「それでも旅行がしたい。」

先日、山陰から帰着したツアーに参加したお客様たちの気持ちを一言で表すと、それに尽きると思う。これまで30名様以上の大きなグループばかり案内してきたが、今回は17名様と、比較的人数が少ないせいで、大半の方々と密度の濃いコミュニケーションが取れた。

例えば、こんな方がいらした。ツアーは、夜の10時に東京駅構内で解散。それから多摩地区の自宅に帰るお客様は、最寄りの駅から20分以上歩いて帰るという。

「だって、タクシーなんて誰が座ったかわからないじゃない。運転手との間に衝立(お客様の表現)があったってて、客席の消毒なんて、いちいちやらないでしょう?」

実際どうなのかは知らない。でも、この方はそう思っていらした。

「なにかあったら、このツアーのことも言わなきゃいけない。そうしたら、ツアーの皆さん全員に、ものすごい迷惑がかかっちゃうじゃない。絶対に感染しないようにして帰らなきゃ。」

そのお気持ちは、とても嬉しい。

「国内ツアーは、GOTOトラベルが始まって二度目だけど、ツアーは安心よ。バスは、いつも一人で二席だし(この旅行会社の、一部のブランドがそうであるだけで、必ずしもすべての旅行会社がそうであるわけではない)、私たちがバスを降りて観光している時は、いつも消毒してるじゃない。」

これは、本当にしている。常にドライバーかガイドのいずれかが、消毒液をシートに吹きかけているし、消毒液を沁み込ませたタオルで、肘掛けを丁寧に拭いている。涙ぐましい努力だ。ドライバーは、「車内の空気は5分に一回のペースで入れかわるようになっており、十分な換気対策になっています。」と説明する。宿泊施設では、常に消毒が促されて、食事中のテーブルはグループごとに十分な距離をとり、座席は対面なし。風呂場のスリッパは、ビニールに入れての持ち込みか、アルコールスプレーでの消毒。

きちんとした説明と、目に見える努力ほど、お客様に安心感を与えるものはない。

「普段の自分の生活よりも、国内ツアーに参加したほうが、感染対策は安心なくらい。」

というお客様の言葉は、本心だろう。「この時期のツアーに参加していいのかと、正直迷った。」というお客様も、最後は、旅の余韻も手伝ってか、そんな複雑な思いを忘れたかのようにお帰りになった。

逆に言えば、そこまでやらないと、お客様は納得されないし、ツアー参加を継続していただくことは難しいだろう。

現場では、このように感染対策をしっかりしながら、旅は楽しく過ぎていく。さすがに現在の状況で、旅行を推奨したいとは思わないが、今の時点での国内ツアーの現場の様子はここに残しておこう。

昨日、このツアーの報告に行ってきた。オフィスは活気に溢れていた。感染対策の徹底を叫び続けながら、GOTOキャンペーンと、今ある国内ツアーの存続を信じつつ、みんな実務に勤しんでいた。

 

そんな中、もちろん葛藤はある。東京では、「不要不急の外出を控えるように」と言われながら、GOTOトラベルが推奨されるという、一見奇妙な現象が起こっている。正直、「このまま仕事を続けてもいいのだろうか。」と思うことはある。似たようなことを、ここ最近のブログで何度も書いているが、毎日、この気持ちが浮き沈みする。

「一見奇妙」という言い方をしたが、医療と経済を共になんとかしなければいけない状況を考えると、間違えてはいない矛盾とも思えるのだ。相応しい例えではないかもしれないが、今の旅行業界は、癌治療の真っ最中のようなものだ。コロナという癌がある。それが理由で旅行業は不全状態に陥った。

そこにGOTOキャンペーンという名の「放射線治療」が登場した。癌細胞を叩くには有効な放射線治療だが、大きな副作用が伴い、腎臓や肝臓に大きな負担を強いることがある。GOTOトラベルキャンペーンを利用された人々で、コロナに感染した人は、200人少々いると言われている。あくまで利用した人の中での感染者数であって、必ずしも旅行の中で感染したか定かではない。だが、決して無視していい数字ではない。つまり、キャンペーンが、感染者増という副作用を起こしたという可能性は否定できない。放射線治療は必要だが、副作用で別のところを傷つけてもいけない。

 

医療関係者が、明確なエビデンスを示すことができないながらも、GOTOキャンペーンの一時的な中止を求めるのはよくわかる。しかし、もしそうなったら、今度こそ旅行業界という社会の中の細胞は、かなりの部分が死ぬ。

仮にだ。収束の目途が立っていれば、より早くそれを達成するためにキャンペーン中止をして、収束後の再開を目指すことになるのだろう。でも、それがいつになるか分からない現在において、中止を公言することは困難ではないのか。逆に、この状況で、キャンペーン中止を実行するには、かなりの勇気が必要なはずだ。そうなったら、僕らも様々な覚悟を求められる可能性がある。医療よりも経済というわけではない。医療も経済も同時になんとかしなくては、崩壊してしまうのが、旅行業界だ。

 

そんな不安を抱えながら、来週は、北海道のツアーが待っている。