マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

カテゴリ: こぼれ話

ここ最近の話。ワクチンコールセンターの帰り。電車に乗る前の駅前で。マンボウ中で該当エリアなのに、

「居酒屋どうですか?やってます!」

非常識だなあと思いつつ、行かなければいいのだと、スッと通り過ぎる。

信号待ちしている時、傍の女性二人組が声をかけられていた。すると、

「私たち、未成年なんです。」

「あ、そう!大人になってから来てねー!」

青年が立ち去った後、

「こういう時、童顔て便利よね。」

と、笑う彼女たち。振り向くと、確かに未成年に見える。いや、お見事です。本当は何歳なんですか?

 

それから数日した時のこと、またもや「未成年です。」と、いう言葉の印籠を掲げる別の女性二人組がいた。だが、今度は声をかけた男性が引き下がらない。

「大丈夫!全然行けるっす!!」

振り向いてみると、今度の二人組は、とうてい未成年には見えなかった。「時に男は女の嘘に厳しい」という、典型的な例だった。

 

それにしても、居酒屋のキャッチに対して、「未成年です」は、必殺の断り文句としてよく使われるのだろうか。試しに僕も、使ってみた。

「居酒屋どうですか?」

「あ、すいません。未成年なんです。」

「・・・え?・・・あははは!あっはっはっはっははははー!面白いっす!」

と、やたらと受けて、見逃してくれた。うーむ。まさかこんなにうまくいくとは。そのうち、またやってみよう。

 

続いてコールセンターの現場にて。

先日、ワクチンの調整がついたのか、一日だけ急に予約枠が大きく広がったことがあった。自治体でも、事前にお知らせがあったようで、いつも以上に電話が殺到。対応に追われた。毎日すぐになくなってしまっていた枠が半日以上は持ち、それまでの数日、労働時間の9割以上を謝罪に費やしていた現場の空気は、久しぶりに活気に満ちた。その日のお話。

電話を取る。受話器の向こうで、

「つながった!つながった!早く接種券!接種券持ってこい!!早く!!よし!」

ガチャ・・・ツーツーツー・・・

慌てて切ってしまったようだ。こちらは名乗ってもいないのに。どうか、どうかつながった時は、落ち着いてください。

 

別のご夫婦。やはり「つながった!」と歓喜した後、予約を取れることを知ると、さらに大歓喜。

「ありがとうございます。本当にありがとうございます!」

電話を取っただけで、これだけ感謝されることもそうそうなない。気分は、まるで大手柄。

 

別のおばあちゃんの話。

「キャンセルなんて、どこかに出てませんかね?」

「確認しますので、少々お待ちください。」

当自治体では、予約した方がキャンセルをすると、すぐに端末に反映される。だが、だいたいネットに張り付いている人たちが見つけて、すぐに予約を取ってしまう。

ところが、この時は奇跡的にひとつだけ出てきた。「この日で大丈夫でしょうか?」などと伺っていては横取りされるので、まずは勝手に確保。それからお伺いを立てた。

「その日なら大丈夫です!やだ!すぐじゃない!?ありがとう!ありがとう!本当にありがとうございます!!あなたが、神様か天使に見えるわ!」

とうとう僕が、天使であることがばれてしまったようだ。これが天使の添乗員たる所以です(ほんとかよ)。

それにしても、よほど嬉しかったと思われる。だって、電話で相手の姿は見えないはずなのに「神様か天使に見える」だなんて。

 

頭の中で、国定、駒形、桐生の三人が好き勝手会話して会話がまとまらないから、今日は雑談を書きました。明日は、シリーズものの続きです。

今日も、マスター・ツートンは電話を取ります。こんな歓喜の影で、予約を取れずに頑張っている人たちが、まだまだいることを感じながら。
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コールセンターで予約業務をしていると、いろいろなことがあります。

予約開始初日は、とにかくシステムの動きが遅くてね。電話の向こうのお客様を、ずいぶんお待たせしたもんです。

「本当にお待たせしてどうもすみません。」

「いえいえ、大丈夫です。待ちますよ。やっとつながった電話ですからね。そちらも大変ですねえ。」

「ありがとうございます。・・・・・・・・・・・・あの、次の画面に入るまで、まだ、しばらくお待たせいたします。」

「はい。待ちます。」

「もし、お台所でコーヒーなどありましたら、入れていただいてけっこうですよ。」←本当に言った。

「そんなに時間がかかるんですか?」

と、その方は笑ってくださいました。他にも何人かに同じことを申し上げましたが、けっこう笑って許してくださるもんです。そのうち1人は、「ポットのコーヒーをカップに入れてくる」と本当に行ってしまいました。帰ってきてから

「(コーヒーをすすりながら)進みましたか?」

「もう少しです。」

「あら、まだなの?(さらにコーヒーをすする音)」

混んでいる時には、予約には時間がかかりますからね。お手元にコーヒーくらいご用意いただいたほうがよろしいかもしれません。コーヒーの香りにでも癒されていたのか、この方の雰囲気は穏やかでした。システムが二回も飛んで、予約に10分弱もかかったのに。(システムに問題さえなければ、予約にかかるのは1~2分くらい)

 

この前の6日は、初めてサーバーがダウンしてしまいました。僕が80代半ばくらいの女性の案内をしている時に、突然それが起こりました。

「申し訳ありません。つい先ほどサーバーがダウンしてしまいまして、現在これより先に進めません。しばらくお待ちください。」

「サバ?」

この方は、サーバーと言う単語をご存知なかったようです。その後、会話の中で「確かに足が早いわよね。」とか仰っていたから、今思うと、サーバーが、鯖だと思っていたのでしょう。まったく会話が噛み合わない時に気付くべきでした。しかし、この方のすごいところは、その先です。めちゃくちゃな会話の中で、

「要するに、コンピューターがパンクしたってことでしょ?」

と、見事に核心に辿り着いてしまったのです。恐るべし。それにしても、「コンピューターがパンク」って、昭和的な横文字というか、なつかしい感じのカタカナですよね。

世の中、次々に新しい言葉が生まれて、10代の方々の会話の一部を、私のようなおじさんが理解できないように、高齢者が理解できない一般用語というものが、たくさんあるんだなあということを改めて感じましたね。そういえば、どの世代でも理解できる言い方というのを、添乗している時は、常に意識しているのを思い出しましたよ。

ということで、どの世代にも理解しやすいのは、「サーバーがダウン」ではなくて、「コンピューターがパンク」です。

 

昨日の最後の電話は、「こういうこともあるのか」というものでした。その方がお持ちの接種券番号は、当自治体にはないもの。仕方ないから名前で検索したら、同姓同名が4人もいるのですが、誰も該当せず。

「どちらにお住まいですか?」と聞いてみたら、違う自治体にお住まいの方でした。それも、隣とかのレベルでなく、遥か彼方の遠いところ。

「なぜ?」と思いましたが、検索してみたら、その方がお住まいの自治体の問い合わせ電話番号が、僕らのエリアのところと、数字ひとつ違うだけだったのです。0570で始まるナビダイヤルなのですが、押しながら14を間違えてしまったようです。番号間違いでなく、押し間違いですから、本人も指摘されるまで間違いに気付いていませんでした。

「あらー、そういうことだったのね。ごめんなさい。私、へんなところにかけていたのね。」

「変なところではないですよ。きちんとしたワクチンコールセンターです。」

「それは、そうよね。これから自分のところにかけなおします。」

「あ、そちらの自治体は夕方5時で終わりのようです。」

「え?おたくはやっているじゃない?」

「うちは、6時までやってますけど、そちらは5時でおしまいです。」

「・・・・・・」←ものすごい絶望感を感じる間隔

「大丈夫!明日は朝の8時半からやっています!」

「そうよね。ありがとう!」

 

今のところ、コールセンターにかけてくるのは、高齢者が多く、彼らとの会話は、なんだか海外添乗業務を思い出します。現場感覚を失わないようにするトレーニングになっているかもしれません。

ま、やっている時は忙しくて、そんなことを感じる余裕はありませんけどね。

 

さて、今日も頑張るか!

 

あ、今日は僕、休みでした。ゆっくりさせていただきます。

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昨日、試験官の仕事の最終日だった。朝の打ち合わせ前、同じ会場を担当する仲間内で話題になった。僕と女性2人での会話だ。

「ミーティングは、同性同士のみのほうが、早く話が進む。個人差はあるけれど、男女の考え方や感覚は違うから、異性混合のミーティングは、そこを擦り合わせるために時間がかかる。森さんが言ってたのはそういうことではないか?」

そのうえで、

「正直、女性の話って長いと思うことはある。」

と繋げた。この森さんの弟分のような僕の発言に、彼女たちは、耳を傾けてくれた。

「それは分かる。女性のほうが、危機感知力が強いから、細かく話を詰めようとする。その中には無駄と思えるものもあるから、どうしても話が長くなる。」

僕が言いたかったのは、まさにそこだったのだが、彼女の話は続く。

「でも、男の話も長い時はあるよ。『無駄に』ね。『分かってるよ!』ということを、回りくどく何度も言う。」

その後、彼女と親しい男性スタッフがやってきて、仕事の簡単な確認をしていた。傍で聞いている限り、30秒以内で終えられる内容を、回りくどい言い方で、何度も言いながら、2分ほどかけて話していた。

「長いなあ。」

と、僕が言うと、もう一人の女性が

「長いですねえ・・・無駄に。」

と、言って笑った。無駄に長い話から解放された本人も、

「ほら!『無駄に』長かったでしょ?ほんと、無駄が多いのよ、あいつ!」

と、やたら「無駄に」を強調して笑った。

森さんの問題発言の真意も、おそらく、このなんてことない会話程度のものだろう。身内で話してる分には、騒ぎになるようなことではなかったと思う。だが、公の場で「男性が女性が」という言い方は、今はタブーになっている。こと、男性がそれを口にした時は大変だ。

 

不思議で仕方ない。カメラが回っていたのは分かっていたはずだ。1人の政治家の発言として、あれが世の中に出回ってしまったら、どのようになことになってしまうのか、想像できなかったのだろうか。

 

70年代生まれの僕は、中学生くらいまでは「男らしく、女らしく」と言われた中で育った。高校生になっても、その意識だったと思う。親戚の家での夕食前、テーブルに茶碗を並べるのを手伝おうとしたら、

「男の人は、そんなことをしたら大物になれませんよ。」

と、叔母に止められたことがあった。(そのぶん、力仕事はやらされたけどね)。そういう育てられ方、或いは、わずかでもそういう経験をしている日本人男性は、まだまだ多いのではないだろうか。

意識はなかなか変えられない。今でも、子供の頃「女のくせに」と思った時に湧き出たのと、同じような感情が芽生えることもある。

 

一方で、女性が、社会で受けてきた差別を学んだのは、10代後半から大学生の頃だ。(それが当然だったので、自分がそうだとは意識はしていなかったが)男尊女卑が普通である思考の中で、男女雇用機会均等法が出来る前の女性の雇用状況を知った時には、少年ながらショックだった。

女性は、結婚したら家に入るものだとは思っていたが、「働こうとしても働けない、男性と同じ条件をもらえない環境にいる」というのには、大きな不公平感を感じた。女性って・・・いやあえて言うなら、「女って大変だなあ」と思ようになった。

 

20代前半くらいを境目に、女性の権利について、いろいろ言われるようになった。その頃を境に、男女平等の意識が、両極端な時代を生きた僕らの世代の人間たちであるが、なかなか男性社会の時の癖はぬけない。意識していても、スッとそれが顔を出して、女性に不快感を与えているのではないかと、少し不安になることもある。

それとは別に、そういう感覚を表に出さないように努めているのを見つけた時、女性は、それはそれで努力として認めてくれることも分かってきた。

 

森さん世代の男性だと、僕ら以上に意識を変えるのは難しいだろう。でも、言葉を慎むことはできたはずだ。メディアに指摘されているような意図がなかったとしても、現在においては、公の場で言ってはいけない、表現としては認められないことだったのだ。考え方や意識を変えられなくても、言葉を慎むことで、それを見せずに済んだはずだ。

しかも、あの発言が、オリンピックに絡んでしまったことが、とても残念だった。

 

海外メディアの反応は、日本のそれよりも遥かに辛辣で厳しい。日本のメディアも、独自の言葉で批判するよりも、欧米のメディアの言葉や記事を取り上げたり引用したりして、森さんバッシングの材料にしていることが目立つ気がする。

ますます勉強になる。あのような言葉に、欧米は、日本の100倍厳しい。ますます意識を変えるように努力しようと思った。

 

余談だが、僕の意識がある程度変わったのは、旅行会社に入ってからかな。元々女性が多い業界で、みんなしっかり仕事をしていた。「個人個人で能力に差があっても、そこに性別は関係ないな」と、初めて思った。その前に勤務していた会社が、今では許されないような男尊女卑だったので、余計にそう思ったのかもしれない。環境って大切だ。



お客様の耳のことは、お友達も気づいていなかったようだ。

「あなた、何を聞いてたの?ちょっと変な時あるわよ。ツートンさんが、一生懸命話しているのにトンチンカンなこと言ったり怒鳴ったり。」

「マスクを外してお話したら聞こえますか?」

と、僕が尋ねると、ようやくお友達も気づいた。

「そういうこと?・・・あれ?でも、私と部屋で話している時は、マスクしてても普通にお話できるのに。」

「え?」

僕は、お客様を見つめた。二人は、ふだん同居でしているわけではないので、お部屋でもマスクを外さずに会話をしているとのことだった。

「部屋の中では、まわりの音がないから聞こえるのよ。それと、女の人の声のほうが聞きやすいの。あなたの話は、バスに乗ってる時も聞き取れる。」

「ああ・・・そういえば、今までの添乗員さんは、みんな女性だったわね。」

「周りの雑音ばかりが耳に入って、肝心なものを聞き取れない」、「男性の太い声は割れて聞きにくい。女性の声のほうが聞き取りやすい」という声は、ご年配のお客様から時々聞こえてくる。そういうたいていの方は、「いろいろ聞き返してしまうかもしれないけど、よろしくね。」とお断りを入れてくる。

 

「私も、なにか食べるものを取ってくるわ。」

その場から離れたかったのか、お客様は席を立ってフードカウンターに向かった。

「長い付き合いだから、耳が良くないのは知っていたけど・・・でも、会話に困ったことはなかったのよ。男性の声だって、前は問題なく聞き取っていたと思うわ。」

「お友達様は、僕の話を聞けているでしょう?レストランはどうしてお間違えになったのですか?」

「あれね・・・ツートンさんが、ホテルに入ってレストランの方向を教えてくださったでしょ?その時、私トイレを我慢できなくて、彼女に案内を聞くのをまかせてしまったの。たぶん、あなたの話が聞き取れなくて、身振り手振りだけ見て、適当に判断しちゃったんだわ。」

「なるほど。・・・でも、ホテルに入る前にお渡しした案内には、レストランの名前を記載しておきましたよ?」

「そうなのよ。私も、それを見ていたの。レストランの名前も覚えておいたのよ。ロビーで、分かれ道があったでしょ?そこで『夕食のレストランの名前はこっちに書いてあるわよ』って言ったのよ。でも、彼女が『見間違いじゃない?ツートンさんは、こっちだって言ってたわよ。』って。そう言われたら、私もそうかなあって。」

「案内を見直せばよかったのに。」

「お部屋に置いてきちゃったのよ。」

「レストランの人は、入る時に『ここでいいか』確認したって言ってましたが。」

「そこは彼女が話して、『ここでいいはずだ』ってことになっちゃって。予約は入っていないけど、席は空いてるから入れてもらえちゃったのね。」

「予約されていたレストランの名前はおっしゃらなかったのですか?」

「恥ずかしいことに・・・ここに歩いてくるまでに忘れちゃったの・・・。」

「あの方は・・・あれだけ『カニ、蟹!』って騒がれていたのに、その時はカニについては何も仰らなかったんですか?」

「仰らなかったのよ。その時に限って。・・・私は、カニにだわりないし、別にここでも良いのだけど。飲み放題ならなおさらね。」

僕は、深く呼吸しながら苦笑いした。「間違いが起こる時には、止めようもなくこうして起こる」という典型的な例だった。迎える側が、どんなに注意確認しても、悪い意味ですり抜けていってしまうことはある。

 

お客様が戻ってきた。

「マスクを外してもらっただけで、こんなに聞き取りやすいものなのね。口の動きが見えるだけで、全然違う。」

いつか、海外ツアーの仕事で、聴覚障害のお客様が読唇術を心得ていたことを思い出した。障害の有無に関わらず、案外、ふだんの僕らも会話時には、無意識に口の動きを見ているのかもしれない。

「でもお客様、聞き取れない時は、ちゃんとご確認くださいね。」

お客様の状態に、なぜここまで気付かなかったのか、よく考えて申し上げた。普通、聞こえない方は、納得いくまで何度も聞き返してくる。ところが、この方は、これまでただの一度も聞き返しがなかったため、この方なりに理解していたと、僕は思い込んでいた。聞こえないように見えなかったのだ。

自分勝手な思い込みと捉えていたものも、「聞こえてきたものをつなげて、一生懸命理解しようとした」と思ったら、少しは怒りがおさまってきた。お友達は、

「そうよ。聞こえてないのに、あんなにツートンさんを怒鳴ったり叱責したりするのはよくないわ。あなた、みんなから嫌われてるわよ。『話を聞かない、我儘おばさん』だって。今のままだとブラックリストになっちゃうわよ。」

ブラックリストは大袈裟だが、要注意人物としてレポートをあげようとは思っていた。何も知らなければ、それまでの彼女の物言いは、クレーマー以外なにものでもなかった。

この手のお客様は、なかなか謝らないものだ。

「いつもいただいてる案内を、もう少し細かく書いてくれたらありがたいわ。」

照れくさそうに下を向きながら、ぶっきらぼうにそう言った。

「案内はちゃんと読まなきゃだめよ。いつも私しか読んでないんだから。それと、添乗員さんを叱りつけるのは絶対だめ。わかった?」

「分かった。もうしない。案内は、これからはちゃんと読む。・・・ねえ、ツートンさん、カニはもうダメ?」

「当たり前でしょ。」

僕よりもお友達が早くこたえた。カニにこだわりはないと言っていたのに、「あなたのせいで、カニを食べ損ねた」と、嫌味な冗談まで言っていた。

 

次の日の出発前、前日の誓いを破って、お客様は激しい口調で、僕に話しかけてきた。癖はなかなかなおらない。だが、この時は、傍から見たら横柄にしか見えないこの方に、一組のご夫婦の奥様が怒った。

「ツートンさんは、そんな案内はしていません!」

「あなたは、話を聞いていないだけ!」

攻撃的な物言いをする女性も、ツアー仲間から責められると、さすがにこたえるらしく、黙り込んだ。厳しい言葉をほんの一瞬浴びせられた後、僕はすぐに間に入り、奥様に前日のことを話して、これ以上責めないように頼んだ。

「そういうことなの?」

奥様は、グループの中でも僕のことを贔屓にしてくださっていたので、落ち着いて話を聞いてくださった。

「聞こえないそぶりを見せないから分からなかったわ。」

話し方には、多少の同情が見えたが、彼女を見つめる目は厳しかった。

「ツートンさんがそう言うなら、それでけっこうです。でも、それなら彼女の、あの物言いをなんとかしてください。ご存知でしょう?本当にみんな不愉快な思いをしてるのよ。」

確かにその通りだった。僕は、お客様に近づいて、前日のうちに書いて用意していた、この日の流れや注意事項をお渡しした。

「バスの中でお話する案内の内容です。これさえ手元にあれば、今日は不自由しません。どこの案内か分からなかったら、その場その場で聞いてください。それと、さっきみたいな怒鳴り口調はもうだめですよ。皆さん、びっくりしますから。」

彼女は、頷きもせず、無言でそれを受け取った。「よく聞こえないこと」を他の方に教えるのは、ある意味個人情報保護の点で問題と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、この場合は、個人情報よりも、その方のツアーにおける立場を守るほうが優先だった。

 

その日は、ツアー最終日だったが、珍しく怒号が飛ばずに一日を終えて、千歳から帰りの便に乗るに至った。問題児だったお客様は、最後まで一言も僕に謝りはしなかったが、お友達も含めて、周りに誰もいない時に一言だけ言った。

 

「最後の日のメモはありがとう。助かりました。」

そして、前日に食べられなかったカニを空港でお求めになったのだった。

 

正直、最後までムカつくお客様ではあったが、最後のお礼は、その後の仕事でのヒントとなった。

マスク着用で口頭案内するようになってから、確かにお客様からの聞き返しの多さが気にはなっていた。よくよく考えてみると、マスク着用中は、口の動きが見えないだけではない。口を大きく開けるとマスクがずれるから、大声を出せず、口も開けずに話しているのだろう。マイクを使ったバスの案内も含めて、話し手の想像以上に、聞き手にとっては聞き取りにくいのかもしれない。

僕は、字が極端に下手でコンプレックスがあるので、海外添乗中の書面案内は、パソコンで打つようにしていた。しかし、国内の添乗は準備に忙しく時間がないため、最低限の案内だけをメモにして、大半のことは口頭で案内していた。

その結果、聞き返しが多いという状態をつくってしまっていたが、「字が下手でも、聞こえなければ読んでくれるだろう。聞き返しは、聞いてくるほうにとっては意外にストレスかもしれない。」と考えを改めて、情報を、ことごとく文字にするようにした。

実は、僕の国内添乗におけるお客様の評価は、海外時に比べて著しく低かった。だが、この作業をやり始めてから、現時点まで2本ツアーをこなしたが、それまでとは違う高評価になっている。3回目以降は、コロナ禍が悪化してしまったため、まだ試せていない。

コロナ禍における、より分かりやすい案内は、口頭よりも書面であることを見つけた出来事だった。

 

これは、海外が再開してからもそうなっている可能性が高いから、より分かりやすい書面案内を研究しておこう。

この日の夕食は、コロナ対策とテーブルの混雑の関係で、29人のお客様を、30分おきに2組に分けて案内することになっていた。問題の二人組は、先のグループに割り当てられていた。ところが、集合時間になっても来ない。ひょっとして、後のグループだと勘違いされているのかと思いきや、その時間になっても、やはり来なかった。

「レストランを勘違いされているのではありませんか?」

レストランのスタッフが助言してくれた。

「お客様がお持ちになっているお食事券ですが、ホテル名と価格が記載されている金券で、このレストラン専用というわけではないのです。」

「・・・ということは、間違えて他のレストランに行っても入れてしまうわけですか?」

「そうです。空席があれば入れてしまいます。お客様が、間違いに気付かれて、お問い合わせいただければご案内いたしますが、何も仰っていただけないと・・・」

「どのレストランに予約を入れてるかなんてわからないですよね。そうなると、受けるしかない。」

「そういうことです。もし、遅れていらしても、この後の予約は詰まってませんから、お入りいただけます。念のため、別のレストランに確認にいらしてはいかかでしょう?もし、こちらにいらっしゃいましたら、添乗員さんの携帯にご連絡差し上げます。」

 

スタッフの助言に従って、僕は別のレストランに行っていないか確かめてみることにした。とはいえ、宿泊ホテルは、広大なリゾート地にある巨大な建築群で、本館を中心にあちこちにレストランが散らばっていた。僕がいたレストランから最寄りの別のレストランまででも、さっさと歩いて5分はかかった。

手間を覚悟で、でもため息をつきながら、全部で15ほどあるレストランを、間違えて行ってしまいそうなレストランから探してみようとしたら、幸運なことに一件目ですぐに見つかった。

「あ!ツートンさん!ここおかしいの。今日はカニをたくさん食べられるって聞いていたのに。あそこのグラタンにしか入ってないのよ。」

二人は、ホテル内で最大のビュッフェレストランに入っていた。予定されていたレストランは、カニを中心としたシーフードがメインの高級ビュッフェ。

「少々お待ちください。」

僕は、レストラン受付のスタッフに事情を説明しに行った。

「やはり、そういうことでしたか。」

「ご存知だったのに席に案内したんですか?」

「ツアーバッジを身につけられて、6千円の食券をお持ちの方は、だいたい、カニビュッフェで予約が入ってますから、確認はいたしまた。いたしましたが・・・」

「どうかされたのですか?」

「こちらでいいと仰ったのです。時々ツアーに参加されている団体のお客様の中にいらっしゃるんですよ。『カニが好きじゃないからこちっちに来た』、『甲殻類アレルギーだからこっちに来た』、中には、『以前、カニビュッフェは食べたことあるからこっちに来た』という方もいらっしゃいます。」

アレルギーの方は、おそらくツアー申込時にそのことを旅行会社に伝えたうえで、最初からこのレストランを提案されていたのだろう。でも、それ以外の方はどうなんだろう。予約を断る連絡もしないで、勝手に他のレストランに来ているのではないか?だとしたら、ホテルにも添乗員にも迷惑な話だ。国内添乗員も大変だなあ・・・。

おっと、今はそれどころじゃない。

「わかりました。ご確認ありがとうございます。それで、このホテルの食事代はおいくらなんですか?」

4500円です。」

「ということは、カニレストランの予算から1500円浮きますが。」

「はい。ですから6千円の食券をお持ちの方は、アルコールを含めたドリンクを飲み放題にしています。」

「飲み放題!?なるほど!ありがとうございます。」

僕は、お二人のテーブルに戻った。テーブルについて食事を始めてしまったということは、いまさらカニビュッフェに変更はできない。レストランを間違えたのはお客様の責任だが、楽しみにされていたカニを食べられないのは、少し気の毒に思った。

「ダダをこねる可能性はあるけれど、二人ともお酒をよく飲むし、飲み放題が落としどころだな。」

そんな計算をしながら、

「なんで確認されたのに、レストラン間違いに気付かなかったんだろう?」

という疑問も残っていた。

テーブルに戻ると、すぐに大声で怒鳴るお客様だけが席にかけていて、お友達はフードを取りに行っていた。僕は、二人が揃うのを待たずに説明を始めた。手配されたレストランと違うところへ来ていること、そこにカニはないこと、そのかわりドリンクが飲み放題になること。

一通り話を終えると、その方は頷いて

「分かったけど・・・カニは?」

「いや・・・だからカニはないのです。」

「後から、私たちだけに出てくるってこと?」

最初は、我儘を通そうしているだけだと思ったが、表情を見る限りそうとも思えない。揉めていると思ったのか、先ほどのレストランスタッフが来て、かなり丁寧に説明してくれた。だが、それに対して頷きはしても、まったく要領を得ない。なにを言っても、「カニは?」となる。なんだか小馬鹿にされているような気がしてきた。

 

話が通じなくて困っている時に、お友達が帰ってきたので、まったく同じ説明をすると、

「あら・・・やはり間違ってたの。おかしいと思ったわ。」

と、納得した様子で頷いた。テーブルの傍で立ったまま僕の説明を聞いたお客様は、話が終わると座って、相方にレストランを間違えたことを伝えると、

「え?私たち間違ったの?」

と、初めて話に理解を示した。お友達の言葉しか耳に入ってこないのだろうか。その後も、僕の話にはトンチンカンなこたえを繰り返し、お友達の言葉にはまともな回答をした。僕は気付いた。席に座ったお友達は、食事をするためにマスクを外していた。

このホテルは、飛沫を防ぐためのアクリル板が、固定されておらず移動式になっていた。レストランの許可を取って、空席のアクリル板を持ってきて、僕とお客様の間に立てた。そして、マスクを外してもう一度丁寧に説明した。

 

「えー!?じゃあ、私たちはカニを食べられないの!?」

ようやく話が通じた。心底がっかりしたお客様の表情を見ながら、僕は心底ほっとしていた。

2019年の大晦日、僕はモロッコへ旅立った。このツアー中に、コロナが目立ち始めて、僕も初めて意識した。また、感染というものを意識する出来事もあった。それについては、「コロナの記録と記憶③」に書かれている(なにげにアピール)。

↓      ↓      ↓

コロナの記録と記憶③ 急変の直前 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

 

それはそれとして、このツアーでは、興味深い経験をした。

お客様の中に、聴覚障害のご夫婦の方がいらした。ご夫婦揃ってまったく聞こえないのだが、奥様は、話している相手の唇の動きで、何を言っているか理解することができた。それが訓練されたものなのか、障害が後天性のものだから可能なのかは聞かなかった。いずれにしろ、かなりの能力の高さで、出発時の空港受付で初めてお会いした時、あまりに普通に会話できてしまったものだから、しばらく障害のことを忘れていたくらいだった。その時の話がこれ。

↓    ↓    ↓

こぼれ話 読唇術 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

 

このリップリーディングなのだが、実は、聴覚障害者でない人でも、わりと普通にやっていることなのだということを、国内添乗の仕事で実感した。

北海道に行った時のことだ。そのグループの中では最年長の女性二人組のうち、一人に話がまったく通じなくて困っていた。

聞こえる言葉を自分の都合のいいように組み合わせて解釈していた。海外ツアーのお客様でも、よくそういう方はいらしたが、この方は極端で、自分の解釈が違っていると、他の方が周りにいても平気で怒鳴りながら添乗員を叱った。この時、僕の中ではクレーマーのような存在だった。

マスクをしていても、大声を出せば多少の飛沫は飛ぶ。コロナ禍の今、参加者の大半は、それを理解している。だから仲間内で話すときでも大声は出さないように注意している。或いは、それを指摘や注意しても、不快感を表すことなく受け入れてくれる。この北海道ツアーの直前は、感染者が全国的に急増した時で、ツアー出発直前のキャンセルが多発した時だった。当然、参加に踏み切ったお客様も敏感だった。

この、時々大声で文句を言うお客様には、僕よりも他のお客様たちがイライラしていた。そのうち、あちこちで声が聞こえるようになった。

「ちゃんと話聞けよ。」

「人の話も聞かないで何を言ってるんだ、あの人は?」

横柄な態度で接してくるその方に、僕自身もイライラしていた。そして、だんだん優しく接することができなくなってきていた。

 

周りが気づかなかった事情は、この日のディナー時に見えてきた。彼女たちは、夕食に姿を見せなかったのだ。

これまた新潟でのお話。舞台は佐渡島。

ホテルの売店で、どんなお土産があるのかチェックしていた時のことだ。かわいらしい朱鷺(トキ)のデザインが入った小さな箱を見つけた。中身はクッキー(ビスケットかも)。なにより値段が安かった。ひと箱250円。店員さんが言うには、

「それは、修学旅行生用に仕入れるのです。ここに置いてある通常の商品は、高校生くらいまでには高すぎますからね。」

僕らが、二泊している間に、高校生のグループが出ていき、中学生が入ってきた。その後は小学生が入ってくると言っていった。みんな新潟市内からだそうだ。港から船で2時間。ずいぶんと近場の修学旅行だ。

「いや、それだけ入ってくるならあっと言う間に売れちゃいますね。」

「それが、今年はいつもほど売れないんです。」

「え?そうなんですか?」

「今年は、みんなクーポン持ってるでしょ?だから、小学生でもあちらにある大きいの買っていくんですよ。」

「あの、大きなお菓子の箱詰め?三千円のをですか?」

「はい。」

「小学生が?」

「はい。」

「・・・・・・生意気ですね。小学生のくせに。」

「・・・はい()

店員さんは、マスクの上に手をあててクスクス笑い出した。

「中学生や高校生になると、知恵がついてきてね、お土産が250円のクッキーで、クーポンでは自分の好きな物を買ってる子もいます。それでも、ここぞとばかりに高いものを買うのは一緒ですね。」

なるほど。地域共通クーポンで小売り事情がこのように変わることがあるのか。

 

「ふーん。これ、余ってるの?安いなあって思ってたんだ。」

そばで話を聞いていたお客さんが会話に入ってきた。

「倉庫にまだまだありますよ。」

店員さんがにこやかにこたえた。

「段ボールひと箱どれくらいなのかな?」

商売が始まった。お客様の男性は、奥様と相談して、ひと箱丸ごと修学旅行生用朱鷺クッキーを購入して、その場で宅配手続きを済ませた。

「よしっ!これでかなりクーポンが片付いた!!」

満足そうなご夫婦。

後からやってきたお客様も、そのご夫婦から話を聞いて、次々と修学旅行生用朱鷺クッキーを購入した。さすがに箱買いされる方はいらっしゃらなかったが、5個、10個をお求めになられた方はたくさんいらした。

一番最初に購入されたお客様が、店員さんに得意気に話した。

「よかったねえ、余ってる品がはけて。」

「ええ。本当にありがとうございます。助かります。」

と、店員さん。

僕は、興味深くその現場を眺めていた。そして、みなさんがお買い物を終えて、お店が静かになった頃、

「よかったですね。品がはけて。」

と、労いの言葉をかけた。すると、店員さんはエレベーターのほうを覗き込んで、お客様が誰もいなくなったことを確かめてから。

「添乗員さんよね?じゃあ、言ってもいいわよね。」

と、言って語り始めた。にこやかな営業スマイルは、少々苦笑に変わっていた。

「この時期だからありがたいのだけどね。大人には、大人の商品を買ってほしいわあ()

言われてみれば、このクッキーを10個買っても売り上げは2500円だ。お菓子の詰め合わせ一つほどにしかならない。この時は極端だったが、実は、大人が修学旅行生用朱鷺クッキーを買っている現象は、今年に限って、多く起きているとのことだった。

「小学生だと、ふだんなら持たせてもらえないお金を持っているようなものだから、買っちゃうのでしょうね。大人だと、お土産を買っていくべき人がたくさんいると、できる限りクーポンの中で済ませようってことになっちゃうのかしら。」

店員さんの分析は、なかなか鋭いと思う。

僕が、店員さんとこんなことを話さなければ、もう少し高いものを買ってくれたのかなあという、多少の罪悪感があったので、その売店で、地酒を買った。佐渡のお酒もまたうまい。

 

以上、地域共通クーポンで発生した小売り現場の逆転現象をお伝えしました。

 

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追加の小ネタ

佐渡から新潟へ渡る船の中で、あるお客様から言われた。

「ずっと気になっていたのですが、今回のクーポンの金額。間違えていませんでしたか?友達が9月に同じツアーに参加したのですが、13000円もらったと言ってました。私たち、12000円でしたよ。同じツアーなのにおかしくないですか?」

「9月と11月では料金が違うのです。クーポンの金額は旅行代金の15%です。申し訳ないのですが、ツアーの種類は関係ないのです。」

お客様は、手元にパンフレットを広げて代金を確かめた後、「失礼しました。」と言い残して去っていった。そう。クーポンは、代金の15%です。よろしくお願いします。

コロナ禍の中でも、修学旅行が近場で実施された地域はあった。例えば新潟県。

県内のあるホテルに宿泊した時、同じホテルで小学生の団体と一緒になった。小学生に限らず、学生の団体と一緒になると、大浴場は、一時的に彼らの貸し切りタイムとなる。そういえば、修学旅行の時には、自分たち以外の個人客は誰もいなかったが、そういうことだったのか。

今回、このホテルでは、お土産屋さんでの貸し切りタイムもあった。館内の売店の様子を見ようと行ってみると、売店近くにあるソファでお客さんたちが座っていた。

「お店に入らないのですか?」

「今、あの子たちの貸し切り時間なんだって。」

なんだか面白そうだったので、お客さんと一緒に様子を観察していた。

20人ぐらいずつのグループに分けて、30台前半くらいであろうか、女性教員が、児童に一生懸命何かを説明していた。

 

「これはお金です!」

そう言って、手に持っていたのが、地域共通クーポンだった。小学生にわかるような言葉で、そのシステムについて説明している。まさに学を修めていた。コロナ禍ならではの修学旅行プログラムだ。

 

GOTOキャンペーンを使って旅行を手配すれば、当然地域共通クーポンは発生する。ただし、前述したとおり、クーポンは、旅行先で旅行期間にしか使えない。

よって、代金を払った保護者ではなく、小学生の子供がクーポンを手にすることになる。

また、クーポンには細かい番号が振られていて、発行時に、誰がどの番号のクーポンを所持しているか分かるようになっている。これは、一般のパッケージツアーでも同様だ。旅行会社は、万が一の不正や不祥事に備えてどのお客様が、どの番号のクーポンを所持しているか把握することが義務になっている。(その把握がかなり大変な作業になっているらしい)

ツアーに参加していて、旅行会社が連れていったお店で、ツアーバッジをつけていれば、クーポンを出すだけで買い物させてもらえるが、完全な個人旅行者の場合、クーポン利用時に身分証明書の提示を求められることがある。

あくまでクーポンは、個人に帰属するものだ。つまり、原則学校や教員がまとめて用途を決めることはできない。

 

以上の理由で、この修学旅行では、「子供のためのクーポンでお買い物講座」が行われたと思われる。

さあ、いよいよ買い物タイムだ。先生たちが見守る中、楽しそうにいろいろなものを見ている。

「俺、これでいいや。」と即決する男子。みんなで集まって「これかわいい、あれかわいい」ときゃいきゃいやっている女子。買い物をしている時のノリは、世代を超えて男性も女性も変わらない。

そのうち、ある児童が先生に声をかけた。

「先生!ここに千円札が落ちています!!」

持ち主は、すぐに見つかった。

「夢中になっている時も、気を付けてね。お金はすぐにお財布に入れて。私の見ている前で。」

男子が財布にお金を入れると、すぐに解放された。

少しして、別の声が聞こえた。

「先生!千円のクーポンが落ちてます!!」

今度は持ち主が名乗り出ない。先生は、手元にあるファイルを広げた。おそらく、クーポン一覧表で持ち主を確かめていた。

「〇〇くん!こっちに来て!!」

落とし主が分かると、先生は男子生徒を呼んでお説教を始めた。大人と子供の違いはあるが、同じクーポンを案内する人間として興味があったので、声が聞こえるところまで行って、話を少し聞いてみた。

「これはお金なんだよ。なくさないでって言ったでしょ?」

「ここにある番号はね、○○君の番号なの。もし、あなたが落としたこのクーポンで、誰かが悪いものを買ってしまったら、あなたがそれを買ったことになっちゃうの。分かる?」

最初、全員に言ったことを、今度は、より細かく教えている。お説教は3分くらい続いた。買い物タイムの中にあって、長過ぎず短過ぎず、正しいことを感情的にならずに言う、完璧に近いものだった。最初、あまり真面目に聞いていなかった男子児童が、きちんと話を聞くようになるまでじっくりと話していた。

「いい先生だなあ・・・。」と、僕は感心していた。

 

翌朝、出発時間が近いせいか、先生チームとロビーで一緒になった。前日のことを少し聞きたかったが、忙しいだろうと思って、遠慮してこちらの準備をしていると、

「おはようございます。昨日は、いろいろご協力いただいてありがとうございました。」

と、あちらから挨拶してくださったので、ついでに少しお話した。クーポンについては、

「まさに今しか学べないですからね。買い物も実習です。システムだけでなく、お釣りの出ないクーポンでいかにきちんと買えるか。」

「現金を落とした子とクーポンを落とした子で、叱り方が違うと思ったんだすけど、あれは意図的だったんですか?」

先生たちが、顔を見合わせた後、笑い出した。

「よく見てましたね()。現金を落とした子は、『しまった・・・』って顔をしていたので、注意で留めました。クーポンを落とした子は、自分が落としたことにも気づいていなかったし、『お金を失くすところだった』という自覚がないように見えたので、それを分かってもらえるまで話を聞いてもらったんです。」

「なるほど。クーポンの説明は、僕ら添乗員も苦労する時があります。落とした時の『誰かが悪いものを買ったら、あなたが買ったことになる』のくだりは参考になりました。」

「そこも聞いてたんですか?恥ずかしいなあ()あれは、クーポンの番号は個人情報の一部なのだから、それを分かってもらうためです。でも、『個人情報を落とすのと同じ』というのは、なかなか小学生ではピンと来ないんです。それでああいう例え話にしました。実際にクーポンで悪いものを買えるかどうかはともかく、個人情報を落とした時の例え話としては、分かりやすいでしょ?」

「確かに。ふーん。ますますなるほど。」

「本当にそう思ってますか?()

「思ってます。とても思ってます。」

 

この時点で、どれほどの児童が、先生が言ったことを全て把握しているかはともかく、真剣に説明してもらった言葉は、記憶に残るだろう。だんだんと成長していった時、様々な場面で「あれはこういうことだったのか」と、思い出す場面がきっとある。僕自身の経験でもそうだ。

地域共通クーポン券の利用は、子供たちにとって、コロナ禍における、珍しく貴重な体験だ。その本来の意味を理解するのは、もう少し後であるだろうけど。

それにしても、いい先生だなあ。小学校の時、ああいう人に教わりたかったな。

 

次回。修学旅行編をもうひとつ。

202011月。僕は関東と甲信越の紅葉の名所を巡るツアーを担当した。羽田空港で四国、九州からいらしたお客様を出迎えて、栃木・日光、新潟・越後湯沢、群馬・草津温泉、山梨・清里近郊の温泉の順に宿泊しながら4泊5日の旅をご案内した。

関東甲信越にお住まいの方々にとっては、信じられない動きをする旅に見えるかもしれないが、参加客は四国と九州居の住者を対象としたものだ。いざ蓋を開けてみると、関東には、なかなか来る機会がない方々を、効率よく景勝地を案内できるようになっていた。また、どこかしらで紅葉のピークに当たるように、南北、そして標高差も研究されていた。それぞれの観光地でとる時間は、だいだい一時間程度。

え?そんな短い滞在時間でもったいない?いや、だから遠くにお住まいで、滅多に関東に来れない方々のためのツアーだってば。格安の海外ツアーに参加されてる方々に申し上げておこう。欧州とかで、これよりもきつい移動を組み入れてるツアーはたくさんある。というか殆どそうなっている。滅多に来れないところで色々見られるように。

 

おっと、話がそれた。それで本題のクーポンだが、このツアーの場合、宿泊地の関係で4種類のクーポンが発行される。整理すると以下のようになる。

 

1日目 栃木泊 隣接は群馬、茨城、埼玉、福島

2日目 新潟泊 隣接は山形、福島、群馬、長野、富山、石川(海上で能登半島と隣接)

3日目 群馬泊 隣接は埼玉県、栃木県、新潟県、長野県、福島県

4日目 山梨泊 隣接は東京都、神奈川県、埼玉県、長野県、静岡県

5日目 山梨から箱根(神奈川)経由で羽田より航空機を利用。

 

いくら国内ツアーとはいえ、四国、九州から往復航空機を使って45日の旅となると値が張る。旅行代金は16万円。クーポンは旅行代金の15%分発行されるから一人当たり25,000円分となる。それが各県に均等に分けられて発行される。滞在時間が長い栃木が7,000円で、他は6,000円ずつだった。

面倒なのはここからだ。クーポンはツアー期間中有効だ。だから、どのクーポンにも有効期間は1日目から5日目までの期日が記入されている。

だが、栃木で過ごすのは最初の2日間。その後、一度栃木のクーポンは使えなくなる。そして、群馬に宿泊する時、再び有効になる。逆に、山梨のクーポンは、最初の3日間はまったく使えない。つまり、券面の有効日と実質の有効日が一致しない。実に面倒だ。

僕は、これについて最初にバスの中で案内しようとしたが、お客さんがまったくついてこれなかった。話して1分ほどで大半の方が眉間に皺を寄せて、2分すると8割の方が目を閉じた。

 

「どのクーポンがいつ、どこで使えて最後の機会はいつなのかは、その都度お伝えします。」

 

と案内すると、ある男性客の「それがよか!」というお言葉とともに、みなさん頷いたのだった。

かくして2日目に越後湯沢到着後から様々な注意報と警報を出すことになる。

「ここでは栃木のクーポンは使えません。群馬と新潟のみです。」

3日目。草津温泉のホテルにて栃木警報発令

「栃木のクーポンが使えるのはこのホテルまでです。使い切ってください!なお、群馬と新潟のクーポンは、山梨に入ると使えなくなります。そのタイミングは明日お知らせします。まずは栃木のクーポンを余さないように!」

4日目の午前、新潟から長野に入って群馬、新潟警報発令

「長野から山梨に入ると、新潟と群馬のクーポンが無効になります!ここのお土産屋で、必ず使い切ってください!」

「添乗員さん、買う物がないんだけど・・・」

「じゃあ、僕にクーポンくださいっ!」←もちろんジョーク

5日目、山梨クーポンのフォロー。

「箱根で買う物がなかったら、山梨のクーポンは羽田でも使えます。山梨県は東京都と隣接してますから。」

「へー。山梨って東京の隣なんだ。」

 

「旅行好きなのに無知だな」とか「地図見ればいいのに」などと思ってはいけない。お客様は、四国と九州からいらしている。関東甲信越の地理に疎いのは当然だ。

クーポンには、発行県だけでなく隣接県も記載されているが、ツアー内容に関係なくすべて記載されているので、わかりにくい。また、新潟などは表記が多いため、ご年配の方々には読みにくい。実際に、クーポンをお持ちになって「これ、群馬って入ってる?見えなくて」と聞きにくる方もいらした。だから、これくらいのサービスは当たり前なのだ。

とにもかくにもクーポンの案内はよくできたようだ。お客様からもアンケートで褒められていた。

「海外のお仕事が多く、国内業務は不慣れなようだったが、クーポンの案内は完璧だった。」

 

どうもありがとうございます!ちなみに、こんな面倒くさいパターンは滅多にないからご安心を。

 

次回。クーポン修学旅行編

GOTOトラベルキャンペーンを使って旅行を申し込むと、必ずもらえるのが「地域共通クーポン」だ。今回は、それについてのエピソードを紹介しようと思う。

当初、いろいろと混乱を招いた話は、ここでは割愛。メディアその他が散々悪口を言いまくっていたので、ここでは言及しない。僕が現場に出るようになってから、感染者数が増えてキャンペーンが停止するまで、概ね好評だったクーポンを使った現場について話そう。

 

個人旅行者にとっては、大変便利な代物で、レンタカー代、ガソリン代、その日の食事代などなんでも使えてしまうから、本当に現金の節約になった。利便性で文句を言う人はいないだろう。

逆に、宿泊や移動手段、大半の食事が込みになっているパッケージツアーでは、たまにある自由食とお土産くらいしか使い道がなく、消費に苦労しているお客様もいらした。

 

利用されたことがない方のために、面倒くさくない程度にクーポンを説明する。必要に応じてちょっとずつ案内しよう。そうしないと、それだけで嫌になって最後まで文章を読んでもらえないから。基本的には以下の通り。

・旅行会社か宿泊施設で発券される金券。旅行代金の15%分の金額で発行される。端数が出た場合は四捨五入。なお、お釣りは出ない。

・宿泊ツアーの場合なら、宿泊地の都道府県から発行される。利用エリアは、発行都道府県と隣接する都道府県。この場合の隣接は、海を挟んでもOK

・有効期間は旅行期間中のみ。

・電子クーポンと紙クーポンがある。ツアーでは紙クーポンが配布される。

 

以上。少しずつと言いながら、これだけ覚えておけば、だいたいなんとかなる。金券には違いないが、他に比べて有効期間や有効地域に、かなりきつい縛りがある。

こんなトラブルを聞いた。あるツアーは、島根、鳥取を旅した後、兵庫をに入り、最後は伊丹空港から飛行機で羽田に帰る行程だった。参加客の多くは、伊丹空港で、鳥取のクーポン券を使おうとした。伊丹市は兵庫県。兵庫と鳥取は隣接しているから、普通は有効と考える。

ところがどっこい。伊丹空港のターミナルは、実は、大阪府池田市。(空港敷地は、大阪府豊中市、池田市、兵庫県伊丹市に跨っている)。大阪と鳥取は隣接していない。そのため、クーポンは使えないと案内されてしまった。

「ここは伊丹空港ではないのか!?」

と、お客様が怒ったという。気持ちは分かる。でも、ルールはルールだからどうしようもない。挙句の果てに添乗員が

「あんたが、ちゃんと教えてくれないからだ!」

と怒られたそうだ。「理不尽だ。自分で調べろよ。」と思われた読者もいることだろう。だが、添乗員の中には、

「鳥取のクーポンは、伊丹空港でご利用いただけます。」

と言ってしまった者がいたらしい。「言ってしまった者がいたらしい」というのは、このケースは複数あったということだ。おそらく、それを言ってしまったのは、みんな関東の添乗員だろう。関西の添乗員に言わせると、「伊丹空港ターミナルは大阪」は、常識らしいから。

僕は知っていた。知ってはいたが・・・使えるって言っちゃったかもしれないなあ・・・。同じ施設で敷地が跨っていたらセーフと思ってしまう気持ちは分からないでもない。

 

ここは間違えないように、伊丹空港という呼び方を使わないようにしよう。正式名称は「大阪国際空港」だ。これで悲劇は二度と起こらない。まあ、これは添乗員の間では有名な話ではあるけれど。一般参加者の方々、気をつけましょう!

 

と、いうことで次回につづく。

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