できる男たちの結婚事情① プロローグと人物紹介 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

登場人物は、上のリンクをご覧ください。

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桐生は、国定の「もてなくてつらいよ話」を封じようとしたが、先手を打たれてしまった。

「この前のお見合いは、手応えあったような気がしたんだけどなあ・・・。」

桐生と二人になると、国定は、よくこの手の愚痴話になる。駒形の前ではしない。「女々しいやつ」と小馬鹿にされるからだ。

「見合いが失敗したのはお前のせいじゃないと思うよ。」

ここは桐生が、本気でフォローを入れた。

「相手は、お客さんの姪だったよな。その気がなくても、お世話になってる叔母からの話は断れなかったんじゃないか?案外仕方なく受けたのかもよ。ベリーショートな彼女の写真を見る前の国定だって似たようなもんだったろ。」

「駒形みたいな嫌味を言うなよ。・・・でも、いい感じで話ができたと思ったのになー。」

「その人、きっと、会合やパーティーで、初対面の人との接し方を、かなりしっかり心得ているんだよ。相手がどんな人でも、不快感を与えずに、当たり障りなく接することができる人だったんだよ。そういう社交術を身につけている人は、確かにいる。ファーストクラス・トラベルのツアーなんて、そういう人たちの集まりだ。」

「まあ、それを言われると何も言えないんだけどさ・・・」

三週間前に終わった見合いの話を未だに引きずっている国定を見て、少し桐生はあきれた。相手が素敵な女性だったとはいえ、たった一度、数時間会っただけなのだ。それなのに、大切な何かを失ったような顔をしている。

「そのうち、また機会があるよ。きっと、いい出会いがあるって。」

「機会ってお見合いの?」

「いや、他にも、こう・・・どこかで出会いの機会が。」

「どこでそんなものあるんだよ。」

「知るかよ。」

適当で気持ちがこもっていない励ましの言葉が、なおさら状況を面倒くさくしてしまった。いや、単に国定が面倒くさい男なのかもしれない。やがて、彼は、小さくため息をついて下を向いた。ようやく静かになってくれて、桐生はほっとして、しばらく放っておくことにした。

すると、すぐにリンダ―ブルスト(牛の胸肉のコンソメスープ煮)が運ばれてきた。とてもいいスープの香りだ。

「二人で分けるんでしょ?」

地獄の番人・・・いや、ウェイターは、気を利かせてとりわけ用の皿も持ってきてくれた。

国定は、下を向いたままだ。桐生が、「うまそうだ。食おうぜ。」と、言っても反応しない。肉が冷めたらもったいないので、桐生は、先に大皿から二枚ある肉のうち、一枚を取ろうとした。すると、下を向いたまま、国定は、それを遮るように、スーッと自分のほうに大皿を寄せた。

「俺が頼んだ。」

ちらっと上目遣いで呟く国定に、さらに桐生はあきれた。

「分かったよ。美味そうだから、俺にも食わしてくれって言ったろ?」

国定は、小さなほうの肉を小皿に移して桐生に渡して、自分は大皿にある立派な肉を食べ始めた。

「うーん・・・美味いね。」

俄かに表情が明るくなった。「お前はメンヘラ女子か!?」と、駒形なら突っ込んでいただろう。だが、優しい桐生は、グッとその言葉を飲み込んだ。

「ねえ、真面目にさ。聞きたいことがあるんだけど。」

肉をひとくち食べた国定は、桐生に問いかけた。

「桐生ちゃんの奥さんて、元々ツアーのお客さんでしょ?」

「まあね。」

「どうやって結婚に至ったの?結婚式では、知人の紹介って言ってたけど、あれは嘘だよね。まさか、お見合いや合コンとかで、偶然再会したとかじゃないでしょ?」

「まあね。」

「俺たち付き合い長いけどさ、そのことだけは、詳しく話してくれたことないよね。」

「国定にだけじゃないよ。誰にも、あまり詳しく話したことはない。」

「そう。相手は女医さんだろ?しかも、奥さん名義のマンションに転がり込むって言ったら失礼なのかな?でも、かなり特殊な例だよね。気になるんだよなあ。」

「うーん・・・。お前には、香織を紹介していて、すっかり知り合いだもんなあ・・・。それを考えると、いろいろ話しにくい。」

「・・・そうか。いろいろあったの?」

「うん。あった。」

「そう・・・。いいなあ、いろいろあって。」

再びメンヘラモードになりそうな国定を見て、桐生は言った。

「言っておくけど、お前の参考にはならないと思うよ。話さないのは、いろいろ恥ずかしいやら照れくさいことが多いんだよ。だから、誰にも詳しく話したことはない。」

国定は、意外そうな顔をしている。

「駒形にも話したことないの?」

「ないよ。敬ちゃんは、他人のそういうところには、全く興味がないからな。聞かれたこともない。」

「へー・・・。」

「そうだなあ・・・。国定には話してもいいかな。確かに、お客さんとの結婚て特殊だよな。お前が変なことにならないように、これを機会に話してもいいかな。男同士の秘密ってことで。参考にはならないけど。」

「いいねえ、男同士の秘密の恋バナ。今後の参考にさせていただきます。」

「だから参考にはならないって!」

桐生は二杯目、国定は三杯目のワインをおかわりした。ビーフのコンソメスープ煮は、少々塩辛く、フランケンワインによく合った。
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