登場人物(詳しくはエピソード③参照)

 

マスター・ツートン

このブログの筆者で、ストーリー中の添乗員。

 

色白OLさん

ツアー中、とあることで突然涙を流した。

 

素敵な帽子さん

色白さんの同僚。

 

無邪気さん

自分が色白さんを泣かせてしまったと、この時点では思っている。

 

大婦人さん

言葉に強さを持つ、添乗員の頼りになる味方。だが・・・

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僕が見えてないところで(鈍くて見えなかったのかもしれない)、そんなことがあったとは。

ただ、彼女たち曰く「ツートンさんの前では誰もそんなこと言わない」とのことだったが、結婚とか孫とかの説教話は、僕も食事中にお客様から振られていた。僕の場合、仕事柄、日常茶飯事であるから、二人よりも慣れているせいか、なんとも思わなかったのか。それとも、男性と女性では感じ方が違うのだろうか。

 

「私たちに対してと、全然言い方が違うもん!あんな優しい言い方なら、私たちだって腹は立ちません。だって、ツートンさんは添乗員ですから。普通、敵にまわすようなことは言わないでしょう。よほど腹が立っていない限り。」

そういうことか。それにしても、そこまで腹の立つ言い方ってどんなのだろう。想像がつかない。

「あとはね、自覚はないかもしれないけど、ツートンさんはマダム受けします。だから別の意味でも、お客さんのほうが嫌われたくないかもしれない。絶対に得してると思います。」

こんなこと言われても、反応しようがない。マダムたちに特別嫌われてるとは思わないけど、得してるかどうかなんて分からない。他の添乗員と見比べる機会などもないし。

「特にうるさかった人っていらしたのですか?」

これを質問すると、それまで静かに見守っていた素敵な帽子さんも身を乗り出して、二人で声を揃えて言った。

「大婦人!!」

「大婦人・・・大婦人さん!?」

しっかりと頷く二人。ショックだった・・・。だって、大婦人さんは、空気を読めない夫・大先生の暴走をことごとく止めてきた、少なくとも、僕にとってはベリーナイスなマダムだった。

「私たちには最悪でした。悪人とは言わないけれど、私たちが、このツアーにいるべきではないみたいなことを、何度か言われました。結婚とか子供の話の流れで。」

「いくらなんでもそこまでは・・・」

「はっきりそうは言いませんよ。でも、私たちがそう受け取るようなことは言いました。」

素敵な帽子さんが無言で頷いた。僕の表情を、観察しながら色白さんは続けた。

「ツートンさんにとってはいい人だったと思います。そこは気にしないでください。贔屓にしてくださるお客様は大切ですから。でもね、」

「・・・でも?」

「時々、ご贔屓にもほどがあるというか、集合時間ギリギリに来た人に『ちゃんと時間前に来なかったらだめよ。ツートンさんに迷惑でしょ?』なんて言うんですよ。他の方に迷惑とかじゃなくて、『ツートンさんに迷惑』だって。時々みんなで言ってたんですよ。『早くしないと遅れるよ。大婦人に怒られるわよ!』って。まさに影の支配者!」

「嘘・・・」

「ほんとですって!()

他にも何かうるさく言ってきたお客様は、ツアー最初に大婦人さんと仲良くなったご婦人たちのようだ。名前を伺って、あるシーンが頭に浮かんできた。

ディナー時、色白さんが席を立った時、しまったと落ち込んでいた無邪気さん。その後、何人かが、彼女のところに慰めに来ていた。その時のメンバーと、話の中で色白さんたちから聞いたメンバーが、まるっきり重なった。雰囲気を壊す原因となった無邪気さんにどうして皆そんなに優しいのだろうと不思議だったのだが、

「無邪気さん見て、自分たちが言ったことを思い出して『しまった』と思ったんじゃないですか?」

という、色白さんのご指摘通りだったのか。ということは、あの時、ご主人の暴走を止めた大婦人さんが、複雑な表情をしていたのも、そういうことなのだろうか?(エピソード③参照)

 

「ねえ、じゃあさ、あの時は別に無邪気さんに腹を立てていたわけではないの?」

「ぜーんぜん!ろくに会話もしてないし、あんな一言だけで怒るわけないじゃん。変だと思わなかった?」

気がつくと、僕らはお互いに敬語を使わないようになっていた。

「いや、だから泣くほどのことではないと思った。」

「あの日、ホテルにチェックインしたに、誰かから『若いうちに外国に来れていいわね』みたいなこと言われたの。それ自体は、嫌味じゃなかったのかもしれないけど、なんかもう拒否反応おこしちゃって・・・。それが冷めないうちに、無邪気さんにあんなこと言われちゃって。」

色白さんはバツが悪そうに言った。

「無邪気さんはね、たまたまスイッチ押しちゃっただけなの。」

「でも、発言自体は失礼だと思うけど。僕は、それに腹を立てたのかと思った。」

「無邪気さんは、かわいいよ(笑)」

素敵な帽子さんが喋り始めた。

「そうそう♪あの人、子供じゃん。天真爛漫になんでも思ったこと言うだけ。私たち、姫って読んでたの。姫様が席におつきあそばされました。姫様は、お肉がお嫌いであらせられるご様子です。・・・みたいなね(笑)」

色白さんが続く。

「空気を読まないって、悪く言う人もいたけど、私たちは実害を被っていたわけじゃないし、あそこで怒らなくてもよかったのよぉ・・・。別の人の時にキレればよかった。あれじゃ弱い者いじめだ・・・。」

「素敵な帽子さんは、色白さんを追って部屋に帰る時、『気にしないで』って言ったでしょ?あれは本心?」

「うん、まあ、ある意味(無邪気さんにとって)とばっちりだっかからねえ・・・。二人で部屋に帰ってから『しまった!やばい!』状態だった。早くフォローしなきゃって。」

「すぐにフォロー入れたじゃん。もう大丈夫だよ。」

「そうなんだけどね。さっきの集合もね、本当は先にツートンさんに経緯を報告しようと思ったのよ。心配してると思って。だから、私たち、早く集合場所に行ったでしょ?でも、先に無邪気さんたちがいるんだもん。」

「そう言えばそうだね。」

「あの時、ツートンさん、私たちに気づいて、こっち来てくれないかなって二人で話してたのよ。『ディナーを途中で帰っちゃったんだもん。“大丈夫ですか?”くらいのフォローには来てくれるよ。』って話していたの。」

「え?」

集合時にエレベーターから降りて、なにか話している二人の姿を思い出した。

「でも、来てくれないんだもん。いつになっても、無邪気さんたちと話していてさ。このままだと、みんな来ちゃう!とりあえず、無邪気さんだけにでもフォロー入れなきゃ!って、それであの時謝ったの。」

「・・・ごめん。いや、申し訳ありません。目の前で落ち込んでいた無邪気さんばかり気になっちゃって。完全な片手落ちでした。いや・・・本当に気が利かなかった。」

「まあ、大丈夫。今、こうして話してるし。おかげで、こうして本場のカールスバーグ飲んでるし。」

色白さんが言うと、二人はビールグラスを手に持って乾杯のポーズをとった。

「ツートンさん、二杯目はごちでーす。」

帽子のツバを軽く上げながら、素敵な帽子さんが笑顔で言った。

 

続きは年明けに