できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

これまでの登場人物は、上のリンクをご覧ください。

===========

隣の芝生は青かったが、この時は肉も美味しかった。絵梨はアルカトラ(ランプ・赤身が多いところ)が元々好きだ。香織は、赤身とサーロインをバランスよく食べることを好むが、この時は、脂っこいクッピン(コブ肉)がアルゼンチンの赤ワインに合うと気に入ったようだった。

不思議なもので、お腹がいっぱいで幸せな気分になると、隣だけでなく、自分の芝生も青く見えてくる。二人とも、とても満ち足りた気分で店を出た。肉食べ放題に、ボトルのワインとカイピリーニャを飲んで、一人5,500円。ランチとしては高く感じるが、土曜日の銀座であることと、飲み食いしたものを考えたら、たまの贅沢としては、まあまあの値段だった。

IMG_0715

食後、レストランがあった裏通りから、まだ歩行者天国が続く銀座のメインストリートに出て、クリスマスの雰囲気を楽しみながら、カフェに入ることになった。食事の最後に、デザートもコーヒーもいただいていたから、飲むことよりも喋ることが目的だった。だから、香織お気に入りのカフェが満席で入れなくても、抵抗なく、そのすぐそばにあるチェーン店に入った。

英国屋を通り過ぎた。香織は、桐生と付き合い始めた頃のことを思い出した。なんとなく、それが表情に出て、絵梨もそれに気付いた。

席に落ち着いて、飲みたくもないコーヒーとカフェラテをオーダーしたした後に、絵梨が口を開いた。

「さっき、急にニヤニヤしてたけど、どうしたんですか?」

「やだ。私、ニヤニヤしてた?」

「してました。少し気持ち悪いくらい()

「ちょっとやめてよ。」

そう言いながら、嫌な感じではない。香織は、まだ話していない自分たちのなれそめを、絵梨に話したかったのかもしれない。その流れで、付き合うきっかけとなったデートと、その後の話をし始めた。

絵梨には、かなり興味のある話だった。少なくとも彼女の知り合いに、女性医師を妻に持つ男性添乗員はいない。

男性医師と結婚した女性添乗員は、何人か知っていた。出会いのきっかけは、ツアーの参加客だったり、合コンだったり人によって違ったが、医師という安定した収入を持ち、頼りになる夫を得た彼女たちは、さっさと海外添乗員という仕事をやめていった。中には、その高い能力を惜しまれた者もいた。

「もったいないけど、海外に出続けながら結婚生活をするって大変だよな。」

去っていく彼女たちの背中を眺めながら、それは仕方のないことだと思っていた。

だが、医師と結婚をしても、男性添乗員の桐生は、海外添乗の仕事を続けていた。しかも、ペースは結婚前と変わらないと聞く。同じ医師との結婚でも、男性と女性ではここまで違うのか、それとも桐生に限ったことなのか、気になったことがあった。

 

「ということは、2人のお付き合いって、どちらかというと香織さんのアタックからだったってことですか?」

「私はそう思ってる。駒形さんから聞いたことない?」

「彼は、他人のそういうところには、まったく興味がない人なんです。自分から聞き出さないから、ひょっとしたら知らないかもしれません。・・・・・・ちょっと聞いてもいいですか?」

「なに?」

「結婚するとき、桐生さんに仕事を変えて欲しいとは、思いませんでした?ずっと日本にいて欲しいなあとか、少しも思いませんでした?」

「とりあえず、そういう仕事の人と結婚するんだという気持ちでいたから。そんなに簡単に仕事を変えられるものとも思ってなかったし、彼もやりがいありそうに仕事をしていたし。

私も、好きで医師をしているから、お互いに好きでやりがいのある仕事をできているって、いいことだと思ってるけど。今のところは、お互いにハッピーよ。」

「そうですか。でも、添乗員には、普通の会社員と違って、社会保障もないし、そういうの気になりませんでした?」

「そこは、私よりも母親が気にして『こういう保険に入れ』とか『こういう積み立てしろ』とか、いろいろ指導されていたな。わかっている人に教えてもらうって、大切よね。私も勉強になった。」

「ですよね。私もそういうところは考えるんです。・・・もし、彼が、大きな病気で倒れたらとか思いません?」

「いや、別に。彼が倒れても、私がちゃんと働いているし。絵梨さんだってそうじゃない。」

「・・・そうですね!確かに!」

少し間を置いて、絵梨は同意するふりをした。「そうだった。わかっているのに、なんでこんなことを聞いてしまったんだろう。確かに医師の収入なら、なにかあっても大丈夫だ。」

急にまた、隣の芝生が青く見えてきた。
にほんブログ村 旅行ブログ 海外旅行へ
にほんブログ村
↑ ↑ ↑ ↑
ブログランキングに参加しています。上位にいくと励みになるので、よかったら上のバナーをクリックしてください。