マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

カテゴリ: こぼれ話

あくまで個人的な感覚や相性の問題かもしれないが、ルフトハンザ航空は大好きで、添乗員としてもっとも信頼している航空会社のひとつ。

本日、羽田を1時間遅れで出発。フランクフルトでの乗り継ぎが、元々1時間20分しかなかったため、計算上は20分というタイトな乗り継ぎとなってしまった。

「フライトは飛ばして定刻より20分程度の遅れで済む予定です。」
なるほど。それは助かる。でも、スーツケースの積み残しが心配だ。
「今回、ポルト行きのお客様のタグには、こちらをおつけします。」

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「このタグがついているスーツケースは、急ぎの乗り継ぎ専用のコンテナーに入りますから、よほどのことがない限り積み残しに合いません。確約はできませんが、おそらく大丈夫です。」

果たして、間一髪ではあったが、乗り継ぎはうまく行った。荷物もお客さんの分も僕のものも、全て届いた。

さすが!長い添乗員生活において、乗り継ぎが絡んで、たったの一度でさえロストバゲージがない唯一の航空会社。ルフトハンザだけある。

みなさんは、どんな経験をされているかわからないけど、僕の中では、何かあった時に踏ん張ってくれる、最も信頼できる航空会社のひとつ。
これからもよろしくお願いします。

さて、今晩からポルトに三連泊。お客さんの部屋の不備に備えて、チェックイン後、1時間はフロントに待機するのが、この取引先のルール。とりあえず、なにもないようだ。
僕も寝よう。おやすみなさい。

あ、日本ではおはようか。
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先ほど、となりで受付していた添乗員とお客さんのやりとり。

「お客様、お顔を覚えたいので、マスクをお取りいただけますか?」
「はいよ。」
「どうもありがとうございます。」
「僕の場合は、これ(ツルツルの頭を指さして)が目印になるよ」
「いえ、そういう方は、他にもたくさんいらっしゃいますから」
「え?」
「え?」
「え?…やだ、ごめんなさい!」
一瞬固まったご年配夫婦は、その後すぐに爆笑。苦笑しながら真っ赤な顔をしている添乗員。
僕にしてみると、彼女が言ってしまったことより、真っ赤になっているところが面白かった。
添乗員が、リアクションに困る発言をお客さんがすると、たまにこんなことになります。
案外、こんなのがきっかけになって、仲良くなることもあるもんですが。

では、行ってきます。 
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今回の行き先はポルトガル
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「ツートンさん、私、ここの観光に参加しないでバスで待っています。いやね。会社のミーティングに参加しないといけなくて。いや、同僚から頼まれたんですよ。聞いているだけでいいから、この会議には参加してくれって。」

こんなことを仰るお客さんが増えつつある。

その度に僕は、不満そうな顔をしていたのかもしれない。今まで、どの方も付け加えた。

「無粋ですみませんね。でも、気を遣わせないように、他の方には分からないようにしますから。」

一頃流行った「忙しい自慢」はしないから、そこはいい。仰る通り、他の方々にも分からないようにされていたから、そこも文句はない。

でも、「無粋ですみませんね」というお客さんたちの言葉に対しては、本当に無粋だなと思っていた。海外旅行という「現実から離れた異世界」に、「会社の会議」という現実を持ち込んで欲しくないのが、案内人としての希望だ。

「ズームでその会議に参加できるから、このツアーに来られた。もし、それができなかったから、長期の休みさえ取れなかった。」

という反論はあるだろう。

でも、「聞くだけで良い会議」は、果たしてその方にとって、生で参加しないといけないほど大切なものなのだろうか。議事録を確かめるだけではダメなのか。僕も、サラリーマンの端くれだったことがあるから、少しは分かるつもりだが、その人にとって本当に大切な会議なら前後がある。事前準備や決定事項に基づいた会議後の調整が必要だ。それこそ最初から海外ツアーなどに参加できるはずがない。・・・と思ってしまうのは間違いだろうか。

ズームは確かに便利だ。僕もコロナ禍真っただ中に、そのおかげで自宅にいながら旅行会社のオンラインイベントに参加できた。

オフィスにいなくても仕事ができる便利さは、21世紀のドラえもん型アイテムだ。でも、自宅出勤でない休暇中にそれを使うのは、21世紀型ではあってもドラえもん型ではない。夢がないという意味で。

ひょっとしたら、「同僚に頼まれて」というのは単なる言い訳で、会議への参加は、その方の義務感であり責任感であり、単に性分によるものかもしれない。だとしたら、気持ちを切り替えて旅行中に仕事のことは忘れて欲しい。旅行中は、もっと真剣に遊びに集中して欲しい。

もし、休暇中の部下や同僚にオンライン会議への参加を求める人がいるなら、控えていただきたい。それって働き方改悪だと思いますよ。休みは休みですよ。

あまりやり過ぎると、いつかメディアで取り上げられてしまいますよ。
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こんな風景を見ながら会議できますか?僕には無理です。
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Oh!

薬局の女性店員は、僕の歯の様子を見ると、両手で口を覆いながら世紀の大悲劇に遭遇したかのような表情を見せた。確かに、僕の状態はそれに近いものではあったかもしれないが、それにしても大袈裟なリアクションだった。

「どうにかできませんか?」

切なく訴える僕に対して、しばし考えた後、彼女は口を覆う両手をゆっくりおろしながら言った。

「こちらではどうにもできないわ。」

そんな・・・。ツアーの残りはまだ六日間もあった。ロワールの素敵なお城を歯なしで巡れというのか。聖地モンサンミッシェルを歯なしで案内しろいうのか。パリのシャンゼリーゼ通りを歯なしで歩けというのか・・・。どれを考えても、一生十字架を背負わざるを得ないような悲劇的なシーンばかりだ。だいたい、歯がない添乗員と一緒に歩くなんて、お客さんたちだって嫌に違いない。

「昨日、ネットで調べたら、歯の接着剤のようなものがあるようだけど、こちらにはないのですか?」

「ないわ。確かに歯の接着剤はあるけれど、一般の薬局では扱うことはありません。歯医者に行かないと・・・。」

「・・・・」

茫然としている僕を、しばらく申し訳なさそうに見つめていた店員は、その場を立ち去ろうとした。

「・・・あの、すいません!」

とはいえ、諦められるはずもない。前歯がないままパリの街を行き来する自分を想像したら死にたくなった。絶対に引き下がれるはずがなかった。それはもう必死だった。

「あと六日間だけの対策でいいんです。日本に帰ったら歯医者に行きますから。この間だけ、一時的になんとかできればいんです。お願いします。」

店員は、少し困ったような顔をした後、「少々お待ちください」と言いながら店の奥に入った。そして一分もしないうちに戻ってきた。

「今、ご用意できるのはこれだけです。」

「これは?」

確かめてみると、入れ歯の固定剤だった。

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「一本の歯を固定するのは難しいと思います。ちょっと固いものを噛んだら取れてしまうでしょう。その時、欠けた歯を飲み込んでしまうかもしれない。リスクを考えたら、おすすめできません。」

「いいんです。とりあえず、前歯がない状態をなんとかできれば!」

店員は、従業員用の洗面所まで貸してくれた。

「今すぐお使いになるのでしょう?口の中をきれいにしないとだめですよ。歯ブラシして、口もちゃんとゆすいでね。つけてすぐは取れやすいから、しばらく舌で触らないように気を付けてください。」

優しい。急にお母さんモードだ。

果たして、歯はくっついた。大きく息をついても、「ばびぶべぼ」を激しく発音しても、歯が飛んでいくことはなかった。ああ、前歯があるだけで世界はこんなに違って見えるものなのか!

バスに戻って、お客さんたちの前で精いっぱい大きく口を「い」の形にして、くっついた前歯を見せると拍手が起こった。ひょっとしたら、このツアー中で一番大きい拍手だったかもしれない。

ただし、しょせんは入れ歯の固定剤だ。食事中はすぐに取れてしまうので、外しておくことになった。それ以外でも安定しているのは、せいぜい5時間くらいで、わりと細かいケアが必要だった。

「ツートンさん、歯、大丈夫?」

と、お客さんに励まされながら、なんとか残り6日を乗り越えた。

ちなみに簡単に取れないように丁寧な治療を今も続行中で、今、入っているのは不安定な仮の歯だ。もし、みなさんがどこかのツアーに参加されて、いきなり前歯が飛んだりなくなったりする添乗員がいたら、たぶん僕だ。

その時、お願いだから「ツートンさん?」とか聞かないで欲しい。本気で聞かないで欲しい。一生のお願いだから聞かないで欲しい。

おわり
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前歯が入った後のサンテミリオンの街とぶどう畑はさらに美しく見えた。これもは一本の余裕だね。
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朝、神秘的な光をたたえる外の風景に気付く。

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部屋の前に広がっていたのは、黄金色に輝くぶどう畑。でも、まだ僕の歯はなかった・・・。
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朝のぶどう畑は美しい
「ふー・・・」と、大きく息をつくと、欠けた歯の隙間から息が抜けていった。このように書くと、けっこうな笑いのネタではあるが、当時の僕にとっては、過酷な現実であった。

朝食会場に向かった。気の早いお客様たちが、既に何人かいらした。

「おはようございます。」

「おー。おはようございます。」

何人か挨拶を交わしていく中で、僕の顔を見ているのに目が合わない方がいらっしゃるような感じがした。同じテーブルで隣に座った女性客に声をかけた。

「お客様。」

「はい?」

「僕とお話してくださるときは、目を見てください。、歯じゃなくて。」

「やだもう!余計に見ちゃうじゃない!」

その方は、赤面しながら僕の肩をペン!と叩いた。やはり、歯をご覧になっていたようだ。

正面ではご夫婦がそのやり取りを見て笑っていた。ご主人が、

「大丈夫だよ、ツートンさん。そろそろ皆さん慣れてこられる頃だ。今さらそれくらい見ても・・・あ、ごめん笑っちゃうな。悪い悪い。」

と苦笑した。ほんと悪い人だ。面白いけど。

ホテルのチェックアウト時は、年配の男性スタッフが対応していた。いつもの僕なら、昨晩の美人スタッフ軍団がいなくて、かなりがっかりするのだが、この日はかなりホッとしていた。歯が一本ないだけで、人はこうも変わる。

観光が始まった。仕事になれば歯のことなど気にはしていられない(というつもりでいただけかもしれない)。朝の光に当たる美しいサンテミリオンの街を、英語ガイドの案内で快活に進めていった。

そして、バスパーキングに向かう時だ。誰かが僕の袖を強く引っ張った。振り返ると、朝食時に隣に座っていた女性客だった。

「どうかされましたか?」

「ツートンさん。バスに戻る前にあそこに行って。」

彼女が指差す先には薬局があった。

「え?薬局ですよ。」

「そうよ。薬局よ。あそこに行って、歯がどうにかならないか聞いて来なさい。」

「あそこは薬局です。歯医者じゃありません。」

「そんなこと分かってるわよ。なにかしたアイディアを出してくれるかもしれないわよ。決めつけないで行きなさい!」

「そうだ。行ったほうがいい。」

別の男性客が言った。

「明らかに昨日までと違って集中できていない。きっと歯が関係している。とりあえず、今できることを教えてもらえるかもしれない。」

「ほら。他の方もおっしゃっているじゃない。私も、今のあなたは見ていられない。・・・というか、つい見ちゃう。・・・あ、ごめんなさい。」

どこまでが本気で、どこからが冗談なのか。

「ガイドさんがパーキングまで案内してくれるから大丈夫だ。言葉が分からなくても、後からついていくくらいなら問題ない。」

「わかりました。ありがとうございます。すぐに済ませます。」

「いえ、時間かけてもいいから、歯をなんとかしてきて。じゃないと、気になっちゃって、あなたと話す時に集中できな・・・」

「行ってきます!」

最後の言葉を遮って、僕は薬局に向かった。言葉を遮ったとはいえ、こんな時間をくださったお客さんたちには感謝していた。

日本なら歯が欠けて薬局にいくだなんて考えられない。果たして、僕の歯くっついたのか。
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石灰石の家並みが美しいサンテミリオン
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昨日は、トルコ航空でマルタ島に出発した。
今、乗り継ぎのためイスタンブールにいる。
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LVのデコレーションがいつもながらすごい。

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モニターには、英語表記と並行して、時々目的地の言語に表示が切り替わる。さすが、Meeting  Point of the World を自負している空港だけある。
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ところで、肝心の機内では思わぬ贈り物があった。トルコ航空にはBBCなど4つのテレビ放送があるのだが、スポーツチャンネルで、まさかのラグビーW杯の決勝がオンエアされていたのだ。
観戦をあきらめていたから、嬉しさもひとしお。期待を裏切らぬ大熱戦。
仕事に向けて気持ちが上がっていく。

ということで、やたらアクセスが多い歯抜け添乗員の話の続きは、しばらく後になるかな。
ではまた。
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カルカソンヌのライトアップ。フランスで一番美しいライトアップとも言われている。本当は、逆側から撮る全体の風景が良いのだが、今回は機会がなかった。
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朝日に染まる旧市街。
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朝早めに散策を始めると、中世の様子を残した街並みを満喫できる。

その日は、カルカッソンヌの観光を終えた後、列車でパリまで移動することになっていた。ランチはお弁当。

「幕ノ内弁当とかではないですが、バケットのそこそこ美味しいサンドイッチが出てくると思います。駅でビールやワインを買っておけば、ちょっとした列車の旅ですね。3時間の移動ですから、退屈されないよいうにそれぞれ工夫されることをおすすめします。」

ビールやワインのところで、お客さんたちは目を輝かせた。このツアーは飲み助の集まりでもあった。

しかし、駅に到着すると、利用予定の列車には「遅延」マークがついていた。最初は20分ほどだったのに、30分、40分とどんどん長くなっていく。列車で飲むはずだったお客さんたちのビールは、しだいにぬるくなってきた。

みんなのテンションが下がってきた。このフランスのツアーは、日数が長く、航空機はビジネスクラス利用ということもあり、かなりの高額商品だった。、その方々が、たかだか1.2ユーロの缶ビールがぬるくなってしまうくらいで、不機嫌になっていくのだから人間て面白い。

こんな時、「ホテルに着いたら美味しいビールを飲みましょう」と言ったら逆効果だ。みんな「列車でビール」というシチュエーションを楽しみにしていたのだから。そっとしておく。

もっとも、紳士で淑女な方々は、こんなことで添乗員に厳しく当たってくることなく、ぬるくなっていくビールという現実を受け止めて、それらをカバンにしまっていた。駅の構内で酒盛りを始めなかっただけでもご立派な方々だ。

やがて、列車の遅延は一時間を超えた。

「夕食のこともあるから、今のうちにランチをとっておきましょう。」

僕の提案を受け入れて、全員がそれぞれお弁当に手を付け始めた。

僕も、駅のホームに入り、空いているベンチに場所をとって食べ始めた。

「でっかいサンドイッチだなあ。」

バケットとハム、チーズのいい香り。でも、バケットは固かった。やたら大きかったから、余計に顎の力が必要だった。

一口目。がぶりとかじってゆっくり噛みしめた。

「うん。なかなか。」

サンドイッチって素晴らしい。パンとハムとチーズがお互いを引き立て合う最強の組み合わせだ。

1+1+1=4になっている、最高の食べ物だ。でも、この固いバケットは、日本人、特に年配の方には圧倒的に評判が悪い。顎が痛くなるとか、歯が心配とかよく言われる。僕も、このサンドイッチを味わえなくなる日が、いつか来るのだろうか。だとしたら寂しい。

そう思って、二口目をがぶりといき、ゆっくりとかみしめようとした時、右前歯の部分が「キチッ!」と鳴った。

「ん!?」

嫌な予感がした。口の中で舌を動かしながら慎重に探ってみると固いものがある。取り出してみると・・・歯だった。

キチッ!と音がしたところを舌でさぐってみた。当たり前だが歯がなかった。

検診で、なかなか発見されなかった虫歯を治療したところだった。

「見た目は普通ですが、歯の根が、非常に細くなっています。固い食べ物には気を付けてください。」

とは言われていたが、5年くらい前の話だし、忘れていた。これまで無事だったし。

鏡がなかったので、スマホで自分の顔を写し出した。

「歯がない・・・」

当たり前のことを呟いていた。そして、このままお客さんの前に出る事を考えると、今までに感じたのとは、まったく違う種類の恐怖を覚えた。

「どうしよう。このままでは、『歯なしの添乗員』として、一生十字架を背負うことになってしまう。」

 

つづく
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僕の歯を砕いたバケットサンドイッチ
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歯なしの添乗員。写真をひっくりかえしてしまったようで、実際にないのは逆側
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パリ近郊のジベルニー。モネの家にある日本庭園。静かな水面に睡蓮が映えていた。このツアーで訪れた2日後には閉まり、来年4月まで開かない。ここを楽しみにされている方は多い。近年、オーバーツーリズム気味ではあるが、この日は比較的空いていた。

手続きを無事に終えて他のお客さんのところに戻ろうとした時、僕は男性客に問いかけた。

「あの、なにかしらフロントに申し上げたほうがよろしかったですか?」

「ん?どうして?」

「いえ、僕の背後でやりとりご覧になっていたくらいですから、もしかしてと思いまして。」

「いや、その逆だよ。」

「逆?」

「むだに文句言わなくていいから、さっさと出ようよって言おうと思ったんだ。」

なんだ。そっちか。

「早く空港に行ってラウンジ入りたいんだよ。朝に飲むビールが美味しくてねえ。やったことなからやってみて。おすすめだよ。」

良い子には聞かせたくない話だ。

「しかし、なんでこの添乗員はそこまで頑張ってくれるんだろうってことがたまにあったんだけど、ツートンさんの話で分かった。あれはパフォーマンスだったのか。」

「いや、全部がそうだというわけでは・・・」

「もちろん、そのあたりの区別はつくつもりさ。でも、次からそれを感じたら容赦なく言うようにしよう。『パフォーマンスはやめなさい!』と。」

「勘弁してくださいよ。」

「ツートンさんの分析だと付け加えたら効果がさらにありそうだ。」

「そして僕が暗殺されたらお客様のせいです。」

冗談を交わしながら、他のお客様が待つところに向かった。

「さて、他の方々にもホテルの不手際を説明してから出発しますか。」

「え?今の説明するの?」よほど早くビールを飲みたいらしい。

「はい。」

僕は、スタスタとお客様たちのところに歩み寄り、真顔で説明を始めた。

「先ほどは、不手際がありながら、皆様にはご協力いただきまして誠にありがとうございます。」

必要以上な、真顔と真面目なは話し方に、一部のお客さんたちの口元は既に緩んでいた。

「それで先ほどの不手際の理由についてですが・・・」

敢えて間を置くと、既に笑いそうになっている方もいた。

「作業をしたスタッフが、疲れていたのだろうとのことです。」

お客さんたちは、拍手をしながら笑い出した。うまく行ったツアーの中では、こんな冗談発言も許される。

「そんなことだと思った。」

「ツートンさんの真顔のジョークにも慣れました。」

「そうそう。真剣な顔の時ほど冗談言うの。」

「あんな初歩的なミスに言い訳なんてないわよね。」

「終わった終わった。早く空港に行きましょう。」

ホテルのスタッフが見送ってくれた。誰も、これ以上不手際を詫びない。それどころか「またいらしてください!」とにこやかに送ってくださった。これもまたフランス。

6時。暗いが、パリの街が動き始める気配を見せる中、バスはお客さんたちと彼らの旅の思い出を乗せて走り出した。

 

おわり

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紅葉に染まるフィヨルドは初めて見た。まさかこれほど美しいとは
その日、ストックホルムでの自由行動中、僕はお客さんへのプレゼントを選んでいた。

「なに買おうとしているの?奥さんへのお土産?」

外から僕の姿が見えたのだろう。中年女性客の二人組が店に入って来た。

「ハネムーンとお誕生日用にプレゼントを選んでいるんです。」

この時の取引先は、お祝い事の予算を添乗員に与えてくれる。このツアーでは、誕生日とハネムーンの方がいらした。

「あら。ハネムーンは知っていたけど、お誕生日の方もいらっしゃるのね。・・・でも、けっこういいものもらえるのね。」

お店を見回してお客さんは意外そうに言った。この取引先の、お祝い予算は、おそらく日本一の金額だ。だから選択の幅は広く、プレゼント選びは楽しい作業だ。

「はい。せっかくだから思い出に残るものをという、会社の配慮です。」

「いい会社ねえ。お祝いは、バースデーとハネムーンだけ?」

「いえ。結婚記念日、銀婚式とか金婚式も。記念日は基本的になんでも。」

「それって、会社はどうやってわかるの?」

「自己申告制です。」

「嘘ついてももらえちゃうってこと?」

「そのようなことをされる方はいらっしゃらないという判断です。性善説。」

「そう。・・・あのね、私、このツアー中に結婚記念日を迎えるの?」

「本当に?」

「ええ。なにかもらえるのかしら?」

「はい。もちろん。一緒に選びましょう。・・・ん?」

その方の隣にいらっしゃるのは、妹さんだ。姉妹での旅行だと仰っていた。

「あの、ご主人は?」

「やっぱり一緒に旅行していないとだめ?」

それはそうだ。「だめ?」と聞きながら、「やはりだめか」という表情をされていた。

「主人は日本に忘れてきちゃった。来年は持ってくるからさ。だめ?」

「・・・だめです。」

あぶないあぶない。面白さに免じて何かあげてしまうところだった。今考えると、座布団一枚くらい差し上げてもよかったな。
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ベルサイユ宮殿。パリの有名観光地はどこも混雑しているが、ここも例外ではない。今回は、庭園も含まれていたので、よりお楽しみいただけたようだ。
とても協力的なお客さんたちは、次々と支払いを終えて雑談をしていた。

「このドライクリーニング代、僕のデポで落とさないでくださいよ。」

少々皮肉をこめてもう一度スタッフに言うと、

「しませんよ。もう許してください。」

と苦笑いをした。

「それにしても、あなたの同僚は、なんでこんなミスをしたのでしょうね。添乗員の僕の部屋にチャージするなら分かりますけど、グループには全然関係ない客の部屋につけるだなんて。」

「おそらく、ツートン様のお部屋にまとめてつけようとしたのだと思います。」

「部屋番号が全然違いますよ。僕の部屋は458ですよ。」

「そこはおそらく・・・」

「おそらく?」

「この作業をした者は、とても疲れていたのでしょう。」

「疲れていた・・・。」

「・・・はい。」

「・・・以上?」

「はい。」

思わず笑ってしまった。すぐに解決できたし、結果的に全く問題はないが、このミスの言い訳が「疲れていたのだと思う」の一言だけだとは。

同時に、時々通り過ぎた時に目にしたフロントの忙しさを思い出した。常にカウンターには列ができていた。にも拘わらず対応するスタッフは増えなかった。明らかに人が足りていなかった。

「ここも、コロナ禍後のマンパワー不足なのかな。」

未だ、世界のあちこちで聞く現象が、パリの五つ星ホテルでも起こっていると考えが、スタッフの「同僚は疲れていたのだと思う」という言葉に繋がった・・・というのは考え過ぎだろうか。「単純な凡ミスをそんなふうに庇うなよ」と、もう一人の自分が語りかけてくる。

ま、いずれにせよ解決だ。僕のクレジットカード明細に、意味不明な請求が記載されるリスクは避けられたし、お客さんたちもスッキリして帰国することができる。

「お世話になりました。」

そう言ってフロントを背にすると、男性客が立っていた。この方は、とても英語が堪能で、僕とスタッフのやりとりを理解されていた。

「ホテルも、けっこういいかげんだねえ。」

「本当ですね。」お互いに苦笑いだ。

「でも、ツートンさんは怒らないんだね。」

「え?」

「いや、前に似たようなことがあったんだけど、その時の添乗員さんは、ホテルの人たちに、ものすごい剣幕で怒ったんだ。『お客さんを不愉快にさせるな!今後、同じことが起きないように、原因をしっかり説明して謝罪しろ!』って。そこまでやらなくてもいいってくらい。」

「今回は、単純な作業上のミスですから。すぐに解決しましたし、これ以上怒る必要はありません。」

「あの時も、すぐに解決したんだ。」

僕に怒って欲しかったのだろうか。

「だとしたら、それは添乗員のパフォーマンスでしょう。お客さんの前でしっかり仕事をしているところを見せたいとか、舐められてると思われないようにとか。」

恫喝して原因の説明を求めることなど滅多にあってはならない。少なくとも、僕は一度もしたことがない。ましてや今回のケースはそれに当てはまらない。

ただし、小さな問題でも、原因をはじめとした説明を求めるお客さんは稀にいらっしゃる。管理職を長年されていた方に多い。「原因を究明し、説明させることで今後の改善につながる」と主張される。

まったく悪気はなく、寧ろ正義感からそういう言動をなさる。気持ちは分からないでもないが、職場でのマインドを旅行に持ち込まれても、添乗員としては困る。

ひょっとしたら、お客さんが以前に見たという添乗員のパフォーマンスも、そのような人がグループにいて、何らか指摘を受けることを避けるためにしたことなのかもしれない。

いずれにしろ、ホテル側にしてみれば迷惑な話だ。

宿泊客は、あくまで客だ。客にとってホテルスタッフは、もてなしてくれる存在ではあっても部下ではない。そこを理解しておかないと、クレーマーになる。特に欧米では、客ともてなす側に、日本ほどの上下関係はない。

改善点にしても、自分がそこに留まってその後の業務を管理する立場にあるならまだしも、すぐに帰ってしまうのだ。そして、たいていの場合、二度と同じホテルには宿泊することがないのが、外国からの旅行者だ。その後を見届けることもできないのに、改善につながるための原因究明など求めるべきはない。

盗難や高額な支払いが絡むならともかく、この程度の問題なら、解決した瞬間にすぐに引き下がるのが得策だ。

「うん。そうだよね。実に納得した。」

お客さんは、納得したと言わんばかりに深く頷いた。あれ?僕に怒ってほしかったんじゃないのか?
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