ナイルの悪夢① まえがきと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

これまでの登場人物は、上の①をご覧ください。後から登場した人々も、その都度アップデートしています。

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思川の機嫌が直らないうちに、ディナーはお開きとなった。食事も会話も気が済むまで楽しんだ客から、部屋に帰っていく。デザートを食べ終えた頃、思川は、再び花崎から声がかかり、客で賑わうテーブルに加わった。韮山や大平夫妻もそこにいた。

「まあ・・・いいか。」

思川が帰ってくるのを待たずに、駒形は席を立った。高崎夫妻から、ワインを飲もうと声をかけられたが、用事があると丁重にお断りして、レストランを後にした。

朝、「夕食は、グループの皆さんと一緒にする」と言っていた渡良瀬だったが、「体調が思わしくないお客様には、ルームサービスで夕食を対応致します。」という思川の対応に乗り、彼はレストランに来なかった。

「遅くなってもかまわない。」とのことだったので、駒形もごまかすわけにはいかない。レストランから部屋に戻る途中、フロントから電話を入れた。

「今から参ります。少々お待ちください。」

「いや、部屋には来なくていい。君は今、どこにいるの?」

「フロントから電話をかけています。」

「ちょうどいいな。フロントのそばにバーがあっただろう?そこで話そう。」

「バー?渡良瀬様、体調が優れないと伺っておりますが・・・。」

「いいんだ、いいんだ。そこで待ってて。」

一方的に電話を切られたため、駒形は、フロントで待つことになった。

「まいったな。」

軽い溜息をつきながら、レストランに続く廊下の奥に目をやった。

思川は、まだレストランにいる。彼女の部屋に帰る際は、必ずフロントのそばを通るようになっていた。

「昨日の朝まで発熱していた添乗員と、体調不良でディナーをルームサービスで済ませたお客様がバーにいるのを見たら・・・思川さんは、怒るだろうなあ・・・。」

気まずさと、彼女の恐さを感じながら、鉢合わせないことを祈りつつ、渡良瀬のことを待った。

彼は、5分もしないうちに現れた。朝までと比べると、格段に顔色がよくなっている。

「だいぶよくなったよ。おかげさんで。」

「それはよかったです。・・・本当に急によくなりましたね。」

「今日の医師がくれた薬を飲んでから、急によくなったよ。セカンドオピニオンてやつかな。思川さんが連れてきた医者。あれはだめだったな。誤診だよ、誤診。」

元々口が悪い人ではあるが、快復して、さらに悪くなったような気がした。きつい言葉とは裏腹の笑顔で、バーの中に進んでいく。

「ちょっと一杯付き合ってよ。」

「え?今朝まで具合が悪かったんでしょう?まだお酒は早いと思いますが。」

「そんなこと言わないでよ。今日は、昼間に、ホテルの敷地をちょっと散歩したくらいでさ。薬でよくなる前は、部屋でゆっくりする以外は、なにもする気になれなかったし。やっと、なにかしたいって気持ちになってきたんだよ。あ、ルームサービスの飯はうまかった!さすがファーストさんだね。」

彼は、そのまま日本語で勢いよく「ビール!」と、嬉しそうにオーダーした。

駒形は、コーヒーをオーダーした。一応病み上がりだったし、ディナー時にワインを一杯いただいたので、それ以上は控えたかった。だが、渡良瀬は、それを許さない。

「あんたもなんか飲みなよ!奢るからさ。」

駒形の一時的な発熱は、客たちには公表されていないから、渡良瀬もなにも知らずに、酒をすすめてくる。マイペースな渡良瀬に、駒形は少し呆れながら、ちょっと意地悪をしようとした。

「お腹がいっぱいなので、ビールでなくて、他のものでもよろしいですか?」

「おお。いいよ。ウィスキーとか?シーバスがあるね。」

「いえ、ブランデーがいいです。」

「じゃあ、右端のレミー・マルタンでも頼むか。」

「いや、真ん中のボトルのを飲みたいなあ。フラパンのXO。」

「このやろう()

渡良瀬が飲ませようとしたのは、レミー・マルタンでも安い、日本で買うとボトルで五千円程度のものだったが、駒形がオーダーしたのは、ボトルで二万五千円する高級品だ。駒形は、良くも悪くも平気でそういうことができる男だった。

「まあ、いいか。酒は気持ちよく飲みたいしな。」

渡良瀬が、にやりとして言った。グラスを合わせて、お互いがグラスに一口つけた後、彼は、いきなり核心に入った。

「よくやってくれたよ。添乗員二人は。それでさ・・・ここからが本題なんだけど、あなたはファーストさんの社員じゃないよな。」

「ええ。違います。よく使っていただけますけどね。」

ゆっくりと渡良瀬が頷いた。

「だから、あなたと話したかった。ファーストの人間としてではなくて、第三者としてのあんたの意見を聞きたいんだ。ここだけの話にするからさ。今回のようなトラブルの時って、旅行会社は、なにもしないもんなのか?補償とか、船との交渉とか。それを知りたくてね。」

「それで僕を呼んだのか。」高級ブランデーを味わいながら、駒形は妙に納得していた。同時に、そんな話なら、もっと高いブランデーを頼むべきであったと思った。

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