2019年のとある日。
派遣元のメンバー数人で、ダイニングパブで食事を楽しんでいた。売り上げ好調だった当時のセクション。それをさらに伸ばすためのミーティングと称した飲み会でもあった。
話は途中からオリンピックに及んだ。
「チケット申し込んだ?」
「私は野球を狙ってます。」
「俺は、陸上を。」
「バスケットボールとバレーを。」
大イベントへの期待に、誰もが胸を膨らませていた。
僕の派遣元では、旅行会社からオリンピックに関する仕事の依頼も受けていた。各国選手団や関係者の空港でのミートや誘導。空港から宿泊施設の輸送、会場でのスタッフのヘルプ。ボランティアではなく、ギャラ付きの仕事もわりとあるものなのだ。
とにかく人手が足りなかったようで、「この時期は、海外ツアーが控えめになるだろうから、オリンピック業務に関わって欲しい」くらいのことを言われた覚えがある。
「ツートンさん、オリンピックは?」
と、飲み会の席で聞かれた僕はこたえた。
「テレビ観戦。今年のラグビーのワールドカップで、ずいぶんとお金を遣うし、オリンピックは、テレビでいいや。」
「関連業務には興味ないの?」
「オリンピックは、参加するものではなく、観るものだと思ってる。」
正直に言うと、夏場に行われるオリンピックの会場で、あちこち動く仕事は、体力的にきついと思い、ツアーがある限りは、添乗をやりたいと思っていた。僕の場合、夏場は北欧やスイスを割り当てられることが多かったので、仕事上での避暑も期待できた。
その一方で、「オリンピックに参加する」仕事仲間の様子を見て、盛り上がるオリンピックに期待もしていた。大会後、彼らからどんな自慢話を聞けるのか楽しみでもあった。
まさかあの時、世界規模の感染症パンデミックが起こるなどと、誰が予想していただろうか。
一転して、コロナ禍に覆われた世界の中で、昨年の三月以降、世間では否定され続けたオリンピック。
開催か否か。旅行業界は、それに最も振り回されたものの一つだ。外国からの渡航者の抑制、観客数の抑制。感染対策の徹底。全てのパブリックビューイングの中止。形を変えながら開催にたどり着いた。
振り回されまくった中で、ようやく決まった大会中の仕事に、胸を撫で下ろした派遣元仲間がいた。それが、オリンピックに参加できる喜びだったのか、それとも、その間の食い扶持を確保できる安堵感だったのかは、人によるようだ。
ところが、ここにきて無観客が決定。それにより、彼らの多くが仕事を奪われた。もう少し知らせが早かったら、その時期の収入を得る仕事はあったろうに…。その無念さは、察して余りある。彼らにしてみれば、数少ない収入のチャンスを失ったのだ。
時期が近づくに連れて、楽しみどころか、悲しいことばかりが起こるオリンピック。
大会中、大会後は、僕らの目にどのように映るのだろうか。
↑ ↑ ↑ ↑
ブログランキングに参加しています。上位に行くと励みになるので、よかったら上のバナーをクリックしてください。
コメント
コメント一覧 (2)
実は私はチケットを持ってまして、まさかの2週間前の無観客に涙です。
中にはきっと航空券やホテル代のキャンセル料がかかった方もいるのでは。
オリンピック関連のお仕事、キャンセルになった方は、休業補償はないんですかね?ないとなれば、大損害ですよね。
オリンピック後に旅行業界に手厚いサポートがほしいですよね、ホント。
マスター・ツートン
がしました