容器に唾液を1.5ml入れるだけ。それがけっこう大変で、唾液を1.5mlを出すのに4分かかった。検査に3分程度というのはこういうことなのか。問診、診察などは全くない。ただの唾液の提供だ。

 

ただし、検査結果の正確性と完全性は必ずしも100%保証するものではないなどの注意書きもある。検査を検討中の方のために、念のため全文を載せておこう。
IMG_0062
IMG_0063
IMG_0064
検査結果を知らせるメッセージと、注意事項。要約すると、油断大敵。


とはいえ、「陰性」という結果は、想像していたよりも、遥かに自分の心を軽くした。「我慢が実を結んでいる。これからも予防に努めよう」とするモチベーションは、間違いなく上がる。

料金は税込み3,190円。こういった状況で、自分の健康状態に無関心な人はいないはず。興味のある方は受けてみるといい。

 

「陰性」といういい知らせで一年が終わればいいのだけど・・・

東京の新規感染者数 1337人。初の1000人超え。

国内の新規感染者数 4118人。初の4000人超え。

よりによって大晦日でこの数字。第一波が収まった時には、予想もしなかった。まだまだ厳しい状況が続きそうだけど、「負けるものか!」と誓って2020年を終えよう。

 

なお、実父が3月に亡くなっており、現在喪中です。新年の挨拶は控えさせていただきます。
ブログは書くけど。

登場人物(詳しくはエピソード③参照)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者で、ストーリー中の添乗員。

 

色白OLさん

ツアー中、とあることで突然涙を流した。

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚。

 

無邪気さん

自分が色白さんを泣かせてしまったと、この時点では思っている。

 

大婦人さん

言葉に強さを持つ、添乗員の頼りになる味方。だが・・・

==========

僕が見えてないところで(鈍くて見えなかったのかもしれない)、そんなことがあったとは。

ただ、彼女たち曰く「ツートンさんの前では誰もそんなこと言わない」とのことだったが、結婚とか孫とかの説教話は、僕も食事中にお客様から振られていた。僕の場合、仕事柄、日常茶飯事であるから、二人よりも慣れているせいか、なんとも思わなかったのか。それとも、男性と女性では感じ方が違うのだろうか。

 

「私たちに対してと、全然言い方が違うもん!あんな優しい言い方なら、私たちだって腹は立ちません。だって、ツートンさんは添乗員ですから。普通、敵にまわすようなことは言わないでしょう。よほど腹が立っていない限り。」

そういうことか。それにしても、そこまで腹の立つ言い方ってどんなのだろう。想像がつかない。

「あとはね、自覚はないかもしれないけど、ツートンさんはマダム受けします。だから別の意味でも、お客さんのほうが嫌われたくないかもしれない。絶対に得してると思います。」

こんなこと言われても、反応しようがない。マダムたちに特別嫌われてるとは思わないけど、得してるかどうかなんて分からない。他の添乗員と見比べる機会などもないし。

「特にうるさかった人っていらしたのですか?」

これを質問すると、それまで静かに見守っていた素敵な帽子さんも身を乗り出して、二人で声を揃えて言った。

「大婦人!!」

「大婦人・・・大婦人さん!?」

しっかりと頷く二人。ショックだった・・・。だって、大婦人さんは、空気を読めない夫・大先生の暴走をことごとく止めてきた、少なくとも、僕にとってはベリーナイスなマダムだった。

「私たちには最悪でした。悪人とは言わないけれど、私たちが、このツアーにいるべきではないみたいなことを、何度か言われました。結婚とか子供の話の流れで。」

「いくらなんでもそこまでは・・・」

「はっきりそうは言いませんよ。でも、私たちがそう受け取るようなことは言いました。」

素敵な帽子さんが無言で頷いた。僕の表情を、観察しながら色白さんは続けた。

「ツートンさんにとってはいい人だったと思います。そこは気にしないでください。贔屓にしてくださるお客様は大切ですから。でもね、」

「・・・でも?」

「時々、ご贔屓にもほどがあるというか、集合時間ギリギリに来た人に『ちゃんと時間前に来なかったらだめよ。ツートンさんに迷惑でしょ?』なんて言うんですよ。他の方に迷惑とかじゃなくて、『ツートンさんに迷惑』だって。時々みんなで言ってたんですよ。『早くしないと遅れるよ。大婦人に怒られるわよ!』って。まさに影の支配者!」

「嘘・・・」

「ほんとですって!()

他にも何かうるさく言ってきたお客様は、ツアー最初に大婦人さんと仲良くなったご婦人たちのようだ。名前を伺って、あるシーンが頭に浮かんできた。

ディナー時、色白さんが席を立った時、しまったと落ち込んでいた無邪気さん。その後、何人かが、彼女のところに慰めに来ていた。その時のメンバーと、話の中で色白さんたちから聞いたメンバーが、まるっきり重なった。雰囲気を壊す原因となった無邪気さんにどうして皆そんなに優しいのだろうと不思議だったのだが、

「無邪気さん見て、自分たちが言ったことを思い出して『しまった』と思ったんじゃないですか?」

という、色白さんのご指摘通りだったのか。ということは、あの時、ご主人の暴走を止めた大婦人さんが、複雑な表情をしていたのも、そういうことなのだろうか?(エピソード③参照)

 

「ねえ、じゃあさ、あの時は別に無邪気さんに腹を立てていたわけではないの?」

「ぜーんぜん!ろくに会話もしてないし、あんな一言だけで怒るわけないじゃん。変だと思わなかった?」

気がつくと、僕らはお互いに敬語を使わないようになっていた。

「いや、だから泣くほどのことではないと思った。」

「あの日、ホテルにチェックインしたに、誰かから『若いうちに外国に来れていいわね』みたいなこと言われたの。それ自体は、嫌味じゃなかったのかもしれないけど、なんかもう拒否反応おこしちゃって・・・。それが冷めないうちに、無邪気さんにあんなこと言われちゃって。」

色白さんはバツが悪そうに言った。

「無邪気さんはね、たまたまスイッチ押しちゃっただけなの。」

「でも、発言自体は失礼だと思うけど。僕は、それに腹を立てたのかと思った。」

「無邪気さんは、かわいいよ(笑)」

素敵な帽子さんが喋り始めた。

「そうそう♪あの人、子供じゃん。天真爛漫になんでも思ったこと言うだけ。私たち、姫って読んでたの。姫様が席におつきあそばされました。姫様は、お肉がお嫌いであらせられるご様子です。・・・みたいなね(笑)」

色白さんが続く。

「空気を読まないって、悪く言う人もいたけど、私たちは実害を被っていたわけじゃないし、あそこで怒らなくてもよかったのよぉ・・・。別の人の時にキレればよかった。あれじゃ弱い者いじめだ・・・。」

「素敵な帽子さんは、色白さんを追って部屋に帰る時、『気にしないで』って言ったでしょ?あれは本心?」

「うん、まあ、ある意味(無邪気さんにとって)とばっちりだっかからねえ・・・。二人で部屋に帰ってから『しまった!やばい!』状態だった。早くフォローしなきゃって。」

「すぐにフォロー入れたじゃん。もう大丈夫だよ。」

「そうなんだけどね。さっきの集合もね、本当は先にツートンさんに経緯を報告しようと思ったのよ。心配してると思って。だから、私たち、早く集合場所に行ったでしょ?でも、先に無邪気さんたちがいるんだもん。」

「そう言えばそうだね。」

「あの時、ツートンさん、私たちに気づいて、こっち来てくれないかなって二人で話してたのよ。『ディナーを途中で帰っちゃったんだもん。“大丈夫ですか?”くらいのフォローには来てくれるよ。』って話していたの。」

「え?」

集合時にエレベーターから降りて、なにか話している二人の姿を思い出した。

「でも、来てくれないんだもん。いつになっても、無邪気さんたちと話していてさ。このままだと、みんな来ちゃう!とりあえず、無邪気さんだけにでもフォロー入れなきゃ!って、それであの時謝ったの。」

「・・・ごめん。いや、申し訳ありません。目の前で落ち込んでいた無邪気さんばかり気になっちゃって。完全な片手落ちでした。いや・・・本当に気が利かなかった。」

「まあ、大丈夫。今、こうして話してるし。おかげで、こうして本場のカールスバーグ飲んでるし。」

色白さんが言うと、二人はビールグラスを手に持って乾杯のポーズをとった。

「ツートンさん、二杯目はごちでーす。」

帽子のツバを軽く上げながら、素敵な帽子さんが笑顔で言った。

 

続きは年明けに

今日は、墨田川を水上バスに乗って浅草まで行き、帰りは歩いて帰って来ようとしていたのだが、都が運営している水上バスが、年明け8日まで運航中止となっていたため、あきらめた(観光船は運航。なお、密を避けるため、浅草寺でのお参りは予定していなかった)。

 

人を動かさないようにするための運航中止は、緊急事態宣言以来だ。仕方なく近所の散歩で済ませたが、年末のこの時期にしては人が少なかった。地元の人はともかく、遠くからの人は殆どいなかったような気がする。

 

感染者が増えて、国が呼び掛けて、ようやく緊張が高まってきたのだろうか。

 

僕は、明日民間のPCR検査を受けてくる。一週間ほど前に予約した。

今年の3月に海外添乗が完全になくなってしばらくは「海外に行ってたんだろう?コロナ大丈夫?」と言われて、その後に実父が亡くなって、実家に帰った時は「東京から来たんだろ?コロナ大丈夫?」と言われて、国内添乗を始めたら、仕事再開を祝ってくれる一方で「たくさんの人と接してるんだろ?コロナ大丈夫?」と言われて・・・ずっと警戒される側の人間になっている。

 

発熱もその他の症状もない。自分が接した人にも出ていない。感染対策も自分なりにしている。感染している確率は低いと思うが、それを胸を張って言える「心理的な印籠」が欲しくなってので行ってくる。

もし、陽性だったら死ぬほどショックだが・・・。

 

さっき最寄りの神社で「陰性であること」を祈り、お参りしてきた。明朝に行ってきます!

登場人物(詳しい紹介は、エピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者で、ストーリー中の添乗員。

 

色白OLさん

ただ泣いたわけではなかったかもしれない。


素敵な帽子さん

色白さんの同僚で、一緒にご旅行されている。

 

マダム無邪気さん

彼女が諸悪の根源と思われていたが・・・

 

マダム姉御さん

口数の少ないしっかり者のイメージだったが、喋り始めた途端に預言者に昇格しつつある。

================

「お疲れさま♪」

 

爽やかな笑顔の二人。僕の肩を叩いたのは素敵な帽子さんだった。走ってきたのだろうか?少し、息を切らしている。

「あれに乗ってきたんです。」彼女が指差したのは、あの恐怖のタワーハッカーだった。あの高いところから落ちる趣味の悪い乗り物。僕は、後楽園遊園地で一回乗ったことがある。あまりの怖さで悲鳴さえ出なかった。落ちていく時に、涙が出てきたが下に流れず、上にあがっていったのを覚えている。

「そう。めいいっぱい遊んでますね。最後まで遊んでいきますか?僕はもう帰るけど。」

「他の方はどうされたんですか?」

「もうお帰りになったみたいですよ。一部の方はお見送りしました。」

「無邪気さんたちは?」

「さっき、そこからタクシーに乗ってお帰りになりました。」

「ふーん・・・。」

素敵な帽子さんが、色白さんをチラッと見て、僕に言った。

「ねえ、ビール飲みに行きましょうよ。いいバーとか知りませんか?ここ、カールス・バーグの本場でしょ?ね?ね?」

帰国日は、ゆっくりの出発だった。夜の10時半からの飲みは、少々遅かったけど、色白さんも素敵な帽子さんも僕より少し年下で、しかも女性。お客様とはいえ、ある程度楽しんで気楽に飲めるだろう。そう甘く考えた僕は、喜んで誘いに乗った。

 

この二人とは、ツアーの後半、食事のテーブルがよくいっしょになった。特に夕食時は、ほぼ毎日だった。添乗員にもよるが、僕は、お客様と常に食事をご一緒させていただく。なんだかんだいって、お客様と落ち着いた会話をできるのは食事中くらいだし、体調が悪い方、ばて気味の方を見つけるのにも食事が一番役立つ。食が進まないお客様に声をかけると、実は、体調が好ましくないことが多い。食欲は、体調のバロメーターである。(旅行会社によっては、添乗員に、常にお客様との食事中同席を義務付けているところもある)

普通は、毎回違う方々と食事をする。お客様が全員おかけになった後、余った席につくので、自然とそうなるものなのだが、なぜか、色白さんとと素敵な帽子さんとは、同じテーブルになることが多かった。

 

最初に入ったバーは、きれいなお姉さんがビールを注いでくれるところだった。女性としては、かっこいい男性に注いで欲しいというので、隣のバーへ。キャッシュオンスタイルのイギリス式パブの店。日本でカールスバーグというと、普通はラガータイプだが、本場では他に、エールと黒がある。彼女たちは黒、僕はエールを注文した。僕がまとめて三杯分を払おうとすると、

「あ―――!だめだめ!!ここは私たちが誘ったのだから、私たちが払います。」

と、いった具合に払われてしまった。かっこつけたのにな。

さて、席についていよいよ乾杯。パイントグラスを傾けてビールを口に運んだ。うまい。その銘柄の生まれ故郷で飲むビールは、本当に美味い。世界で一番カールスバーグがおいしく飲めるのはデンマークに間違いない。

そこから、楽しい会話が始まるかと思いきや、素敵な帽子さんが何やら盛んに色白さんを促している。肘でつついて、「ほら!ほら!」といった具合に。そして、色白さんは、ようやく決意したかのように、

「ツートンさん!今日のディナーの時だけど・・・すいませんっ!」

平身低頭ではなく、“やっちゃったー”系の謝り方だた。僕の頭の片隅には、姉御さんの顔が浮かんだ。

「今日の夕食のことですか?」

「はい。びっくりしたでしょう?いきなり立ち上がって・・・」

「しかも泣いてるしー()

素敵な帽子さんが横からちょっかいを出した。色白さんは、「うるさいっ!」と言って素敵な帽子さんの腕を叩き、また僕のほうを向いた。

「でも、あれは無邪気さんが悪いですよ。気にしないでいいんじゃないですか?」

「違う!違う!!それ違うの!!」

顔は笑っている。色白な顔は、ほんのりピンク色に染まっていた。ビールだけのせいではないだろう。喋り口調は真面目だ。横では、素敵な帽子さんが頬杖をついて見守っていた。

「確かにムカつくとを言われたけど、、たったあれだけで、あんなに腹を立てるはずはないでしょう!?」

「実は、今だから言えますけど、席を立つほどのことでもないかとは思っていました。」

「そうそう!そういうことです。実は・・・」

色白さんは堰を切ったように話し始めた。無邪気さんの前に、他の方々からも、しばしば似たようなことを言われていたという。つまり、色白さんのメンタルが負の方向に向かっているタイミングで、たまたま地雷を踏んでしまったのが、無邪気さんだったというわけだ。

僕は、全然気づかなかった。お客様の会話には、ある程度はアンテナを張っているつもりなのに。

 

「それはそうですよ。だってツートンさんの前では、誰もそんなこと言わないもん。」

色白さんが話し始めた。

「え?」

「ツアーの後半から私たちが、ツートンさんと同じテーブルで食事をすることが多かったのを覚えてます?あれ、偶然じゃないんだなあ。」
「ええ?」
食事の度に結婚しているのかとか、子供がいるかとか、昔の自分の苦労話などのお説教に耐えかねた彼女たち。たまたま僕と一緒のテーブルになった時、以前、一緒したご夫婦、特に奥様たちの態度が全然違うので、びっくりしたという。ひょっとしたらと思って、その後も僕と同じテーブルになるように工夫してみたら、これまでうるさかった人たちと一緒になっても、全く問題なくなったそうだ。

 

このツアーの参加客は22名で、一人参加はなし。みんな夫婦なり友人同士などのペアだった。僕を含めて23名だから、必ず奇数のテーブルが出来上がる。そこに入れば、必ず僕と同じテーブルになれたわけだ。

 

そんな駆け引きがあったとは。次々と僕が把握していない真実が浮かんできた。
IMG_2351
iPhoneのパノラマ機能を使って撮影したフィヨルドの写真。クルーズ船でソグネフィヨルドから、ネーロイフィヨルド(右)とアウランドフィヨルドを同時に見渡せる。撮影場所としては、わりと貴重なスポットなので、お客さんには、必ず案内している。

登場人物(全体的な登場人物はエピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者であり、作中ツアーの添乗員。気を利かせているつもりが、実はいろいろださい。

 

マダム無邪気さん

いろいろ言うが、無邪気なキャラでツアー中乗り切ってきた。しかし、最後に地雷を踏んでしまった。

 

マダム姉御さん

無邪気さんの姉、母親、お目付け、ばあやなど、様々な面を見せるが、今回は完全な姉御キャラ。

 

色白OLさん

無邪気さんが踏んでしまった地雷。

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚。彼女と同じ地雷を持っているはずなのに、なぜかこちらは不発に終わった。

==========

「もちろん、悪いのは無邪気よ。言ったことは、確かに色白さんにとって不愉快だもの。私も、彼女の暴走を止められなかったのは悪かったし、ちょっと責任を感じて、いろいろ考えたの。自分たちのことを棚に上げて、なんなんだけどね、あそこで怒って、泣いて席を立つって、あとで考えてみてね・・・うーん・・・腑に落ちないのよ。」

無邪気さんが帰ってきた。荷物を整えて席を立つ二人。

「ツートンさん、10時半に集合だったわよね?集合時間を無視して勝手に帰っていいっておっしゃってたけど・・・この時間なら他の方々は帰ったと思うわ。でも、色白さんたちは来ると思う。」

「え?・・・どうしてですか?さっきは、自分たちで帰るって言ってましたよ。」

「私が彼女たちの立場だったら、私たちに対してよりもあなたに対して申し訳ないと感じるわ。謝るとまでいかなくても、なにかお話したいことはあるはずよ。心配かけてしまったなぁ・・・と思ってるんじゃないかしら。だから来る。」

「そうかなあ・・・。」

「それにね、さっき、集合時間よりもだいぶ早くロビーに来たでしょう?いつも、あの二人はギリギリに来るのに。私たちじゃなくて、あなたに話があったから早く来たんじゃないかしら。でも、私たちが先にいたから、無邪気に声をかけて、あなたには何も言えなかったのかなって思うのよ。明日は帰国だし、落ち着いて話せるのって、今晩だけでしょ?それに気付いたら、集合時間に来るわ。」

 

姉御さんと顔を合わせながら僕は考えていた。これより前に、色白さんを怒らせるようなことを、無邪気さんが言ったのではないか・・・。でも、この友人同士の二組が同じテーブルを囲ったのは、間違いなく今晩が初めてだ。観光中も特に一緒にいた印象はない。一番長く話したのが、今日のディナーだろう。席について、前菜が終わって、メインディッシュが出る前までの約30分間。

「姉御さん、お二人が色白さんたちと話したのって・・・?」

「今晩がはじめてよ。バスの席はいつも離れていたし、観光中だって、他愛もない話しかしてないわ。いっくら考えても(なぜ無邪気さんの一言で怒ったのか)思いつかない。」
「・・・・・・・・。」

「ね?あの一言が失礼だったとしてもね、変なのよ。」

「実は僕も、失礼にしても泣くほどのものでなないと・・・」

 

「ねえ、なに?なんの話??」

トイレから帰ってきた無邪気さんが会話に入ってきた。

「別にあんたの悪口じゃないわよ(笑)。帰りましょう。」

そう言って歩きだした。無邪気さんは、どうやら姉御さんには従うしかないようで、多少不満そうな顔をしながらも、その後を追った。

あれ?でも、おかしい。タクシーに乗ると言ったのに、反対側のゲートに向かっている。

「姉御さーん!タクシーは、こっちのゲートの前ですが!」

二人は、一瞬固まった後、「きゃ~!!」と照れ隠しで叫びながら、吉本タレントばりのオーバーリアクションを取った。

「そう言われたわよね、ほんと、どうしようもないわね(笑)。こんなだから、ツートンさんも、いつになっても安心できないのよねぇ。あっはっはっはっはー!」

ずっと大笑いしながら、半分腰砕け状態で今度こそタクシー乗り場に向かった。最後にばっちり決められなかった姉御さんだが、少しだけ真顔になって、アドバイスをくださった。

1030分に来なくても、40分までは待ちなさいよ。」

二人が揃っている時は、いつも無邪気さんばかり喋って、姉御さんは、「そのへんににしなさい」と「いい加減にしなさい」くらいしか言わなかった。こんなに長く、姉御さんとお話したのは、ツアー最終日にして初めてだった。

これほど記憶をしっかり整理して、それをご自身の観察力に生かせるとは、なんてすごい方だろう。

そして、色白さんたちへのお気遣い。「あの一言で、あれほど怒るのは、腑に落ちない」としたうえで、なにか別の要因があるのかもしれないと、心配していた。同時に、僕のこともお気遣いくださっていた。

 

10時25分。集合時間の5分前に僕は、メインゲートに向かった。今回のグループは、皆、集合時間をきちんと守っていた。が、どなたも来ない。と、いうことは、みなさんご自身でお帰りになったのだ。それでも10時30分までは待たなくてはならない。いや、どなたもいらっしゃらなくても、40分まで待たなくてはならない。姉御さんにそうアドバイスをいただいた。

 

10時35分を過ぎた頃、星が目立ち始めた空を見上げていた僕の肩を、ポンと誰かが叩いた。

「お疲れ様♪」

色白さんと素敵な帽子さんが、爽やかな笑顔で立っていた。

とりあえず、ここまでは姉御さんの筋書き通りだ
IMG_2201
IMG_2195
このツアー中、最も盛り上がったゲイランゲルフィヨルドの風景

登場人物(全体的な登場人物はエピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者であり、作中ツアーの添乗員。気を利かせているつもりが、実はいろいろださい。

 

マダム無邪気さん

いろいろ言うが、無邪気なキャラでツアー中乗り切ってきた。しかし、最後に地雷を踏んでしまった。

 

マダム姉御さん

無邪気さんの姉、母親、お目付け、ばあやなど、様々な面を見せるが、今回は完全な姉御キャラ。

 

色白OLさん

無邪気さんが踏んでしまった地雷

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚。彼女と同じ地雷を持っているはずなのに、なぜかこちらは不発。

==================

チボリ公園に到着して、園内マップと、アトラクションの乗り物チケットの購入方法を説明して自由行動にした。

「一応、10:30を集合時間にします。ここ(メインゲートそば)でお待ちしていますが、先に個人的にお帰りいただいてもけっこうです。1030を過ぎた場合は、それ以上はお待ちせずに帰りますからご了承ください。」

30~40代の4人は、「集合時間には来ません。自分たちで帰ります」と言い残して、さっさと離れていった。

残った14人のうち、8人は僕にお勧めを聞いてきて、すぐに自分たちで動き出した。6人の年長組は、すぐに自分たちだけで行動するのは不安ということだったので、しばらく僕がご一緒することになった。その中には、無邪気さんと姉御さんもいらした。

少しずつ陽が陰ってきて、僅かに明かりが灯った園内は、昼間のテーマパークとは違い、大人っぽい雰囲気を醸し出していた。一通り園内を歩いた後、僕を含めた7人は、庭園を広く見渡せるカフェに席を取った。

夕方の涼しい時間帯。きれいな庭園とおいしいコーヒーのおかげだろうか、話に花が咲いた。内容は、このツアーの観光の話。

何度も書くが、今回は奇跡的に快晴が続いた。出発前の週間天気予報は悪かったから、余計に感動が大きかった。これ以上、北欧の大自然を楽しむのは無理ではないかというくらい、毎日青空が広がっていたのだから、観光の話が盛り上がるのは当然だった。

夜も遅くなり10時を過ぎた。来園した時から比べると薄暗くなってきたが、夏至の東京の夕方7時くらいのものだ。濃紺の空にはろくに星も出ていない。

北欧では太陽の動きが日本とは違う。太陽は真っすぐ地平線に落ちていかない。緩やかな坂道を転がるように落ちていく。だから、地平線に太陽が近づいてからも、日没にはかなりの時間がかかる。

北欧での時間の流れがゆったりと感じるのは、この太陽の動きのおかげかもしれない。逆に言うと、暗くならないから、注意して時計を見ていないと、知らないうちに時間が過ぎている。

 

「もうすぐ10時になりますよ。」

話し疲れたように見えたお客様たちに声をかけた。

「え?明るいから全然気づかなかった。」

ツアー最終日まで、なかなか沈まない太陽を経験したお客様のうち4人は、それぞれに席を立ち、ホテルへ向かった。残ったのは、無邪気さんと姉御さんのみ。この二人は、典型的な年配のツアー客で、とにかく常に添乗員におんぶにだっこの人たちだ。簡単な道とはいえ、自分たちだけではホテルに帰れないだろうと思い、

「あと30分で最終の集合時間だから、このままご一緒しましょうか?」

と、聞いてみた。すると、

「いえ、これくらいなら自分たちで帰れます。ツアー中、同年代の方々が、自分のことは自分でなさるから、何もかも添乗員任せの自分たちが、けっこう恥ずかしかったわ。ホテルの名刺もいただいたし、タクシーの運転手にこれを見せればちゃんと連れてってくれるでしょう?だから大丈夫です。」

姉御さんがそう答えて、「それでいいでしょ?」という視線を無邪気さんに送ると、

「私たちばっかり、あなたを独占するわけにはいかないし、姉御んと二人だから、なんとかなります。・・・あなたには、迷惑かけてしまったし。・・・彼女(色白さん)にとっても、本当大きなお世話だったわね。・・・なんか、あれくらいの子を見たら、娘や孫と重なって、ついつい言っちゃうのよ・・・迷惑よねえ、親でもなんでもないんだしね・・・。」

後悔のため息をついた後、無邪気さんはトイレに向かった。

 

「まあ、いい意味でも悪い意味でも天真爛漫なのよ、彼女は。」

姉御さんが話し始めた。

「何か揉め事があったら、『自分は悪くない』とは言わない人よ。相手に全部責任を押し付けるようなことは絶対にしないの。そのくせ、言っていいことと悪いことの区別がつかない時があるのよ。もう少し考えてくれたらいいのにね(笑)。でも、部屋で私がお説教してた時も、ずっと打ちひしがれていたのよ。」

「・・・・・・・・。」

「言葉がない?(笑)でもね、本当に手間ばかりかかって、その上、一切他人に気遣いしない人なら、私も一緒に旅行しないわよ。」

「そうですね()まあ、僕はいいんです。お客様同士で解決してくだされば。参加者同士の喧嘩と言っても、大人同士ですからね。僕が感情をなだめることができても、仲直りさせたり、解決したりはできません。」

「そうね・・・。でも、大騒ぎにならなくてよかったわね。」

コーヒーの支払を終えた。まだ、無邪気さんは帰ってこない。

「ねえ、私ね、ひとつ気になることがあるの。色白さんなんだけどね・・・。」

「なんですか?」

「うーん・・・。なんであんな簡単に怒ったのかしら?」

「それは、言われたくないこと言われたからでしょ?結婚の話とか・・・」

おとなしく話す姉御さんが、珍しく僕の言葉を止めて話した。

「いえ、そうなんだけどね。ツートンさんも一緒のテーブルにいたから分かるでしょう?無邪気は、確かに言ってはいけないことを言ったかもしれないけど、長々お説教をしたわけじゃないわ。ほんの一言よ。イライラしても、あんなにヒステリックになるようなことじゃないわ。」

確かにそうだ。あのディナーで色白さんが怒り出したシーンはよく覚えている。普通に談笑している中で、無邪気さんが、海外旅行によく行くのかと色白さんと素敵な帽子さんにたずねて、その流れの中で、

「いいわね。若いうちからこんな旅行ができて。独身なんでしょ?早く結婚して子供つくればいいのに。相手いないの?旅行なんて歳をとればいくらでもできるんだから。」

それだけだ。それ以前の会話はいたって普通だった。内容的に、決して愉快なものではないにしても、いきなりディナーの席を立つほどの一言でもないように思えた。
これまでの極めて常識的で、年配の方々に優しかった色白さんのことを考えると、余計に不自然だった。

登場人物(詳しくはエピソード③をご覧ください)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者で、作中ツアーの添乗員。未熟で鈍い。でも、必死に一生懸命やっている。

 

マダム無邪気さん

みなさんから可愛がられている無邪気でかわいい60台後半のマダム

 

マダム姉御さん

無邪気さんの親友であり、お姉さん役であり、お目付け役。60台後半

 

色白OLさん

不覚にも、最後のディナーで無邪気さんと火花を散らしてしまったが、夕食後の外出集合時間には、きちんと現れた。30代半ば

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚で、今回は一緒にツアーに参加している。同じテーブルで、同じことを無邪気さんから言われているはずなのに、なぜかへっちゃら。ネームの由来は、おしゃれに帽子を被り分けてることによる。

================

 

ディナーが終わった。最終日に宿泊していたのは、デンマークの首都コペンハーゲン。夕食後は、チボリ公園というテーマパークに案内することになっていた。岡山県倉敷市の、あのチボリ公園の本家本元である。規模は小さいが、昼は家族連れが多い遊園地で、夜は遊園地を兼ねた大人の遊び場になる。おいしいレストランもあるし、野外でジャズコンサートなども行われる。観光客だけでなく、地元の人々にも愛されているテーマパークだ。

このツアーでは、ツアー料金に、チボリ公園の入場料が含まれていた。ただし、テーマパークに興味がないと言う人もいたので、この日は、希望者だけ連れていくことにした。22人中、前もって希望したのは18人。その中には、色白さんも無邪気さんも含まれていた。果たして、あんなことがあった後で、集合場所に現れるのだろうか、気になった。

 

集合時間は夜の8時15分。僕は7時55分からロビーで待機した。僕がロビーに行って間もなく、一番最初に現れたのは、無邪気さんと姉御さんだった。姉御さんが、無邪気さんに、僕のところに来るように促している。彼女は気まずそうに僕のそばにやってきた。

「あの・・・ツートンさん、さっきはごめんなさい・・・。今、散々姉御から怒られたの・・・。あなたにも余計な気を遣わせちゃったし、色白さんたちには、本当に申し訳なかったわ。」

そう言って、うつむいた。子供がしょんぼりしたような顔。この世の終わりのような顔。本人に自覚はないかもしれないが、このしょんぼり顔は、彼女の人生の中で、大きな武器になっていたに違いない。なにか怒っていても、こちらからそれ以上は言いにくくなってしまう顔だ。

得をしてきた一方で、人から何か言われにくい、叱られにくい、長い目で人生を見た場合に、得と同じくらいの損もしてきたのではないかと思う。きちっと叱ってくれる姉御さんは、とても大切な友達に違いなかった。実際、彼女のアドバイスには、よく耳を傾けていた。

 

「色白さんたちも、必死に働いて稼いだお金で参加なさっています。無理して仕事の調整をして・・・。素敵な帽子さんから聞いたんですけどね、二人とも旅行前の一週間は、毎日終電まで働いたそうです。」

「そうよね・・・。みんな頑張ってるのよね。私たちの子供といっしょよね・・・。」

うつむいて、少しの間黙った。

「ねえ、ツートンさん・・・私ね、ずっと頑張って夫を支えて、子供を育てて・・・やっと60を過ぎてから旅行できるようになったの。必死だったの。あの子たちの年頃の時は、海外旅行なんて考えられなかったの・・・。必死に頑張ったのよ。それを少しでも分かってほしかったの・・・。」

気持ちは伝わってきた。あの場に相応しい話かどうかはともかく、その言い方で仰れば、色白さんもあんな風にはならなかったはずだ。

「それでは、そういう風に言いなおしましょう。(ちょっとニヤリとして)でも、お説教はだめですよ。」

彼女は、肩をすくめて頷いた。

やがて、エレベーターのドアが開いた。次に集合場所に現れたのは、なんと色白さんと素敵な帽子さんだった。最後のディナーを途中退場したので、気分的に参加されるか心配したのだが、行く気になったようだ。そういえんだ、チボリ公園のことは楽しみにされていた。・・・と思いきや、よりによって、今集合場所にいるお客様は、先ほど騒ぎを起こした二人とその友人たちだけだ。なんというタイミングの悪さ。

 

エレベーターを降りた二人。こちらに気づいてから、なにか話し合っているのが見える。無邪気さんと姉御さんは、彼女たちに背を向けて僕と話しているので気づいていない。そのうち、色白さんが真っ直ぐに向かってきた。無表情で怖い・・・。

ソファに座っていた無邪気さんは、色白さんに気づくと立ち上がって出迎えた。何かを言おうとしたとき、それを遮るようにして、色白さんが先に言葉を発した。

「さっきは、ムキになっちゃってすみません。大人げなかったですよね、私・・・。」

え・・・?予想外の色白さんの先制パンチに、僕は呆気にとられた。先に謝られてしまったは無邪気さんも完全に動揺していた。しどろもどろに謝る彼女に対して、色白さんは、

「いや、私が大人げなかったです・・・。もう最後だし、お互いに楽しみましょう。ね?」

と言ってニコッと笑い、その後の相手の言葉を遮り、誠に鮮やかに会話を終えてしまった。

あとから集合場所に現れた他のお客様に対しても、素敵な帽子さんと笑顔でごあいさつされている。まるで、先ほどは何もなかったかのように。かなりの役者であるとは感じた。

 

集合時間ちょうどに希望者が揃い、歩いてチボリ公園へでかけた。この時期のコペンハーゲンは、11時を過ぎてようやく暗くなる。8時はまだ明るい。この時間の外出は、“午後のお散歩”のようだった。
97A22DB8-B312-4081-90F1-2ACC3225DA7A
古き良きコペンハーゲンの様子を残すニューハウン地区



コロナの第三波が来て、感染確認者数が増加して、GOTOトラベルキャンペーンが停止されて、変異種があちこちで見つかって、水際対策が再び強化・・・。

こんな状態で、海外がますます遠くなる一方で、一部で言われてる通り、「コロナ慣れ」が間違いなく一般化している。僕自身、一昨日はNHK交響楽団のコンサートに出かけた。会場の案内に沿いながら、自分自身もしっかり対策をした(つもり)ではあるが、6月に久しぶりに劇場に出向いた時の気持ちと比べると、明らかに緊張感は薄い(欠けているとは思わない)。

「緩んできている」と言われる一方で、「必要以上に警戒はしなくていい」と言われるから難しい。今の時点では、「ここまでは」という線引きを自分で決めなくてはいけない。ウィルスの実態を、まだまだ掴めていない部分があるし、それどころか変異種などがどんどん出て来て訳がわからなくなっているし、それは仕方ないのだろうが。

 

今、テレビでは冬の高校スポーツ真っ盛り。その中で、バスケットでは、僕がメディアで目にしているだけで、男女合わせて7つのチームがコロナの影響を受けて棄権している。そのうち1校は、大会で勝利した相手校のバスケ部関係者に感染者が発覚して、プレーした選手に濃厚接触者がいる可能性があるという理由で、本部から棄権を指示されたそうだ。自チームの事情ではないのに、気の毒だ。選手だけでなく、当該試合で審判をしていた人も、この大会にはもう出ないらしい。

これほどの数の学校が影響を受けて、しかも感染者が急ピッチで増え続けているのに、大会が打ち切りになる気配は全くない。

夏の高校総体が最後だったのに、開催がかなわなかった高校生アスリートや、かろうじて甲子園につながらない最後の大会で花道を飾ろうとした高校球児のことを思い出すと複雑だ。高校バスケの今の状態が夏までであれば、間違いなく大会打ち切りだったろう。

 

でも、だからと言って僕自身、「バスケを今すぐ中止しろ」とは思えないのだ。ラグビーも、サッカーも含めて、大会が始まったのであれば、決勝まで辿り着いて欲しい気持ちのほうが強い。第一波が収まった直後くらいなら「そら見たことか。さっさと中止しろ!」と、思ったに違いないのに、この心境の変化はなんなのだろう。世間で言われている緩みなのか油断なのか、それとも甘えなのか。

世界中でロックダウンやらなにやら騒がれているのに、いいのだろうか?

 

せめて、大会中は、これ以上のコロナ被害がないことを祈る。サッカーとラグビーに関しては、感染者を一切出さなかったという実績をつくっていただきたい。夏の甲子園がそうだったように。

実績は必要だ。スポーツの現場でも、旅行の現場でも「こういう対策の中では感染しなかった」という実績とデータは積み重ねていくべきだと思う。必ず後で検証されるから。

登場人物

マスター・ツートン

このブログの筆者であり、ストーリーの中の添乗員。一生懸命だけが取り柄で鈍い。

 

マダム無邪気さん

言いたいことが、心のフィルターを全部すり抜けて全部出てきてしまう。まわりが冷や冷やする発言をしばしばするが、子供のように無邪気でかわいいところがあるから、まったく憎まれていなかった、超お得なキャラ。これでも60台後半。

 

マダム姉御さん

無邪気さんの親友。であると同時に、母親、祖母、姉、秘書、おつきのばあや、すべてをこなしていたと思う。無邪気さんとの会話は、この方が常に噛み合わせを調整していた。面倒見の達人。無邪気さんとは、本当に仲が良い。60台後半

 

大先生

元大学教授。いろいろ楽しい話を、食事中にみなさんにされていたが、内容の当たりはずれは厳しい。元々の仕事が仕事なだけに、難しい本は読める。他の方が読めない観光地の英語案内も読める。でも、空気はまったく読めない。というか読まない。70台後半。

 

大婦人さん

大先生の奥様。ツアー中、常にマダムたちの輪の中心にいた、マダムのボス。添乗員にとっても頼り甲斐があった。60台後半・・・だったかな?

 

色白OLさん

無邪気さんとトラブった30代半ばの会社員。肌が白くてきれいだったから、色白さん。今回は出てこないが、重要人物。

 

素敵な帽子さん

色白さんと同僚。帽子を3つ持ってきて、毎日のファッションで被り分けるおしゃれさん。毎日、次の日の観光内容を細かく聞いてきたが、それによりテーマを決めて、服も帽子も決めていたらしい。美人。

==============

 

言ってる内容が正しくても、タイミングがずれてると単なる失言になってしまうが、大先生の発言は、まさにそれだった。

事が起こった直後、無邪気さんは、色白さんの友人である素敵な帽子さんにすぐに謝り、「気にしないで・・・」と返事をされて、その場は収まっていた。隣のテーブルにいれば、そのやりとりは分かっていたたはずなのに、なぜか大先生は、言わないと気が済まなかったようだ。

すぐに謝って、相手がそれをフォローした以上、無邪気さんを悪者にするわけにはいかない。

大先生の一言に反応した無邪気さんと姉御さんは、彼のほうに、僅かな間だけ視線を移した後、すぐに元に戻して無視するように食事を再開した。僕は、大先生に「ストップ!やめてください!!」というお願いを身振り手振りで伝えようと試みた。しかし、一瞬こちらを見ただけで、構わず話を続けるわけではないか。怒り口調ではない。教壇から学生に話しかけるような感じで・・・。大先生は、どこかの大学の元教授かなにかで、どの方とお話する時も「いつも自分が教えてあげている」というような口調で話した(こういうタイプの教授も、最近は見なくなったな)。

 

僕は、大先生の奥さんである大婦人さんに視線を移して、必死に「助けて光線」を送ろうとしたが、大婦人さんは、その前に動いた。

「あなた、。余計なことはおっしゃらないでください!他人が口を出すことではありません。」

この奥様は、非常に昭和的に、しっかりとご主人を支えている一方で、しっかりと言うべきことを言ってコントロールしていると、ツアー中ずっと感じていた。大婦人さんの厳しい視線とキツイ言葉に一瞬たじろぐ大先生。

「いや、でもねえ・・・」

「この方たちは、あなたの学生ではないのですよ!姉御さんがお話なさってるんですから、あなたは黙っていなさい。」

それでも何か言いたそうな大先生の様子を見て、

「(ここで)なにかおっしゃるほど、仲良くなってもいないでしょう。なのに・・・いつもいつも、私恥ずかしいです。これ以上なにかおっしゃったら、私・・・あなたともう旅行しません。」

これがとどめのパンチとなり、大先生はあきらめた。奥さんナイスプレー!

後で、大婦人さんから聞いた話だが、この時にご主人に厳しく接したのは、僕への気遣いが半分、あとは、大先生が原因で場が辛気臭くなり、自分が周りに対して申し訳なくなるのが嫌だったのが半分だそうだ。

なにはともあれ、色白さんと素敵な帽子さんの二人はいなくなったものの、一部のお客様が気を利かせてくださったこともあり、食事は再び盛り上がってきた。僕が座っていた隣の隣のテーブルから、僕にビールが差し入れられて、再度乾杯して、奇跡的に快晴が続いた北欧の旅を、みんなで思い出しながら会話をした。そうなのだ。いい旅だったのだ。

デザートが出る頃には、お互いのテーブルを行ったり来たりして、記念写真を撮るなど、いつもと変わらない最後のディナーのようになった。意外だったのは、無邪気さんに対して、他のお客様、特に女性陣が優しかったことだ。

「タイミングが悪かっただけよ。」

「若い人とうまく会話がかみ合わないこともあるわよ」

など、慰めの言葉が多かった。これは、とても不思議だった。たとえ、僅かな間でも雰囲気を壊すきっかけを作った無邪気さんに対して、どうしてみんなこんなに優しくなれるんだろう・・・。僕は、皆様と談笑しながら心の中では首をかしげていた。

僕のすぐそばにいた大先生が、ぼそっと言った。

「危うく、悪者になるところだった・・・。」

横では、大婦人さんが涼しそうな、でも少し複雑そうな顔をしている。無邪気さんを中心にした会話の輪には加わらない。

後から考えてみるとなのだが、なんだか不思議な絵だった。

毎年欠かさず行っていた年末のN響第九。今年はないだろうと思っていたら、行われることになったので、チケットを取った。ただし、例年行っているサントリーホールのチケットは取れなかったので、今回はNHKホールへ。

 

まずはコンサート関係者のみなさん、催行してくださってありがとうございます。「歓喜の歌」を聴きながら、今年一年を思い出しながら涙が出てきました。来年は、いろいろな意味で、お互いに本当に歓喜したいですね。

 

ところで、ここでも「コロナ禍」を意識した様々な対策が講じられていた。

まず、N響のホームページを読んでみたら、「館内での飲食は禁止」とあった。コンサート時、開演前や幕間に、よくスパークリングワインやコーヒー、サンドイッチなどいただくので、ホールに着く前に電話してみたら「館内で利用できるのは自動販売機のみ。その他の飲食は、持ち込みも含めて禁止」と、丁寧に案内された。

会場に着いた。スタッフは、全員マスクとフェイスシールド着用。検温とアルコール消毒は当然義務。チケットは提示したら、半券は自分で切って、係員が持っている箱に入れる。プログラムは、積んであるところに自分で取りに行く。当然クロークもない。感染対策をしながらサービスを実施するのではなく、潔く公公演以外のサービスはなしになっていた。

 

客席は、一つ飛ばし。列ごとに偶数と奇数を交互に組み合わせて、前後左右には誰もいないようになっていた。そのため、クロークがなくても、上着は空いている席に置ける。

 

第九といえば、開演間近になると、まずは合唱団が舞台に上がるが、この日は誰も入ってこない。予定の午後3時を過ぎて、一斉にオーケストラのメンバーが入ってきて、チューニング。その後、指揮者が入ってきてすぐに開演。第二楽章までは、合唱団の姿がないオーケストラのみで演奏されるという、コロナ禍ならではの珍しい演奏になった。舞台から遠い席だったが、オーケストラのメンバーの多くはマスクをしているのが見える。全員でなかったということは、任意だったのか。もちろん、指揮者はマスクなし。

 

第三楽章に入る前に合唱団が舞台に上がり、ようやくいつもの第九演奏の形になった(ソリストのこのタイミングでの登場はいつものこと)。

ソリストに関しては覚えていないが、合唱団は全員マスク着用。驚いたのは、数の少なさだ。客席同様、いや、ひょっとしたらそれ以上にソーシャルディスタンスをとっていた。数えてみたら40人しかいない。常におそらく100人以上、国立音楽大学が唱っていた時は200人以上だっと思われる合唱団と比べると、遥かに小さな合唱団。オーケストラに負けてしまわないだろうか?心配してパンフレットを覗き込んで、ホッとした。

 

「新国立劇場合唱団」。おお・・・なるほど。きっとこのために選ばれたのか。すごいなあ。それにしても、マスクはどのタイミングで取るのだろう?

演奏は第四楽章に入った。ここの冒頭で取るかと思いきや、まだつけたままだ。やがて、オーケストラの主題に入ってきた。コントラバスから弦全体と木管に演奏が広まり、トランペットが主題を奏でた時だった。

合唱団全員の右手が左耳にいき、一斉にマスクが外された。美しい演奏の中での美しい動きだった。リハーサルでも徹底した練習をしたに違いない(ただし、マスクをしまうのに、モタモタしている人はいた()

 

様々な感染対策を凝らした演奏は、いつも通り大きな盛り上がりを見せて終わった。合唱団は人数が少ない分、声の厚みに欠けたかもしれないが、さすが新国立劇場合唱団。とにかくうまかった。とても感動的だった。

舞台上の感染対策を見ていた観客も、それにこたえた。演奏終了直後によく聞くお馴染みの「ブラボー!」などの歓声は一切なし。その分、大きな割れんばかりの拍手でこたえた。本当に、席は一つおきだったのだろうか。そう思えない大きな拍手が永遠と思えるくらいに続いた。

思い出しても、胸が高まる。今年はあきらめていただけに、実際に第九の演奏を見られたことは、本当に嬉しかった。

対策は、公演終了後も続く。退場は、二階、一階、三階の順に観客が誘導された。最後まで丁寧な案内と対策があった。

 

最後にプログラムに載っていた、指揮者パブロ・エラス・カサドの言葉を紹介したい。

「この事態が終息したら、音楽はこれまで以上に大切で、なくてはならないものになるでしょう。」

既にそうなっていると思うけど、さらにそれを強く感じるのだろうな。

 

ちなみに、「これまで以上に大切で、なくてはならないものになる」のは、音楽ともうひとつある。「海外旅行」だ。なんてね。心が洗われた年末の午後だった。

このページのトップヘ