できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

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二人の関係が、もとに戻ることはなかった。

お互いに努力はした。駒形は、添乗から帰国するたびに、優菜のことを最優先にして、デートの行先も、食事も、たまに観に行く映画も、すべて優菜の好みに合わせて選んだ。何よりも、彼女の言葉に耳を傾けようとした。

優菜も、駒形の気持ちは、痛いほど感じていたから、彼の行為と好意には、すべて笑顔で返した。嬉しかった。

いや、違う。嬉しいと思おうとしていた。

なにもかも自然ではない、つくられた優しさと笑顔は、お互いの心をまったく癒すことなく、疲弊させた。

「おかしいな。前は、敬が何を言っても、何をしてくれても嬉しくて、楽しかったのに・・・。」

「どうして、自然に優菜に優しくできないんだろう。どうして優菜の笑顔を、素直に感じ取れないのだろう。」

一度だけ、言い合いになったが、すぐにやめてしまった。それが別れを早めるだけだとわかっていたからだ。二人とも、なんとかやり直したいとは思っていた。

 

しかし、この手の事が、一度悪い方向へ流れると、止めるのは難しい。そして、とうとうその日が来てしまった。

毎年、なぜかその日だけは、駒形が必ず日本にいた夏の日。付き合い始めてから毎年行っていた夏祭りに、今年も向かおうとしていた。

お祭りそのものはどうでもいいのに、駒形が、とても楽しみにしていたのは、毎年、この日だけは優菜が浴衣を着たからだ。かわいい優菜が、白地に青とクリーム色の百合がデザインされた浴衣を着ると、さらに美しさが際立ち、会場ですれ違う人が、しばしば振り向くほどだった。

駒形は、こんな素敵な彼女が隣にいることが誇らしかったし、優菜は、自分の浴衣姿を、毎年、駒形がこれ以上ないほどほめてくれるのが、嬉しかった。

「今日は楽しければいいな。」

ここ最近、優菜に会う度に、重い気分だった駒形は、久しぶりに少し明るい気分で、彼女の家に迎えに行った。

 

「こんばんは。おまたせ。」

「やあ。・・・え?」

静かな笑顔で玄関に現れた優菜を見て、駒形は一瞬止まった。軽く胸の奥を、なにかで突かれたようだった。

「どうしたの?」

ここ最近よく見られる、無機質な言い方だった。

「いや、毎年お祭りには、浴衣で行ってたから。今年は着ないのか。」

「うん。・・・今年はいいなかって。」

「そうか。」

優菜が浴衣を着ていないだけなのに、なぜか駒形は、打ちのめされたような気分だった。自分が拒否をされているように感じていた。

二人は、無言で祭りの会場に向かって歩き始めた。去年までと違って、まだ遠くにある太鼓と笛の音がよく聞こえるのは、会話がないからだ。

楽しくない。楽しもうとしているのに、楽しくならない。

歩みが、だんだんとゆっくりになってきた。二人とも、祭りの会場へたどり着くことにためらいを感じているようだった。

会場の手前に、小さな公園があった。薄暗くなり、もう誰も遊んでいない。

「ちょっと、そこのベンチで休もうよ。」

「うん。いいよ。」

三人ほど座れるベンチに、少し間を空けて座った。二人とも、無言のまま座っていた。

皆で浴衣を着ている中学生くらいの女の子のグループ、高校生の男女グループ、家族連れ、カップル、やたら盛り上がっている男子のグループなどが、楽しそうに通り過ぎて祭りの会場へ向かっていた。

 

 彼らの様子を眺めながら、優菜とまたやり直したいと、駒形は考えていた。本当は、もうあの頃のようには戻れないと分かっていながら、必死に考えていた。そして、一言だけポツリと言った。

 「僕、もう限界だ。別れようか。」

優菜は、この時が来るのを分かっていたようだ。見る見る目に涙が溢れてきたが、言葉も態度も落ち着いていた。

「わかった。今までありがとう。」

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