こう見えて、僕はトラブルが少ない添乗員だ。滅多に遭わない。

ただし、このブログでも見られるように、稀に遭うトラブルは、みんなメガトン級の破壊力だった。こんな目にあったら、添乗員を辞めてしまってもおかしくないようなものも経験している。

基本的には、添乗という仕事が好きなので、それらを乗り越えることができた。乗り越える度に、最初は、やや僕の片思いのほうが強かった「旅の仕事」から、だんだん愛されているような気持になってきた。

 

そうして前向きに生きていても、思い出したくもないトラブルはある。今回は、その中でも一番恐ろしかったものを書いた。

ただ、このトラブルは、最終的に収まったものの、参加者と旅行会社が完全に和解しておらず、今までのように、完全なドキュメントレポートとして書くことは難しい。実は、過去にある小さなSNSで書いているのだが、閲覧者が多いブログでは、そのまま載せにくい。

 

そこで、今回は、人物や背景の設定を大幅に変えて、物語として話を進めていく。

僕の体験を基にした話ではあるが、そういうことで僕は登場しない。僕をモデルにした人物は登場する。他の登場人物も、モデルはいるが、架空の人物とする。その他、宿泊施設、航空会社、旅行会社すべて架空のもの。エピソードもすべて設定されたものであり、事実ではない。

 

素人のへぼ小説になること請け合いだが、なるべくそうならないよう、いつも以上に内容には気を遣っている。すべてがきちんと伝わるように。まずは、人物紹介。

 

駒形 敬(こまがたけい)

30台半ばの男性添乗員。フリーランスに近い形の派遣添乗員。訪問国数は75。大学を卒業して海外専門の旅行会社に10年間勤務。退職して、海外専門の添乗員となった。臨機応変な対応と、優しい話し方と笑顔で、お客様から人気があり、取引先からも信頼が厚い。年齢に関係なく、女性のお客様には甘い。優しいのではなく甘い。それが理由で、時々一部の男性客から反感を買うことがある。ただし、本人は「女性に甘い」という自覚が全くない。ちなみに、それほどモテるタイプではない。少々自信過剰気味。北関東の地方都市出身。独身。

 

思川 葉月(おもいがわはづき)

30台後半の女性添乗員。訪問国数は90。かつては、駒形と同じ派遣元に所属していたが、ファーストクラス・トラベルからヘッドハンティングされて、現在は同社の社員。正義感が強く、お客様に尽くす。男性客には大らかに、女性客には優しく接するお姉さん気質。キリっとしたハンサムガール。ややツンデレ。見た目はきれいなので、世界のどこに行っても、ある程度はモテる。また、公平なサービスには定評がある。女性客ばかりに甘い駒形に、時々イライラする一方で、臨機応変に様々な対応を思い付く彼を、頼もしくも思っている。決してトラブルに弱くはないが、時々パニックになる。東京生まれの東京育ち。既婚。

 

イスカンダル

40台前半。駒形のグループの男性エジプト人ガイド。カイロ大学卒業。日本在住経験あり。日本語を東京の語学学校で学んだ。日本人顔負けの生きた日本語を話す。今でも、たまに日本を訪問する。日本の電気製品が大好き。メイドインチャイナの日本メーカー製品は、世界最強と主張する。なお、イスカンダルという名前は、アラビア語に実際にある。あまり知られていないが、アレキサンダーのアラビア語呼称がイスカンダルである。既婚。イスラム教徒。

 

ハーディー

思川のグループの男性エジプト人ガイド。30台半ば。カイロ大学卒業。大阪府内の大学に留学経験がある。そのせいか、時々日本語に大阪弁が混ざる。頭の回転が早いが、口の回転はそれ以上に早い。ガイドの仕事には、強い情熱を持っている。時々喋り過ぎて、イスカンダルからうるさがられる。イスラム教徒だが、日本在住初期に、豚肉のエキスが入っていることを知らずに、カップラーメンをたくさん食べてしまったことを後悔している。その後、漢字をマスターして日本語表示を読めるようになって以来、そのような過ちを犯さないようになった。今では、豚肉エキスが入っていない「どん兵衛」以外は食べない。少々野心家で、独善的なところがある。既婚。

 

ファーストクラス・トラベル

架空の旅行会社。思川の所属先で、駒形の取引先。かつては、ある大手旅行会社の一ブランドだったが、完全独立法人となった。富裕層を顧客対象とした旅行会社で、売り上げの大半は、添乗員付きのパッケージツアー。利用航空座席は、基本的にビジネスクラス。ホテルは、常にデラックスカテゴリー利用。客層が限られているため、メディアで旅行会社名が露出されることはあまりない。ホームページはあるが、そこからは、ツアー内容を確かめるだけで、意図的に申し込むことはできないようにしている。新規申し込みは、基本的には既存顧客の紹介のみということになっているが、実際は、問い合わせがあり、問題ないとされれば、紹介でなくても参加を受け付けることもある。早い話が客を選ぶ。一見、高飛車な営業方針のように見えるが、既存顧客を守ることを優先した結果、そのような対応になっている。「業界内では随一の品質」を自負して、顧客は全員VIPと謳う通り、ツアー参加者へのフォローは、他社では考えられないほど手厚い。最高級(ファーストクラス)な旅と顧客ファーストが理念。

 

スフィンクス・トラベル

イスカンダルとハーディの所属先で、ファーストクラス・トラベルが契約を結ぶ現地手配会社。ホテルやバス、ナイル川クルーズ船の手配をまかされている。また、所属しているガイドの質が高いことで知られている。


エピソード⑨以降に登場する人たち

大平夫妻

ファーストクラス・トラベルの上顧客。ご主人は、とある企業の役員。60代前半。

 

岩舟母娘

母娘でツアーに参加。娘はこの旅行会社のツアーに初参加。母親の夫は、地元の有力医師。母親は60になったばかり。娘は二十歳代半ば。大学院生。

 

韮山 雄一郎(にらやま ゆういちろう)

ファースト・クラストラベルのツアー初参加。男性の一人参加客。50代後半。


高崎夫妻
ファーストクラス・トラベルのリピーター。ご主人は、とある貿易会社の創業者。現在は隠居。60代後半。


エピソード⑫~㉓に登場

ドクター・アイマン

見た目も中身も、典型的なドクター。今回、クルーズ船の中で、ツアー客の体と心のケアに尽くしてくれた。

エピソード㉑から登場

羽生母娘

正確にはエピソード⑱から登場。娘は朝から、母親は昼から時間差で下痢を発症した。医師のスケジュールの関係で、最初、別々の医師から診察を受けて、別々の薬を処方されたが、後に診察を受けた母親が処方された際、娘も同じ薬を処方してもらった。母親は50代半ば。娘は20代後半のOL。日本で留守番をしている父親は会社経営者。

エピソード㉒から登場

渡良瀬 真人(わたらせ まさと)

男性の参加客。60代前半の男性。自営業。職種は不明。


エピソード㉞から登場

山辺夫妻 エピソード㉜で名前だけ登場。ツアー途中で下痢の症状が出て、船内では二人目の医師サラーフの治療を受けた。ご主人の定年記念で、このツアーに参加。夫人は専業主婦。

マダム武里とマダム姫宮 女性の友人二人参加。ともに50代後半。

エピソード㊱と㊲に登場

境 雄太郎(さかい ゆうたろう) スフィンクストラベルの日本人スタッフ

エピソード㊳から登場

花崎 英一郎(はなざき えいいちろう) 男性の一人参加客。60代後半。ファーストクラス・トラベルの超大顧客


※団体名、個人名ともにすべて架空。連載は、次回から。そのほかの登場人物は、その都度紹介します。