マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

January 2022

できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

これまでの登場人物は、上のリンクをご覧ください。

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「隼人君、お母さんからメッセージ来たんだけど・・・」

「うん。なに?」

「落ち着いてきたなら、今後のことをどうするか、早く決めろって。」

「今後?」

「うん。いろいろきちんとしろって。」

「・・・ああ、そうだね。そろそろ考えないと。」

「なに?どうしたの?」

なぜか、国定は急に動揺してしまった。別に舞に、プレッシャーをかけるような物言いをしたつもりはなかった。二人は、お互いに東京と長野を行き来しながら、ようやく同棲にまでこぎつけた。お互いの両親の許可をとり、結婚に向けて盤石な体制を整えたはずだった。

それまで全く違う生活をしてきた二人が分かり合うために、「必要な喧嘩」も何度か繰り返して、関係を深めていった。舞にとって、「今後」に向けて歩み出すのは、自然な流れだった。

「そうだな。次の添乗から帰ってきたら話し合おうか。」

「いいけど・・・なにも考えていないの?」

舞は、怪訝そうな顔をした。

「考えているよ。」

「本当?」

「もちろん。」

まるで、恋人の誕生日を忘れてプレゼントを買い忘れた男が「もう買ってあるから楽しみにしてて!」と無理矢理言い張って、慌てて買いに行くようなテンションだった。

「考えているなら、少しくらい話そうよ。うちの実家は長野で、隼人君の実家は熊谷でしょ?式は東京でなくてもいいよね?親族にだけにする?お互いの友達とか。」

「そういうのは、会場をある程度調べてから決めようよ。ここで、なんとなく話し合っても、要領を得ないよ。」

すると舞は、居間の本棚から結婚情報誌を三冊持ってきた。国定は、「しまった」と思った。

「一人で寂しい時に、勉強したの。すこしでも楽しいことを考えられるように。」

「そうか。」
国定は、興味なさそうにパラパラと雑誌をめくり始めた。」

「隼人君、私と結婚したくないの?」

「したいよ!」

嘘ではなかったが、なぜかこの時は、前向きになれなかった。理由は国定本人にも分からない。舞は、つまらなさそうに本を閉じた。

「こういうのって、女ばかりが段取りを考えるようになるっていうけど、そういうことなのかな?」

皮肉をこめて舞が言った。

「いや、そんなことないけど、こう・・・囲われるようなことをされると…。」

「囲われる?・・・どういうこと?」

「あ・・・いや、とにかく、次の添乗が難しいところなんだ。これから出発まで、しっかり準備しないと。その次は、一週間も間が空くし、得意なペルーだから、そんなに勉強は必要ないし、じっくり考えられると思う。うん。」

「ならいいけど・・・。」

「あのさ、舞。今日か明日にでも、サムゲタン風スープ食べたい。」

「は?・・・まあ、いいけど。なんで今?」

「ここ何日か、ずっと食べたいと思っていたんだよ。作って。頼むよ。」

「うん・・・。」

なにか腑に落ちないような顔をして、舞は冷蔵庫に向かった。

「明日でいい?プルーンがないの。」

「あ、そう。じゃ、買ってくるよ。」

「今じゃなくていいよ。ちょっと待ってよ!」

家に帰って三十分も経っていないのに、国定は、近所のスーパーに出かけた。
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できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

これまでの登場人物は、上のリンクをご覧ください。

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なんとなく銀座通りを日本橋まで歩いた国定たちはそこから東西線に乗った。

会話はなかった。舞には、国定が不機嫌そうにしている理由は、分かっていたが、どう言葉をかけていいか分からなかった。

「ワイン、美味しかったのに・・・あんなことどうだっていいのに。」

並んで座っている国定の横顔を伺いながら、少し不満だった。国定が、自分が飲んだことがあるワインの中で、お気に入りを選んでくれて、しかも美味しかったのだから、それでよかった。

「私の満足よりも気になることがあったの?あーあ…私もカフェに行きたかったな・・・。」

地下鉄が、地上に出て車両に日差しが差し込んだ。橋を渡る時、江戸川の水面がキラキラ光ってまぶしくて、舞は目を細めた。

「楽しかった?」

と、国定から声をかけてきたので、半分閉じていた目をゆっくり開けて、

「うん。お友達を紹介してくれてありがとう。」

と笑顔で返した。「最後の赤ワインも美味しかったよ。」と付け加えたかったが、それはやめた。

国定は、笑顔で頷きながら、一生懸命自分の心理状態を整えようとした。なぜ、そこまで動揺してイライラしているのか、自分でもわからなかった。

 

「でも、国定もあそこまで、あからさまに機嫌悪くしなくてもいいのにな。」

絵梨に敗北を喫した駒形は、少しいじけてから立ち直って、そう言った。

「まだそれを言うのか?」

絵梨が、じろっと駒形を睨んだ。

「いや、そういうことじゃない。」

今度の駒形は落ち着いていた。

「国定のショックと動揺は理解した。でも、絵梨も言ってたじゃん?国定が『自分のことしか考えていない』って。『自分のことよりも、舞さんの気持ちを優先するべきだった』って。彼に、それができていなかったから、そう言ったんだろ?」

「言った。それは確かにそう思った。気持ちは分かるけど、あの態度は納得できなかったなあ。」

「添乗員になっちゃったのかもしれない。」

絵梨が残念そうにしていると、間髪入れずに、桐生が鋭く言った。

「今、思ったんだけど、あの時だけ、国定は舞さんに対して添乗員になっていたような気がする。だとしたら、あれは彼にとって『あの程度の間違い』ではなくて、『失敗』だった。」

「えー!?理解不能。」

駒形が白茶を飲み干しながら天を仰いだ。その大袈裟なリアクションに絵梨と香織が爆笑して、香織は烏龍茶を吐き出しそうになった。

「いや、敬ちゃんは、国定と添乗スタイルが違い過ぎるから理解できないよ。」

桐生もつられて吹き出しそうになったが、なんとかこらえて話し続けた。

「敬ちゃんは、いつも旅行をトータルでとらえるだろ?外したらまずいところは、しっかりやるけど、それ以外は、多少のことは気にしない。だから、あの程度のワインの間違いなんて、失敗でもなんでもない。だろ?」

「まあね。誰も気にしないよ、あんなの。」

「俺もそう思う。俺と敬ちゃんは、仕事のやり方が似ている。」

「あら嬉しい。もったいお言葉だわ。」

絵梨がそう言うと、桐生はニコッと笑って、駒形は絵梨を肘で小突いた。

「国定は、トータルでなく、ひとつひとつのサービスを完璧にこなそうとする。その中の一言一句にも気を付けるんだ。」

「ああ・・・なんか分かるよ。あいつ、五大陸出身だしな。」

「あそこの顧客、厳しいからな。添乗員の粗探しをする、いやらしい客が、ツアーに必ず一人はいるって噂もある。」

「必ずっていうのは大袈裟だろうけど、厳しい客がいることは確かだね。なるほどね。」

「五大陸旅行社の客の前で、あんな間違いをしようものなら・・・」

「しつこくそれを言う客がいてもおかしくない。多分、その一言一句を気にする癖が出ちゃったんだよ。」

「うげー・・・職業病だよ。それ。」

「うん。気の毒よね。もし、本当にそうなら。」

香織が同情するように言った。

「ねえ、いつか、この四人でお好み焼き食べた時、敬ちゃんが言ってたじゃない?」

「なにを?」

「国定は、スーパー添乗員だけど、スーパーマンじゃない。彼女が、私生活でスーパー添乗員ぶりを期待したら、うまくいかないって。」

「言ったかもね。」

「あれ、逆かもよ。舞さんは、今の国定さんを受け入れていたと思う。国定さんが、スーパー添乗員のままでいようとしているんじゃない?」

「おれもそう思う。」

桐生夫妻は、同じ考えらしい。絵梨は、少し首をかしげた。

「そうかもしれれないけど・・・、まだ国定さんに自覚はないと思います。あったら、自制できるはず。それならきっと、このカフェにも来ています。」

「それはそうだね。」

桐生が納得するように頷いた。

「二人でいる時に、自然体になれなかったら、いつまでたっても結婚はできないよー。」

恋愛音痴な香織が、珍しくこの日は、まともなことを言っていた。

 

国定たちは、家に着いた。部屋着に着替えて、ゆっくりしようとした時、舞の携帯に洋子からメッセージが入った。

「二人で楽しむのもいいけど、そろそろ今後のことは決めているの?式のこととかは?もう十一月よ。」

はっとしながら、カレンダーを見つめる舞。

「そういえば・・・私、まだ正式にプロポーズされてない。」
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先週の土曜に、両国発着の隅田川クルーズに行って来た。その名も二大タワー周遊便。
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1月のカレンダーは、上記の通りだが、基本的に毎週土曜日の運航になっている。下のURLから予約できる。

https://qrtranslator.com/0000005757/000041

東京水辺ラインの船は、両国リバーセンターから出発して、浅草方面に進んでスカイツリーを眺めた後、お台場まで行き、再び両国まで戻ってくる。間での乗り降りはない、完全な遊覧クルーズだ。
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両国から浅草まではすぐだ。川からは、色が頻繁に変わるスカイツリーをゆっくり眺められる。アサヒビールのビルとのコラボは最高だ。
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その後、一度東武線の高架下をくぐる。青くライトがついているのは、すみだリバーウォーク。
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その後、美しくライトアップされた橋をくぐるが、
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個人的には、やはりここ。永代橋と摩天楼。ここは、不滅の美しさを誇っていると思う。いつ見ても美しいし、いつまで見ていても飽きない。
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さらに中央大橋、
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摩天楼は、夜のほうがその存在が際立ち、迫力があるような気がする。角度によっては、三つのビルが、ひとつの大きな要塞のように見えた。
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やがて東京タワーが見えるが、こちらは少し遠く、小さい。iPhone8で美しく撮るのは、さすがに難しかった。実際は、これよりもはるかにきれいに見える。
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東京湾に出る。遥か彼方に広がるビル群。
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レインボーブリッジと夜景のビル群。橋の下に、明かりがついたビル群が連なっている様子は、とても絵になっていた。
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お台場もかすめていく。

墨田川から東京湾に広がる夜景スポットを、一時間半で楽しめるクルーズは、非常におすすめだ。この日は、200人は乗れるであろう船に、20人ほどしかおらず、とても快適だった。飲み物は自動販売機のほか、一部アルコールも用意されている(この日は、マンボウのため、アルコールサービスなし)

週末の天気の良い時に、ぜひお楽しみください。

https://youtube.com/watch?v=Iz4eJYP9fPg&feature=share

https://youtu.be/7mKtkMNn3xg

https://youtu.be/8-rV_giGm8c

https://youtu.be/mBZc_FYNMa4

https://youtube.com/shorts/RDjEq4yme2I?feature=share

https://youtube.com/shorts/aA_H5fcTRyE?feature=share
このブログでは、動画を貼り付けられないので、YouTubeに貼り付けて引っ張ってきました。よかったらご覧ください。
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百年ぶりのパンデミックの渦中にいるものとして、百年前のそれを、なんとなく調べたことがある。
スペイン風邪と言われているが、起源にはいろいろあり、最近は中国説が有力になっているということ。
実は、感染状況は、西欧の中心や米国でひどく、第一次世界大戦の終結を早める原因になったということ。
戦争中の国々では、パンデミックを、できる限り表に出さないようにした。自国の不利的要素を隠すためだった。(現在のように、ネットやメディアが発展していない当時は、それが可能だった)
大戦に参加していなかったスペインでは、欧米でも、その様子が明確に伝えられたせいで、スペインで流行った疫病と考えられて、スペイン風邪と呼ばれるようになった。

そういえば、尖閣やウクライナ情勢、アラブ圏のきな臭さは、ここ二年くらいは。あまり騒がれなかったな。なにもなかったわけではないだろうけど、やはり、パンデミックでそれどころではなかったのだろうか。それらに関わる人たちにとっても、僕らのような見守る人たちにとってもだ。

俄に緊張してきたウクライナ情勢も、コロナパンデミックがなければ、もっと早い時期にこうなっていたのだろうか。(それとも、コロナに乗じてなのか)

明治三十五年生まれの、僕の父方の祖母は、パンデミックを経験していて、僕が子供の頃に、当時のことを話してくれたが、細かい部分の記憶は、あまりない。
「多分、あんなことはもうないだろうね。」
と言っていたことだけは覚えている。当時は、流行感冒と言っていたそうだ。スペイン風邪は、半世紀ちょっと前の出来事であったが、今となっては一世紀前。
当時を知る人がいない今は、さらに遠い昔のことのように感じる。もはや記憶というよりも歴史だ。
そういえば、祖母は、手洗いとうがいにうるさかったな。冬場、ちょっと体調が思わしくないとマスクをしていた。
今となって考えると、あれはスペイン風邪パンデミック名残だったのかもしれない。
以上、朝の通勤電車内で、ギリギリ記事を仕上げて、今日も頑張ります。
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つぎ足しても、白茶は美味しかった。

「さすがに、四回はつぎ足しても楽しめる、というだけはあるね。」

とぼけた一言を呟いて、駒形は、絵梨のほうへ顔を向けた。

「僕が、あの時計算していたとして、なにかまずかった?さっきの国定と舞さんのこととなにか関係あるの?優しさがまったくないようなことを言われると、さすがに傷つくんだけど。」

言い合いにはなっていないが、それに近い議論になりそうにはなっていた。この夫婦が、こういう雰囲気になるのは珍しい。桐生と香織は、緊張しながら見守った。

「ちょっと、舞さんたちの話からは脱線しちゃうんだけど・・・敬のことが気になったの。」

「どこが?」

「スタッフさんが、ワインの解説を始めた時に、睨んだのは良かった。その後フォローに行ったのも良かったの。でも、国定さんへのフォローはまったくなかった。」

「いや、だから、それがなんなんだ?」

「あなたは、時々自分の計算に入っていないものは、むげに放っておくことがある。それでいい時もあるけど、だめな時もあるんだよ。」

「だからどういうこと?」

「あそこまで気を利かせたら、計算外だった『落ち込んでいる国定さん』にもフォロー入れなくちゃだめなの!」

「そうか?」

「そうだよ。あなたがスタッフさんにフォローに行っている間、桐生さんたちは、場を和ませようと必死だったんだから。」

駒形が、桐生夫妻のほうに顔を向けると、二人が仲良く頷いた。

「あそこで、敬だけ何もしなかったから、あなただけ、すごく冷たく見えたよ。心配なんだよ。敬は、いつも笑顔なのに、たまに冷たい表情になるから。さっきの国定さんを見る目もそうだった。

あの人は、あなたの友達でしょ?国定さんが、大好きな舞さんに紹介したいくらいの友達なんだよ。あなたにとって情けない状態でもね、彼女の前で落ち込んでいたんだから、優しくしてあげなさいよ。優しくしてあげるべきところで、優しくしない時があるから、時々冷たく見られちゃうんだよ。」

「そんな冷たい冷たいを繰り返すなよ。」

「だって、本当のことだもん。」

「本当のこと・・・」

「うちの会社に八木崎さんが来た時言ってたよ。『駒形は、回転が早くて、旅の演出も上手だから、いつもアンケートで旅の満足度は高い。ファンも多い。でも、時々厳しい評価を下す客に出くわす。冷たいとアンケートに書かれる時がある。』って。自覚ない?」

「・・・・・・。」

「あるのね。桐生さんと国定さんには、そういうところはないとも言っていた。」

しばしの間、沈黙が流れた。そして、絵梨は続けた。

「計算できるのはいいことだと思う。あなたの場合、だいたい外れないし。でも、あと少しだけ優しくなって。本当は優しいんだから。」

「・・・うん。分かった。」

「え!?分かったの!?絵梨さんすごい!」

香織が驚いて声を出した。

「え?どうして?」

絵梨が不思議そうな顔をしている。

「敬ちゃんが、他人の指摘を素直に受け入れるって、初めて見た!すごい!」

まるで、奇跡を見たような香織の口ぶりだ。

「絵梨さんの言うことは特別だもんな。」

桐生が茶化した。駒形は、議論で負けても、必ず自分の意見を通すべきところは通した。桐生は、香織に「敬ちゃんと議論して、勝ったとしても、勝った気がしないんだ。」と言ったことがあるが、それが駒形の話術の巧みさを物語っている。

「絵梨が言うことは、いつも正しいからね。・・・それで、今日の絵梨様の正し過ぎるひとことは終わり?」

「敬が分かったらな終わり。」

「ちょっと待ってよ。なにその絵梨様の正し過ぎるひとことって()

香織が、けたけた笑いながら喜んでいる。

「たまにあるんだよ。ありがたいお説教タイムが。」

駒形は、三度目のつぎ足しを頼んで、また白茶を楽しみ始めた。だが、最初とは少し様子が違う。どこかしょんぼりしたふうだ。急に、絵梨が駒形の腕をさすって笑い出した。二回ほど、頭も撫でた。

「今はね、ちょっといじけているの。こういう時はかわいいの。」

絵梨が、香織になぜか自慢するように言った。

「うん。かわいい。」

香織も、楽しそうにその様子を眺めていた。

駒形は、ちょっといじけた顔で、お茶を飲み続けていたが、決してその状況を嫌がってはいないようだった。
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「国定さんが、あそこでへこむのは当然でしょ?」

「そうかな?」

「そうだよ!」

傍から眺めていると、面白い会話だった。国定の男心を、絵梨のほうが駒形よりも理解していた。

「大好きな彼女の前で、決めようとしてこけたんだもの。しかも、自分以外は全員知っていたんだよ?あれは、ショックよ。」

「ふーん・・・。」

あまりピンと来ていない駒形を見て、絵梨は、軽くため息をついて、桐生と香織に顔を向けた。

「敬は、こう見えても勤勉なんです。知識を得るためには、かなり貪欲です。」

「俺たちも、敬ちゃんには、そういうイメージを持っているよ。」

桐生が、笑みを浮かべながら「分かってるよ」というような表情を見せた。

「ありがとうございます。添乗員の仕事場って世界中だから、いろいろなことを、知れば知るほど、逆に知らないことを実感するでしょ?」

「まあね。ほんと、知識に関してはキリがないよ。」

桐生が苦笑いした。

「敬はそれを『知らなくて当たり前』と言えてしまう人なんです。時と場合によっては、それがお客様相手でも。」

マイペースに、白茶をすすって味わっている駒形を横目に、絵梨は続けた。

「もし、敬があの場で同じような目に遭っても、きっと平気なんです。それどころか、『へー、そうだったんだ。今まで勘違いしてた』で済んじゃう。皆が楽しんでいるなら問題ないで終わっちゃうの。」

「あれ?でも、それだとおかしくない?なんか行動の辻褄が合わないというか・・・。」

香織が、なにか考える仕草を見せた。

「なにがですか?」

絵梨が聞き返した。

「だって、敬ちゃんは、利久と一緒にスタッフを睨んでいたんだよ。国定さんをフォローしていたんじゃないの?」

「香織さん、違うの。あの時、敬が気にしていたのは、舞さんのことなの。」

「そうなの!?」

「そうです。舞さんがスタッフさんにした質問のせいで、国定さんの間違いがばれたら、舞さんが気まずくなるでしょ?それを止めたかったんですよ。」

桐生と香織の視線が駒形に向いた。

「人の気持ちを読むなよ。当たってるけど。」

「えー!?国定さんのことは?」

香織が目を丸くしていた。

「全然気にしていなかった。スタッフさんのところに事情を説明しに行って帰ってきた時も、国定が落ち込んでいたから、ビビったよ。舞さんのほうが、よほど気まずいはずだと思っていた。」

「へー・・・なんか、フェミニストにもほどがあるというか…利久は、どっちに気を遣っていたの?」

興味深そうに、香織が桐生に尋ねた。

「両方だよ。でも、どちらかというと国定かな。」

「だよね。私も、そこは国定さんのことを気にした。言われてみれば、敬ちゃんの舞さんへの優しさは、理解はできるけど。」

「それも違うんですよ、香織さん。」

「なにが?」

「あれは計算なの。」

「計算?」

「あそこで舞さんが気まずくなったら、場がシラけるじゃない?舞さんに対する優しさじゃなくて、場の雰囲気を壊さないための計算です。」

「うそお・・・。」

香織が、ますます目を丸くして駒形を見つめた。駒形は、自分のポットへの、お湯の継ぎ足しを店員に頼んだ。白茶がお気に入りらしい。
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23日に受けた検査の結果が、早速メールで送られてきた。無事に陰性だった。

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十か月もコールセンターに勤務しているおかげで、担当自治体の中では、少し、偉そうにしなければならない立場になってしまった。

マスクをしているとはいえ、スタッフの中で、一番多くの人と会話をしているのは僕だ。オミクロン株が猛威を振るっている今、コールセンターで、一番感染リスクにさらされているのも、他人に感染させる可能性が高いのも僕だと思うので、この結果にはホッとした。

前日に、ラグビーなどを呑気に見に行ってしまったことを考えると、「なにがホッとしているだ?」と言われてしまいそうだが、本当にホッとしている。多分、読者の誰もが想像しているよりもだ。

朝のミーティングで言おうと思う。

「とりあえず、僕が誰かを感染させていることも、誰かが僕を感染させていることも、可能性は低そうです。」

皆、安心してくれるだろうか。・・・いや、自己満足だよな。こんなの。

 

24日(月)の東京の新規感染者数は8503。ここ数日、1万を超える数字を見てしまったせいか、落ち着いてきたと思ってしまったが、前週17日の月曜日は3719だから倍以上に増えていた。いや・・・数字だけで考えたら、今週の火曜日以降はどうなるのだろう。怖い。

陽性率も、日に日に上がり。今日はとうとう28.1%にまでになった。30%は目前だ。

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悪化した数字は、悪い風になって、僕に残念な知らせを運んできた。2月に予定されていた国内ツアーが、中止になった。またもや、旅行現場を踏む機会を奪われてしまった。

いつものことながら・・・どうして辛いのだろう。分かっていても、押さえられない悲しい感情ってあるものなのだ。

しかし、二月は、まだまだコールセンターが安定しきっていないだろうと思うのも確かだ。
「なんとか自分がいなくても、まったく心配がない状態を作り切って、安心してから添乗に出るのがいい。きっと、旅行の神がそう導いたのだ。」
と、自分を励ます。

そしてまた、三回目接種の予約業務に向かうのであった。
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感染者が増え続けて、122日は、とうとう東京の感染者は1万人を超えた(11,227人)。検査陽性率も下がることなく、23日には26.9%にまで上がった。

そんな中、16日と23日のそれぞれの日曜日。僕はラグビー観戦に行って来た。(先週、行くと決めた記事は書いた。)
コロナの記録と記憶2022 ⑨どうしてもラグビー観戦をしたい : マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話 (livedoor.blog)

今シーズンは、観客を入れてはいたが、果たして行っていいものかどうか、正直、ためらいはあった。昨年のこの時期も、観戦に行くことは行ったのだが、今ほど感染者は出ていなかった。

自問自答を繰り返したが、なぜか「行ってもいいんじゃないかな。」という楽観的な考えが、自分の思考を支配した。慣れだろうか?

 

実際に行ってみて思ったが、きちんと感染対策はされていて、観客も、その案内に従ってはいた。そして、昨年のような緊張感はなかった。いい意味でだ。

観客席に、興奮して大声を出す人はいなかった。「もう自粛は我慢できない!」というような激しい感情が垣間見える人もいなかった。みんな、マスクをして、それぞれにルールを守りながら、静かにゲームを見守っていた。(歓声なしは、ちょっと寂しかったが。)


帰り道、日本橋でPCRのモニタリング検査を受けた。そこに着くまでの道中、東京駅周辺も日本橋界隈も、それなりに混雑していて、1万人の感染者が前日に出たなど、到底考えられないほどだった。少なくとも、これまでの「波」発生の直後には、あまり見られなかった現象だと思う。

まるで、かつての日常だった。マスクを全員が着用している以外は。

 

誤解を恐れずに言えば、収束を感じてしまった。収束って、コロナがいなくなったり弱くなったりすることよりも、人々が気にしなくなることなのではないか、などと、まだ日常になっていない、かつての日常の風景を見ながら思ったところで、今週も三度目のワクチン予約が始まるのであった。
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先週訪れた調布の味の素スタジアム。
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今週は、外苑前の秩父宮ラグビー場のゲームを観戦した。規制が設けられているため、まだまだ観客は少ない。でも、そのぶん、ゆったり座って楽しめた。まだ、満員の観客席は怖く感じるかもしれない。
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味の素スタジアムの帰りは、駅での混雑が嫌だったので、少し歩いた。新選組の近藤勇ゆかりの地があったようで、立ち寄った。
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今日の秩父宮の帰りは、隣の国立競技場傍を散歩した。現在は、有料で内部を見学できるようだ。今度行ってみよう。
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ジャスミンの花茶、白茶、とても香り高い烏龍茶。中国のお茶は素晴らしい。全員分が揃うと、四人とも「ほー・・・」と一息ついた。

「それで、どうして二人は結婚しないと思ったの?」

香織が絵梨に尋ねた。

「なんか、お互いの価値観が違い過ぎると言うか、理解していないというか・・・。今日のことを言えば・・・国定さんが、自分のことしか考えていないように見えました。」

「うん。分かるよ。」

桐生がゆっくりと頷いた。香織もなにかに気付いたようだ。

「今日は、舞さんに私たちを紹介したかったわけでしょ?主役は舞さんですよ。彼女を楽しませるのが目的じゃない?香織さんのメニューチョイスで、それはバッチリだったのに、なんか、国定さんは、つまらなさそうだったし・・・。あれって、自分がかっこつけるチャンスがなくなっちゃったからですかね?」

「そうだよ。その通り。」

桐生が言った。

「自分の顔を立ててくれるのを待っていたんだと思う。なんていうか、面子を気にするんだよね、彼は。」

「え・・・?まさか、それが理由で私、ワインリストを取り上げられたの?」

香織が、「しまった」という顔で、みんなに問い質した。

「リストを取り上げられた?そんなことあった?」

駒形が、興味なさそうに言った。

「国定が、赤ワインをオーダーする前に、俺が取り上げて香織に渡した。敬ちゃんも見てたじゃん。」

「ああ、あれか。」

「私、すごい余計なことをしていたの?・・・ごめーん。」

「いえ、全然香織さんは悪くないです。舞さんが喜んでいたんだから。そういう人を舞さんに紹介できているのだから、国定さんの面子は保たれているはずです。」

「そうそう。」

桐生が感心している。

「桐生さんが、リストを取り上げたのは、『自分がかっこつけたいなら、かっこつけさせてやる。頑張れ!』みたいな感じだったと思いますよ。」

「当たり。まさにそれ。」

「絵梨さん、すごい。」

桐生夫妻は、絵梨の言葉に、すっかり聞き入っていた。

「モンテプルチャーノの、あの間違いは、恥ずかしいのは分かるけど、舞さんは気にしていなかったし、ワインには喜んでいたんだし・・・あそこは自分の気持ちを押し殺してでも、我慢して笑顔でいて欲しかったな。このカフェにだって、歩きながら、彼女は楽しみにしていたのに。来たかったと思うなあ・・・。ああいうところで、彼女が喜ぶ方向に持っていけないと・・・いつか舞さんは爆発するんじゃないかなあ・・・。今は、頼り甲斐のあるお兄さんだと思って、言うことを聞いているだろうけど。

「そういうものかな。」

桐生が心配そうに尋ねた。

「なんとなく、いやな予感はします。」

駒形は、この話にはあまり興味がなさそうだ。

「モンテプルチャーノのあんな知識なんぞ、オタク知識だよ。知らなくても恥ずかしくもなんともない。」

「いや、あれは恥ずかしいと思って当然だと思うよ。彼女の前で、しかも自分以外は知っていたんだもの。よけい恥ずかしいよ。それは分かるの。」

「そうかな?」

「そうだよ。そういうところで、敬は、たまに、『人の気持ちが分からない』時がある。気をつけた方がいいよ。」

矛先が、今度は駒形に向かった。
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その後、少々微妙にはなったが、素敵なデザートの盛り合わせを食べて、無事にランチを終えた。

トイレに行った絵梨と、スタッフに挨拶している香織を残して、先に四人は店を出て外で待っていた。

舞は、嬉しそうに国定に話しかけている。国定は、必死に笑顔をつくっているように見えた。

その様子を見ながら、駒形と桐生は話していた。

「なんか、最後は微妙だったな。国定ってさ。妙なところでプライド高いよね。僕なら、あんな間違い全然気にしないけど。」

駒形は、嫌な緊張感から解き放たれたような感じだった。確かに彼なら、あの程度のことは、気にせず食事を進めただろう。

「普通は気にしないよ。」

桐生は、同意というより当たり前という口調で返した。しかし、

「でも、かわいい彼女の前だからな。なんとなく国定の気持ちは分かるよ。」

と、後から付け加えて、ある程度の理解を示した。

「付き合って数か月なら、まだ二人の関係はファンタジーだよ。ああいう時、かっこつけるのに、失敗したら恥ずかしい。そう思わない?」

「まあ・・・そうかもな。結婚して三年も経つからなあ。そんな気持ち忘れたよ。」

「忘れてないだろ。」

「なんでそう思うの?」

「敬ちゃん、説明しているスタッフを睨んでたろ?俺も睨んでいた。タイミング悪かったよな。説明はよかったのに。」

「悪いことしたよ。普通、ああいう説明は、ありがたがって聞くものなんだけどね。」

 

香織と絵梨が、スタッフに見送られて出てきた。香織はすぐに駒形のそばに寄ってきた。

「敬ちゃん、ありがとう。」

「なにが?」

「さっき、一度部屋を出た時に、スタッフのところにフォローに行ったでしょう?」

「ああ、まあね。スタッフさんにしたら、何が悪くて睨まれたか、さっぱり分からなかったと思うし・・・香織さんが、後々来にくくなってもいけないと思って。」

「大丈夫。十分スタッフに通じてた。あなたのそういうところ好き。」

「それはどうも。」

「さすがだな。きっとそうしたとは思っていたけど。」

桐生は、駒形の行動を分かっていたようだ。絵梨は、嬉しそうな笑顔で、軽く駒形と腕を組んだ。

六人は、銀座から京橋へ向かって歩き始めた。途中に、絵梨が知っている中国茶をたくさん扱っているカフェがあり、そこに行こうとしていた。二次会だ。

女性三人が前に固まると、国定が、ススっと後ろに下がってきて、桐生と駒形に近づいてきた。

「ねえ、二人ともあのこと知っていたのか?」

「あのことって、モンテプルチャーノのこと?」

分かっているくせに、わざわざ桐生が聞き返した。

「うん。」

「知ってたよ.GINAZAのツアーで、モンテプルチャーノに行った時。ワインショップに入ったら、店の人が教えてくれた。それがなかったら、知らないよ。」

先に駒形がこたえた。

「俺も、モンテプルチャーノに行った時に教えてもらった。」

「そうか・・・。」

「でもな、ドライバーは知らなかった。地元の人たちでも分かっていない人たちが多いらしい。その程度のことだよ。」

桐生が、励ますように言ったが、国定の面白くなさそうな表情は変わらない。駒形は、ウジウジしている国定が面倒になって、離れた。

「あのワイン、美味しかったよ。私は大満足。」

「うん・・・。」

カフェの前に着くと、国定が行った。

「俺たち、帰るよ。」

舞は「え?」という表情をして、きょとんとした。まったくそんなつもりはなかったようだ。

「行こう、舞。」

丁寧に、桐生と駒形たちに、丁寧にお礼の挨拶をすると、舞は、少しつまらなそうに国定の後を追った。

「今度、また浜風に行こうな!」

そう桐生が言うと、ようやく少しだけ笑みを見せた。

 

カフェには四人で入った。少しきまずい、しかし、四人とも、どこかほっとした気分を感じていた。メニューを渡されると、絵梨が三人に聞いた。

「ねえ、あの二人、どう思います?」

「どうって・・・いい感じじゃない?」

恋愛音痴の香織がこたえた。

「そうですね。いい感じだったかもしれませんね。・・・あ、私これ。玉蘭紅茶。」

花茶の中から、ひとつ選ぶと、冷静に絵梨は言った。

「あの二人、結婚しないと思う。」
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