出発当日の天気が、ツアーに大きな影響を与えることがある。今回は、降雪と台風の影響を受けたパターンを紹介していきたい。最初に、このシリーズで申し上げたいことをお伝えすると、「天気予報があやしかったら、迷わず前泊」ということだ。

 

 

2016年1月。僕は、真冬のポーランドのツアーを割り当てられた。お客様の人数は36名。観光シーズンとしては、ベストとは真逆の条件であったが、とにかく他の出発日に比べて圧倒的に安いということで、これだけのお客様にお集まりいただけたようだ。

 

36名様のお客様にお電話するだけでも大変だ。しかも、出発日は雪の予報だった。東京の交通は、雪に極端に弱い。そのうえ、この時利用したポーランド航空は、午前中の早い時間に出発だった。

 

僕自身、それまで雪の被害に遭ったことはなかったが、それで苦労した添乗員の話は聞いたことがあったので、電話でのあいさつとご案内が終わった後、雪に関しての注意と、できたら前泊するようにお勧めした。

 

新潟、長野、大阪など遠方からいらっしゃるお客様は、「最初からそのつもりだった」ということなので問題なし。

 

成田空港から近い千葉、東京都心の方々は、前日の天気予報次第で前泊、または予定よりも早く出るとのこと。一人、江戸川にお住まいなのに前泊するという方もいらっしゃり、ここも問題なし。

 

問題は、東京西部にお住まいの方々だった。立川の方が4名、八王子の方が2名いらした。しかも全員中央線沿いにお住まいだった。以前、僕が府中に住んでいた時、悪天候時に京王線、小田急線が動いていても、中央線だけ徐行だったり止まったりしたのを見ていたので、強く前泊をすすめたのだが、全員、

 

「まあ、大丈夫でしょう。いざとなったら考えます。」

 

とのんびり答えるだけだった。危機管理というか、気質というか、こういった時の反応は、お客様によって千差万別だ。これも個性なのだろう。心配だった僕は、6名様の電話番号を、旅行会社から許可をとって持ち帰り、いざ、当日朝からの降雪が、現実的になった前日にもう一度電話をかけた。

 

八王子のご夫婦は、前泊しようと思いなおしていたが、空港ホテルが取れずに断念し、当日自宅から出発しようとしていた。僕は、

 

「空港でだめなら成田市内、そこがだめなら乗り換えなしで行ける近いところに宿泊してください。遠くても千葉までくればホテルはありますから。そこまでくれば、当日たどり着けないことはないと思います。」

 

そうして前泊されることになった。立川の4名様は、とうとう動かなかった。

 

いよいよ出発当日。僕は、江東区の自宅を、当初の予定よりも1時間以上早く、5時に出た。予報では6時頃から降雪とのことだったが、マンションを出ると、すでにアスファルトは雪で白くなっていた。

 

「ここで、この雪だと立川のほうは・・・。」

 

都心と多摩地区での雪の降り方の違いは、知っていた。心配しながら空港に向かう。車窓を眺めながら、さらに心配が募った。雪が降っても千葉に入ると、ふだんなら雨に変わることが多く、雪でも積もらないことが大半なのだが、この日は、どんどん景色が白銀に変わっていった。

 

予定通りに空港に着いたものの、前泊を知らされていたお客様以外は、大半が遅れてきた。

 

立川の4人のうち1組の方からは、集合時間を過ぎて、予定の出発時間の1時間前に、ようやく空港事務所に連絡があった。4人は、それぞれ夫婦と女性の友人同士の2組。お互いは知り合いではなかったが、同じ電車に乗っていたようだ。

 

「今、まだ新宿なんです。間に合いますか?」

 

この天候で、まだ新宿?出発まで一時間しかないのに?常識的に考えれば絶望的だ。電話を替わった僕は、お客さんとお話しした。

 

「もし、間に合わなかったら、明日に振り替えられる?前、友達からそんな話を聞いたんだけど。」

 

「難しいと思います。ポーランド航空は、週二便しか飛んでないのです。明日は飛ばないし・・・」

 

「こんな天気でも?それを理由に、他の航空会社に振り替えられないの?」

 

「天候は、航空会社の責任ではありませんし・・・。それに、同じ条件で他の方々はいらっしゃってるんですよ。そこを考えると・・・。」

 

「・・・・・あー・・・。前泊すればよかったあ。どうすればいいかしら?」

 

泣きついてくるお客さんに「少々、このまま電話を切らずにお待ちください」と伝えて、僕はポーランド航空のカウンターに向かった。するとどうだ。出発まで一時間を切ったところなのに、チェックインを終えていない乗客がけっこういる。

 

「こんな天気で、空港に遅く到着された方が多いんですよ。それに、上空で到着のフライトも待たされたようで、さっき成田に着いたばかりなんです。」

 

「え?じゃあ、今新宿に着いたお客さんが方がいらっしゃるのですが、間に合いますかね?」

 

「・・・・・・・・・・・・ひょっとしたら。いらっしゃらなければ、可能性は0です。」

 

僕は、それをそのままお客様にお伝えした。

 

「飛行機も遅れてますから、とりあえずいらしてください。いらっしゃらなければ、可能性は0です。」

 

もう一組の夫婦からは、成田空港行きの電車に乗ってから連絡があった。パニックになりながら、「とりあえず行く!」と、テンション高く声を張り上げていた。それでも、雪の中の電車だから、いつもよりも運転速度は遅いし、間に合う保証などなかった。

 

結局、4人は奇跡的に間に合った。搭乗が始まった時に、空港スタッフから「たった今チェックインを終えてゲートに向かった」との連絡があり、大変劇的に、僕は4人とお会いできたのだった。

 

「あんなに熱心に、何度も電話をくれたのに、言うことを聞かなくて本当に申し訳ない。」

 

4人は、とてもいい方で、何度も僕に頭を下げた。間に合えば問題ない。旅行できるのだから、よかった。

 

「でも、4人もこんなことになってるし、腹が立ってるでしょう?」

 

「立ってません。僕は天使ですから。」←本当に言った。

 

ほんと、天気が悪かったら、なにがあるか分からない。もし、フライトが遅れなかったら、4人の旅行は完全になくなっていた。天候に関しては、時々温情はあるが、基本的に航空会社の免責事項だから、なにも責任を取らなくても文句は言えない。天気予報があやしい時は、自分が使っている路線が、悪天候に、どの程度強いかどうかを確認することも大切だろう。

 

みなさんもお気をつけてください。

 

なお、天使の笑顔を見せながら、「もし、4人が来れなかったら、36人が32人になって、少しは楽になったのになあ・・・。」なんて、ほんの少し思っていたのは、絶対に内緒だ。

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後々ポーランドのことは、ゆっくり紹介するつもりだけど、とりあえずここでは少しだけ。
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悪名高きアウシュビッツ。展示と説明は、わりと淡々としており、正面から歴史と向かい合うことができる。ここは逃げずに人間と歴史というものを学びたい。当時のドイツ人が、ある程度環境を考えてつくっており、並木があるなど、ぱっと見は、均整がとれている印象だ。
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アウシュビッツの施設と街路樹、街路樹は、当時から植えられているもの。
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ヴロツワフの街の広場。お国柄か、一月半ばなのにクリスマスツリーが置かれていた。
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この街には、身長10cmほどの妖精があちこちにいる。ATMの残高を見て、しょぼくれている妖精
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酔っぱらっている妖精
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イタリアンレストランの前で、お腹いっぱい食べて倒れている妖精59DA5ED5-7224-46DC-822C-8FB55B3E6423
ベスパに乗っている妖精
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教授?な妖精
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火事を消そうとしている妖精

などなど。他にもたくさんいるから探してみるといい。ツアーに参加すると、ある程度はガイドが教えてくれる。あちこちにいーっぱいいるから。