マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

タグ:コッツウォルズ

前日に書いたマナーハウスホテルの続き

日帰り観光客がいなくなる夕方。カッスルクームはすっかり静かになる。
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その時間帯を見計らって、僕は四人のお客さんたちと村の中に出た。お目当ては、知られざるケーキの名店。

「そんな素敵なお店あったかしら。」

マダムの一人が首をかしげている。ふふふふ・・・あるんだなあ、それが。で、行きついたのがこちら。

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カッスルクームのマーケットクロスを取り囲む家屋のひとつ。、玄関先にケーキをケースに入れて置いてある。支払いは、日本で言うところの新聞受けに入れる。お釣りが必要な場合は呼び鈴を鳴らすかドアをノックすると、家主が出て来てくれるから、その時に頼む。ケーキの無人販売というか、半無人販売。

どれどれ今日のメニューは・・・レモンケーキとキャロットケーキ。小さいカットだとチョコレートブラウニーもある。
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お値段は、大きいほうが5ポンド。小さいほうで2ポンド
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お気に入りのバナナケーキはなかったが、レモンケーキもしっとりしていて美味しいので、こちらを買うことにした。

「これが名店?」と、半信半疑なお客さんたち。ひとつ小さいほうを買って味見をしていただいた。

「え?美味しい!」

そうなんです。美味しいんです!

だが、イギリスに来たばかりの僕らは小銭を持っていない。仕方なくノックすると、家主さんが出てきた。この村に来るたびに僕は買っているので、彼は僕を覚えていてくれた。
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記念撮影を終えた後、単独撮影に応じてくれた家主さん。接客は、この方でななく、奥様らしき女性がしてくださることもある。ケース内に好みのケーキがなくなくなった場合は、呼び出すと在庫があることもある。ただし、基本的には無人販売方式。在庫確認や釣銭などの用事がないのに呼び出すのは失礼なので控えたい。
「次はバナナケーキを作っておくよ。」

おお!好みまで覚えていてくれた。次に来るときは、前もって連絡しよう。お客さんたちは、家主さんにお会いできて大喜び。はしゃいで記念写真を撮っている。

「でも、こんな美味しいケーキを食べたら太っちゃうわ。」

それを聞いた家主さんは、売り文句が書かれた紙を指差した。

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「重くなればなるほど、誘拐されにくくなる。ケーキを食べて安全を確保しよう」と書かれている。
なるほど。理にかなっている。確かに食べ始めたら気にしていられないね。

さて、次に食べられる機会はいつかな。
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ガイドブックにもよく載っているイギリスはコッツウォルズの名所カッスルクーム。
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村の中にはわずかなパブレストランと、ティーサロンしかない。
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午後三時半には薄暗くなってくるこの時期、窓の明かりには暖かみを感じる
谷底にあるから、街の外側を走る車の音も聞こえない。村内への車両乗り入れは、居住者と宿泊者にのみ許されている。

コッツウォルズでも、かなり南に位置してアクセスが悪いせいだろうか、訪問者もそれほどおらず、主要観光地の中でも古き良き、静かな田舎らしい風景を残している。

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その静かな村の奥に、イギリス屈指の高級マナーハウスホテルがある。

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その名もThe Monor House(マナーハウス)。そのまんまで申し訳ないが、本当なのだから仕方ない。

ただでさえ静かな村から、細い専用通路を100mほど歩くと、立派な屋敷のような建物がある。客室は、この本館のほか、おそらく使用人や倉庫として使われたいたものを改装したコテージタイプがある。

ここのすごいところは、宿泊する部屋に外れがないことだ。この手のホテルに宿泊する時は、必ずと言っていいほど当たり外れがある。ツアーだと完全に明暗が分かれるため、添乗員は、外れ部屋に当たったお客さんのフォローに追われる(フォローと言ってもなだめるだけだが)。嫌な作業だ。

ところがこのマナーハウスは、当たりの中に大当たりこそあるが、外れがない。

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こういうところでは、ほぼ必ず底辺の部屋に泊まる添乗員の部屋でさえこんなに素敵なのだから、お客さんたちの部屋の素晴らしさを想像できるだろう。写真に収めることはできなかったが、本当にいい部屋だった。なお、部屋の良さに本館、別館の区別はない。どこもいい部屋だ。

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ベッドの上にあったライオンのぬいぐるみ。なにかと思ったら、「Do not disturb」用だって。凝ってるな。
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バスタブ。向かって右側の壁にはテレビが埋め込まれている。

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シャワーブースの中。三畳分くらいの広さはあったと思う。この時期は寒いので、三分くらい出しっぱなしにしてから利用した。
この時期は、クリスマスということもあり、入口のデコレーションやメインダイニングのツリーなど、いつもとは少し違う雰囲気だった。
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暗いけれど、これで朝の7時。朝食の開始時間。まるでディナータイムのような雰囲気。
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レストランの座席は余裕を持って配置されている。冷たいフードはビュッフェ。卵料理やベーコンなど温かいフードはオーダー制。
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ロビーや居間。どこも隙なくゆったりとした雰囲気。

クリスマスシーズンを満喫していただくのに、最高の環境をお客さんに提供することができてよかった。と、いうか僕も満喫した。ツアーの主旨とはいえ、このホテルを使おうとした企画担当者は素晴らしいと思った。

たまには、こんないい思いができる添乗員の仕事です。
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この日は、コッツウォルズの観光をして、そのままロンドンに入る行程だった。

6月中旬のコッツウォルズは、気候も風景も最高で自然と足が進む。だから「私、歩くのが苦手なの」と言う人も、知らないうちに歩数計の数字がとんでもないことになっていることがある。

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正直、花が変わる時期に当たってしまったようで、思ったほど花の種類は見られなかったけど、それでもコッツウォルズは美しかったです。

http://mastertwotone2020.livedoor.blog/archives/6611782.html

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コッツウォルズの風景については、こちらにも写真が掲載されています。

この日の午前中もよく歩いた。歩いて歩いて、楽しくて楽しくて、いい感じにお腹が空いてくる。ランチはボートン・オン・ザ・ウォーターで自由食。お客さんたちが、空腹にまかせてレストランを探しに行きそうになったところで、僕は声をかけた。

「今日はディナーが重いので、ランチは軽く済ませてください。あそこのパン屋がおすすめです。」
指差したのは、Bakery on the Waterというパン屋。観光地のど真ん中にあって、人気が高い。日本風に言うと「行列のできるパン屋」というやつだ。
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BAKERY ON THE WATER。開店から、常に人の出入りが盛んな人気店

添乗員にはそんな行列に並ぶ暇などないから、僕自身は入ったことはない。しかい、これまでに入ったお客さんたちの評価が、常に高かったので、みなさんにおすすめしている。天気が良い日に、パンやサンドイッチを買って芝生の上で食べるって気分が良いしね。運がよければ店内の席に座れる可能性もあるが、数が少ないのでそこは期待させない。

どうしても、店で座って食べたい人には、その近くにあるウェリントンという店に案内する。ほんのわずかメインストリートから奥まったところにあるのだが、それだけでかなり混雑が緩和される。ところで、この店のことは、時々使うので知っている。

「味は普通です。不味いということはないかな。ただ、サンドイッチなどの軽めのメニューを多く扱っているのでオーダーしやすいです。と、言っても我々日本人には十分な量ですから、ご夫婦やお友達同士なら、サンドイッチとサラダを頼んでシェアするのがいいです。一人なら、どちらか片方一品頼めば足りるでしょう。『ちょっと少ないかなあ』くらいの量をオーダーするのがコツです。」

とにかく、ディナーのことを考えて「軽め、軽めに」を強調する。

そうすると、ディナー時に空腹になり、五つ星ホテルディナーのメインディッシュが美味しく食べられる。

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この日のディナーのメインディッシュ。鴨のコンフィ。さすがに五つ星ホテルのメインダイニングともなると料理は立派。これを美味しく食べさせるために、努力は惜しみません。空腹にこだわるの、わかるでしょ?なお、コンフィはフランス料理。イギリスでは高級店になると、自然とフランス料理が出てきます。

重い外食が控えている時に、その直前の食事を軽く済ませるのは、日常生活では常識だ。でも、なぜか旅行中はそれを忘れてしまうので、思い出していただかなければいけない。美味しいものを美味しく食べるためには、ある程度の空腹は必須条件だ。

美味しいものを手配するのは企画担当者の役割。美味しく食べさせるために現地で工夫するのは添乗員。なにげない案内でも、それなりに気を遣っているもんです。そんな中、

「ツートンさん、イギリスの料理って、言われているほど悪くないね。」

などと言われた時は、心の中でガッツポーズをしている。食事が不味いと言われているイギリスで言われたから、なお嬉しい。究極の作戦成功の瞬間だ。これにてミッション終了。
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できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

登場人物は、上のリンクをご覧ください。

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リゴンアームズのロビーエリア。物語の中では、ここで香織が桐生に声をかけられた。

ツアー中の桐生は、参加客から大人気で、これまで個人的にゆっくり話せる機会はなかった。香織にとって、素敵な男性添乗員を、短い時間でも独り占めできるのは嬉しいことだった。桐生は人当たりがよく、紳士的で話が面白い。添乗だけでなく、プライベートで旅した国々の風景やそこでのエピソードは、香織にとっては憧れの世界そのものだったし、一方で、自分の話もよく聞いてくれた。「こんな素敵な男性が世の中にはいるのか」と思うくらい楽しかった。

店には、6時半頃に入ったが、二人だけになってから30分以上過ぎて、気が付くと9時過ぎになっていた。時計を見た香織は、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

「すみません。私一人のために遅くまで。」

「え?あ、もう9時ですか。楽しくて気が付かなかったですね。ゆっくり散歩しながら帰りましょうか。」

これまでの旅の楽しさと、桐生のイケメンぶりと紳士的な振舞い、パイントのビール二杯が、心の中でちょうどいい具合に混ざり合って、とてもいい気分になっていた。最後の「楽しくて気がつかなかった」という、ちょっとした一言がさらに彩を添える。

歩き出してすぐに、振り返って店の名前を確かめた.The Horse & Hound。どこにでもある、イギリスのパブ。でも、香織にとっては特別な場所になった。

夏の時期、イギリスはなかなか暗くならない。濃紺の空の下、夕日に赤く街並みが照らされている。幻想的な風景の中、ゆっくりと歩きながらホテルまで戻った。夏でもこの時間になると、少し空気がひんやりする。

「松本さん、寒くないですか?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」

ちょっとした気遣いが嬉しかった。香織にとっては、これ以上ないイギリスの旅であり、コッツウォルズの風景であり、桐生との最初の思い出だった。
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夏。7月中旬のブロードウェー。夜の九時過ぎでもこの明るさだ。赤くなった街がとても幻想的。
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「本当に自慢話だな。」

サイズが大きく、食べきらないうちに溶けだしたアイスクリームを、スプーンでつつきながら国定が、嫉妬丸出しの表情と話し方で言った。

「そんなドラマみたいな話、本当かよ。」

「本当らしいよ。今でもたまに話に出て、嫌味を言われる。」

桐生は、まるで他人事のように言った。とりあえず、この店のアイスクリームは気に入ったらしい。目線は国定でなく、皿の上にあった。

「なんだよ、『本当らしい』って。それと嫌味ってなに?」

「いや、その時にパブは案内したと思うんだけど、ほとんど覚えていないんだよ。困ったことに。」

「うわー・・・ひでー。ミスター理性も、そこまでいくと無神経だよな。」

桐生にとってこの時のことは、完全な仕事だった。数ある案内のうちのひとつに過ぎなかった。その中で、たとえ二人きりでも、香織と何を話したかなどはまったく覚えていなかった。おそらくその時間は、ツアーで唯一の一人参加だった香織に対する「お気遣いタイム」だったのだ。

「あんなかわいい女性と二人きりの時間なら、俺は絶対に忘れないけどね。ほんと、すごいよ桐生ちゃん。」

日頃、桐生のことを尊敬して止まない国定だが、この言葉だけは皮肉だった。

桐生は、添乗中となると「仕事」というフィルターが心にかかる。その瞬間、年齢も性別も、その人の外観も一切関係なくなり、ただただ「参加者全員が楽しめるように」というスイッチが入るようになっていた。それが、誰からも文句が出ない筋金入りの公平なサービスに繋がっていた。端正な顔立ちで女性からモテたが、仕事中の浮いた話はひとつもなく、国定からは「ミスター理性」と呼ばれていた。駒形からは、もう少し皮肉をこめて、

「添乗員をやめたら、神父かお坊さんにでもなればいい。むしろ、既にそれっぽい時がある。」

などと言われていた。

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つまり、この時の思い出は、香織一人だけのものだった。

そして、このパブでの出来事が、SNSで桐生とつながり、その中でコミュニケーションを続けるきっかけとなった。

 

とは言え、旅行が終わって現実に戻れば、激務の小児科医だ。思い出に浮かれてばかりもいられない。日々の仕事に彼女は追われていた。それでも、桐生のタイムラインは、くまなくチェックしていた。覗く度に思うのだ。

「本当に日本にいない人なんだなあ・・・。」

「イギリスもきれいだったけど、この人が行くところはいつもきれいなところだなあ・・・。雨降らないのかしら。」

桐生にしてみれば、天気がよかった時にきれいに撮れた写真をアップしているだけなのだが、彼女の中での桐生は、常にいい天気の中で、美しい場所を、素敵な笑顔で案内している、夢の中の住人だった。

 

先輩からのアドバイスで、変な人と思われないようにSNSで振舞っていたが、考えてみれば会うチャンスなどなく、だんだん彼女の中で、桐生は「SNSというメディア」の中での存在になりつつあった。

そんな時、意外な場所で再会の機会が訪れる。
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