2/15に帰国。素晴らしいお客様たちと笑顔で分かれ、晴れやかな気持ちで帰宅した。だが、その気分が続いたのは、帰宅してテレビのスイッチを入れるまでだった。メディアでのコロナの扱いが、騒ぎ方が、たった一週間でがらりと変わっていた。欧州での感染者もじわじわ増え始めていた。

 

8日に出発した時、すでにダイヤモンドプリンセス号がかなり問題となっていた。また、その影響でツアー客のキャンセルがかなり増えてきていた。戦災やテロ、またはSARSなどの疫病などの発生が原因で、旅行のキャンセルが出るのはよくあることだが、一週間前と違うのは、けっこうな金額のキャンセル料が発生するようになってからも、それを惜しむことなくキャンセルされる方が増えたことだ。今考えると、いよいよ旅行業界が揺らぎ始めていた。

 

誠に順調であったドイツ&オーストリアの報告を終えて、僕は、次の仕事の打ち合わせのため、別の旅行会社に向かった。

 

僕は、現在二つの旅行会社で仕事をいただいている。A社とB社で、基本的には、それぞれ顧客層が被らないところで仕事をしている。A社は格安ツアーのトップ企業で、添乗員にとっては、いい意味でシステマチックで仕事をしやすい。格安なのに、ホテルも食事もそれなりのレベルを維持している。スタッフも有能な人が多く、対応が早い。最近は、かなりコストパフォーマンスに優れた高額商品を出して、そのツアーも時々やらせてもらえることがあるが、これもまた品質が高い。

 

B社はある大手旅行会社の高額商品ブランドのひとつ。ホテルもよいが、特に食事に力を入れている。また、定員が10名と少ない。その分、緻密なサービスが求められるが、仕事としては、とてもやりがいがある。

 

僕は、取引先に間違いなく恵まれている。言い換えれば、この二社は、僕にとって相性抜群だ。向こうがどう思ってるかはわからないけど。

 

さて、このシリーズの中で、これまで登場したツアーはすべてA社のものだったが、今度の南部アフリカはB社のものだった。

 

ちょっとだけ旅行業界の、ここ最近のヒストリーを語りたい。20世紀最後の10年から21世紀初頭の旅行会社のツアー品質を引き上げてきたのは、中小の旅行会社だ。高齢者向けのゆったり日程と連泊中心という発想、世界遺産へのこだわり、ちょっと変わった訪問地などをコンセプトとしたツアーは、数々の中小企業である旅行会社が、しのぎを削って開発し磨いたものだ。今ではメジャーな観光地となったギリシャのメテオラ、イタリアのドロミテ街道、イギリスやフランスの田舎町巡り、アフリカや中東の秘境系ツアーなどは、大手の会社でなく、いくつかある優れた中小の旅行会社がツアーに組み入れて知られるようになった。それらを大手が、自分のところに合わせてリメイクして人気商品となったものは、案外多い。

 

旅行商品の内容など簡単に盗める。パンフレットに情報がすべて載ってるのだから。料理のように隠し味がなにか見破る手間はないし、精密機械のように分解して仕組みを調べる必要もない。あとは組み合わせのセンスと、仕入れの力だ。だから、あっという間に大手のツアーは中小に追いついてきた。

 

「アイディアそのものは、どの業界でも中小企業が最初に出してることが多いのです。でも、それを発展させて自分のものにするのは、大手企業がうまいですね。発展どころか看板商品になってしまうものもありますよ。」

 

大学時代に受けた授業での話だ。教授は、授業の最後にそういった商品を見つけ出して、翌週までにレポートを出すように求めた。僕は、モスバーガーが開発したのに、マクドナルドでも看板商品となった「てりやきバーガー」について書いた。後で知ったのだが、てりやきバーガーは、この手の例としてよく挙がるらしい。この時の教授は、あえてそれを言わなかったのかな。だとしたら優しかったな。

 

旅行会社のツアーには、とてもたくさんの「てりやきバーガー」がある。

 

ちょっと話がずれてしまったが、B社の社員たちは、そこに移ったことで、アイディアを絞り出しながら、それを発展させることができる働き場所を手に入れたわけだ。つまり、最強のプロフェッショナル軍団になった。このB社の特徴は、ストーリーの都合上、あったほうがわかりやすいので、念のため構成に含めた。

 

この次の南部アフリカツアーで、僕は、このプロフェッショナル軍団に、ツアーの終盤助けられることになるのだが、それはまた次回から。

 

今日はもう一本話を書きますからよろしく。てりやきバーガーの話を書いたら、食べたくなったので、買ってこよう。マックでなく、モスバーガーで。