できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ
(livedoor.blog)
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便利な時代になったものだ。桐生は、レストランでWIFIがつながると、すぐに国定にLINEを送った。
「こっちは、今日、ゴルドナー・ヒルシュに泊まる。時間があったらビール一杯くらいどう?」
しばらくして確認すると、国定からの返信を見つけた。
「俺は、リーメンシュナイダーに泊まっている。ディナー後に時間を取れる。」
ふたつのホテルは、旧市街のメイン広場を挟んで徒歩7、8分の距離にあり、二人で仕事後の一杯を楽しむ時間はありそうだった。
海外添乗員たるもの、仲が良い仕事仲間と会える機会はそうそうない。気が付けば、この前の焼き鳥屋の集まりから、一か月半が過ぎていた。
男性添乗員は、女性添乗員と違って、友人とLINEのやりとりをする頻度も低いし、その内容もシンプルだ。三人であれだけ騒いだ国定のお見合いの報告でさえ、
「この前のお見合いだけど、だめだった。」
「そうか。おつかれ。」
この二行で終わっていた。必要最低限の連絡。それが男性添乗員同士の基本的なLINEだ。一般的な女性添乗員たちのように「ちょっと聞いてよ!」的なやり取りはない。「わかるー」や「かわいい」といった枕詞的な共感や褒め言葉など絶対にありえない。
ちなみに、このやり取りは国定と桐生の間だけで行われた。駒形に知られたら、見合いの失敗を馬鹿にされると思ったので、敢えて国定は、桐生だけに報告したのだった。
連絡はシンプルだが、実際に現地で出くわした時に、やたらと時間を取って会おうとするのも男性添乗員だ。なぜか会ってしまうと、急に寂しがり屋モードエンジンが火を噴くことがある。この時は、出くわしたのが、お互いに認める親友同士だったからなおさらだ。
「ツアヘルっていう、居酒屋風レストランを敬ちゃんにすすめられた。そこに行こう。八時半くらいに行ってる。」
「OK。じゃあ、ディナー後に地獄の入り口で。」
それぞれのお客の夕食の案内を終えて、待ち合わせ場所である「地獄の入り口」にあるレストランへ向かった。「ツアヘル」というのは英語で言うと、「To hell」。「地獄へ」という意味だ。ブルク通りの一角にあるレストランで、名店として知られている。
店のあるエリアは、日が傾いてから、街の中で一番最初に暗くなることで知られており、古くから「地獄の入り口のようだ」と皮肉をこめて言われていた。そこに、あえて「地獄へ」という名前のレストランをつくったのが面白い。しかも、すぐそばには「中世犯罪博物館」という、かつて罪を犯した者が、拷問を受けた道具が展示されている観光施設がある。ちなみにレストランと博物館は、なんの関係もない。
「こっちの人は、まるでコラボしているかのように、隣に合わせて徹底的にやるよね。」
店の中で会うと、国定が笑いながら言った。12月中旬のローテンブルクの中心には、クリスマスマーケットが設立されていた。華やかな雰囲気の広場の裏側にある地獄の入り口は、そのコンセプトを守るかのように、簡単な装飾だけで、その様相を守っていた。
観光客向けの店であるが、ローテンブルクの中では特に人気がある。日本語メニューはあるが、日本人を含めて、大きな団体は見かけない。料理メニューはアラカルトのみ。料理名に「地獄の串焼き」(肉の串焼き)などがあり、とことん地獄にこだわっている。
同時に、ワインへのこだわりも相当なものだ。このあたりの地酒「フランケンワイン」が、数多くグラスで用意されている。ビールがメニューにあるのに、いざ注文すると
「うちに来たらワインを頼めよ。」
などと、店の人が言われた。
古い建物の中は、とてもロマンチックな雰囲気だ。
豊富なワインリストの中から、国定はヴュルツブルクのリースリングを、桐生はジルバーナーを頼んだ。
ザワクラフトと地獄の串焼き、ジャーマンポテトを味わいながら、ワインをグッと飲み、国定がしみじみ天を仰ぎながら言った。
「このお店の名前って、天国の入り口だっけ?」
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