マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

タグ:マスク

先月、父の命日に帰国できなかったので、昨日1日に帰省して墓参りしてきた。ついでに彼岸も兼ねて。

往きに浅草で時間が余ったので、浅草寺を散歩したが失敗した。見事な大混雑。そりゃそうだ。絶好の天気と気温、周辺には桜が咲き乱れているのだから。
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いやもう、人、人だった浅草寺とその周辺
それでも根性を出してお参りするまでは辿り着いた。

コロナワクチンに携わってきた期間が長かったせいだろうか。どれくらいの人がマスクをしているのか妙に気になってしまった。今のところ「マスク着用の自由」を活用しているのは、やはり外国人観光客ばかりだ。

「混雑は平気なのにマスクに異常にこだわる状態」は、外国人にしてみると奇妙に見えるかもしれないな。

 

ところで参拝の段取りは、寺と神社では違い、浅草寺は寺だから合掌して一礼後、軽く一礼が正しいのだけど、けっこう手をパンパン叩いてる人たちがいた。間違えているのは、だいたい日本人。

外国人は、ガイドさんに教わっていたり、ガイドブックを読みながら参拝方法を勉強したりしているので、ほぼ正しく参拝していた。なんだか滑稽で笑ってしまった。

外国人、特に欧米の人たちは宗教に関してそれなりに教育さ受けているせいか、宗教施設でのマナーはしっかりしていると感心することがある。ここは日本人も見習うべきではあると思う。

 

地元で墓参りした後は散歩。あちこちで桜がきれいだった。今年も桜を楽しめてよかった。
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足利と門前仲町で、それぞれきれいだった。
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昨日の夜、大学時代の友人二人と丸の内で会った。一人は昨年から時々会っているが、もう一人は十三年振り。LINEで時々連絡するから、そんなに会っていない気もしないのだが、実際に会って見るとLINEではできない話題がたくさん出てくる。「あー・・・会っていなかったんだなあ」と実感した。

楽しかった。学生時代の友人との時間は、どうしてこんなに楽しいのだろう。僕らが大学生だったことなんて遥か昔のことなのに、彼らねんと話している思い出は、まるで昨日のことのようだった。

 

七時から三時間ほど飲み食いして、お互いに喋りまくった後、別れた。学生時代と変わった部分があるとしたらここだろう。あの頃、このノリで飲んでいたら、絶対にオールナイトだった。今やったら死んでしまう。

 

日比谷線の乗って茅場町に着いた。門前仲町に行くには東西線乗り換えだが、一駅だし、ここからは歩くことにした。

夜の十一時近く。通りに人は少ない。ふと思った。

「マスクを取ろう。」

大臣様が、屋外で会話がなければマスクは不要と言っていた。

風が気持ちいい。正面から若い三人組がやってきた。すれ違う時に、僕が右側に少しよけると、あちらは大きく左側によけた。「この人マスクしていないオーラ」が伝わってきた。

でも、距離はあるし屋外だし。うん。関係ない。

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 夜の永代橋。(写真はその日に撮ったものではありません)

永代橋を渡った。何人かとすれ違う。一人マスクをしていない人がいた。すれ違う時、一瞬目があったような気がした。気のせいか?

家に着いた。久しぶりにマスクをしないで三十分ほど外を歩き続けたが、夜風が気持ちよかった。これが自然だよね、やはり。

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橋を渡り切ったところ。夜釣りを楽しむ人もいた。こちらはその日に撮ったもの。

家に着いて夜中、添乗員のグループLINEに気付いた。五月二十六日に、外務省が三十六カ国の危険度を2から1に引き下げたことにより、旅行会社クラブツーリズムがツアー販売を本格的に再開するとあった。

クラブツーリズム、世界30か国の海外ツアーを本格再開、添乗員付き、1カ国周遊を中心に - ニュースパス (newspass.jp)

(詳しくは上のURLから見られる)

念のため、外務省のホームページも確かめたが、確かに引き下げが行われていた。

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2022T055.html#ad-image-0

(外務省の情報はこちからから)

 

なんだか、気分の良い金曜日だった。
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昨日、週末の父の一周忌に備えて美容院に行ってきた。

先月までは、サービス中のマスク着用は、客の任意だったのだが、今回からは常時着用義務となった。座ると、ジップロックに入ったマスクを渡される。

「そのまま、ご自身の不織布マスクをしていただいてもけっこうです。ツートンさんは、髪を染めるから、どうしても多少はマスクが汚れてしまいますから、サービスが終わったら、こちらをご利用ください。今しているものをケースに閉まって、店で用意したものをサービス中に着用いただいてもけっこうですよ。」

より安心に、ということだと思うが、気持ち的には有難かった。

「緊急事態宣言が一応37日までということになってるでしょう?そのせいか、そこから先の予約が急に混みあってきているんです。せっかく感染者が減ってきているのだから、お客様が多くなったらなったで、私たちも気持ちを引き締めないと。その一環です。」

うーん・・・。納得の引き締め。

 

引き締めといえば、いつかここでも紹介した、オランダで暮らす日本人夫婦の漫画ブログで、ユーロ内のマスク不着用時の罰金について描かれていた。ぜひ読んでいただきたい。

【マスク義務】外を歩く時の罰金額 : ひかさん一家でゴゴッゴッー! (hikasango.com)

スペインでは、900ユーロ(約108,000円)

ギリシャでは、300ユーロ(約36,000円)

ずいぶんと違うが、スペインの平均月収は、だいたい1,850ユーロ(222,000円)でギリシャは800ユーロ(96,000円)だから、収入に対する割合で言えば、ギリシャもかなり重い。

家計を脅かすくらいの罰金を課さないと、守られないということだろうか。マスク代もばかにならないから、着用したくない気持ちもわかる。コロナ禍前からマスク文化がなければ、余計にそう思うだろう。

それにしても、マスク代を遥かに上回るこの金額には驚きだ。

 

作家のひかさんがお住まいのオランダでの罰金は95ユーロ(約11,800円)。平均月収は、だいたい30万円強らしいので、上の2カ国と比べるとずいぶんと軽い。また、オランダでは、公共の建物や交通機関などでの着用は義務だが、外出時=マスク着用というわけでもないらしい。

引き締め方もいろいろだな。

 

こんなことを仲間内でLINEでやりとりしていたら、普段は台湾在住の添乗員仲間から興味深い情報が。

 

台湾です。

外国から台湾に戻った場合、14日間の隔離が必須なのですが、玄関のドアから一歩でも出ると罰金です。台湾の空港に到着すると携帯にアプリをインストールされ、24時間追跡されます。罰金は日本円で72万円~358万円です。

ゴミ捨てにも行けず、Uberで注文したものを取りに行くことも出来ません(同じマンションの独り暮らしの日本人は秘書さんが3食玄関先に置いて行きます)

ちなみに、14日間の隔離中2回ほど感染症センターの方が複数名で抜き打ち検査に来ます。在宅しているかどうかを確認するためという名目ですが、実際は隔離開始翌日以降に食料の差し入れに、終わる前日には、今後の生活の注意点(プラス一週間は公共の場所に出向かない)を説明してくれます。

罰金は高いですが、その代わり14日間の隔離を完了すると、居住者であれば1日当たり約3600円の補助金を申請できます。

アメとムチを上手く使い分けているなぁと思いました。

 

さすが、感染を抑え込んでいるだけある。

世界中のみんなが我慢しているんだなあ。罰金なしで、みんながマスクを自然にしている日本や台湾は素晴らしいとは思うけど、それと感染を抑え込めるかは別の話。

 

げ・・・本日33日の東京都新規感染者数は316人。先週同曜日は213だから103人も増えた。最近、人出が増えてると報道されていたから、これからまた微増し続けるのだろうか。

あ、東京オリンピックは、海外客受け入れ見送りで調整か・・・。ほんと、海外はまだまだ遠いな。

 

あちこちに話が行って、なんだか話がバラバラだが、それもまた、今の僕の心境ということで。

とにかく、まだまだ引き締めないといけない状態が続くのか・・・。

 

漫画の中や、僕が上で書いているデータとは、少しずれているけど、世界の月収の目安にどうぞ

↓      ↓      ↓

世界の月収ランキングTOP100【2020年版】 - たぱぞうの米国株投資 (americakabu.com)


気まぐれで、ちょっとだけきれいな東京の景色をごらんください。
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お客様の耳のことは、お友達も気づいていなかったようだ。

「あなた、何を聞いてたの?ちょっと変な時あるわよ。ツートンさんが、一生懸命話しているのにトンチンカンなこと言ったり怒鳴ったり。」

「マスクを外してお話したら聞こえますか?」

と、僕が尋ねると、ようやくお友達も気づいた。

「そういうこと?・・・あれ?でも、私と部屋で話している時は、マスクしてても普通にお話できるのに。」

「え?」

僕は、お客様を見つめた。二人は、ふだん同居でしているわけではないので、お部屋でもマスクを外さずに会話をしているとのことだった。

「部屋の中では、まわりの音がないから聞こえるのよ。それと、女の人の声のほうが聞きやすいの。あなたの話は、バスに乗ってる時も聞き取れる。」

「ああ・・・そういえば、今までの添乗員さんは、みんな女性だったわね。」

「周りの雑音ばかりが耳に入って、肝心なものを聞き取れない」、「男性の太い声は割れて聞きにくい。女性の声のほうが聞き取りやすい」という声は、ご年配のお客様から時々聞こえてくる。そういうたいていの方は、「いろいろ聞き返してしまうかもしれないけど、よろしくね。」とお断りを入れてくる。

 

「私も、なにか食べるものを取ってくるわ。」

その場から離れたかったのか、お客様は席を立ってフードカウンターに向かった。

「長い付き合いだから、耳が良くないのは知っていたけど・・・でも、会話に困ったことはなかったのよ。男性の声だって、前は問題なく聞き取っていたと思うわ。」

「お友達様は、僕の話を聞けているでしょう?レストランはどうしてお間違えになったのですか?」

「あれね・・・ツートンさんが、ホテルに入ってレストランの方向を教えてくださったでしょ?その時、私トイレを我慢できなくて、彼女に案内を聞くのをまかせてしまったの。たぶん、あなたの話が聞き取れなくて、身振り手振りだけ見て、適当に判断しちゃったんだわ。」

「なるほど。・・・でも、ホテルに入る前にお渡しした案内には、レストランの名前を記載しておきましたよ?」

「そうなのよ。私も、それを見ていたの。レストランの名前も覚えておいたのよ。ロビーで、分かれ道があったでしょ?そこで『夕食のレストランの名前はこっちに書いてあるわよ』って言ったのよ。でも、彼女が『見間違いじゃない?ツートンさんは、こっちだって言ってたわよ。』って。そう言われたら、私もそうかなあって。」

「案内を見直せばよかったのに。」

「お部屋に置いてきちゃったのよ。」

「レストランの人は、入る時に『ここでいいか』確認したって言ってましたが。」

「そこは彼女が話して、『ここでいいはずだ』ってことになっちゃって。予約は入っていないけど、席は空いてるから入れてもらえちゃったのね。」

「予約されていたレストランの名前はおっしゃらなかったのですか?」

「恥ずかしいことに・・・ここに歩いてくるまでに忘れちゃったの・・・。」

「あの方は・・・あれだけ『カニ、蟹!』って騒がれていたのに、その時はカニについては何も仰らなかったんですか?」

「仰らなかったのよ。その時に限って。・・・私は、カニにだわりないし、別にここでも良いのだけど。飲み放題ならなおさらね。」

僕は、深く呼吸しながら苦笑いした。「間違いが起こる時には、止めようもなくこうして起こる」という典型的な例だった。迎える側が、どんなに注意確認しても、悪い意味ですり抜けていってしまうことはある。

 

お客様が戻ってきた。

「マスクを外してもらっただけで、こんなに聞き取りやすいものなのね。口の動きが見えるだけで、全然違う。」

いつか、海外ツアーの仕事で、聴覚障害のお客様が読唇術を心得ていたことを思い出した。障害の有無に関わらず、案外、ふだんの僕らも会話時には、無意識に口の動きを見ているのかもしれない。

「でもお客様、聞き取れない時は、ちゃんとご確認くださいね。」

お客様の状態に、なぜここまで気付かなかったのか、よく考えて申し上げた。普通、聞こえない方は、納得いくまで何度も聞き返してくる。ところが、この方は、これまでただの一度も聞き返しがなかったため、この方なりに理解していたと、僕は思い込んでいた。聞こえないように見えなかったのだ。

自分勝手な思い込みと捉えていたものも、「聞こえてきたものをつなげて、一生懸命理解しようとした」と思ったら、少しは怒りがおさまってきた。お友達は、

「そうよ。聞こえてないのに、あんなにツートンさんを怒鳴ったり叱責したりするのはよくないわ。あなた、みんなから嫌われてるわよ。『話を聞かない、我儘おばさん』だって。今のままだとブラックリストになっちゃうわよ。」

ブラックリストは大袈裟だが、要注意人物としてレポートをあげようとは思っていた。何も知らなければ、それまでの彼女の物言いは、クレーマー以外なにものでもなかった。

この手のお客様は、なかなか謝らないものだ。

「いつもいただいてる案内を、もう少し細かく書いてくれたらありがたいわ。」

照れくさそうに下を向きながら、ぶっきらぼうにそう言った。

「案内はちゃんと読まなきゃだめよ。いつも私しか読んでないんだから。それと、添乗員さんを叱りつけるのは絶対だめ。わかった?」

「分かった。もうしない。案内は、これからはちゃんと読む。・・・ねえ、ツートンさん、カニはもうダメ?」

「当たり前でしょ。」

僕よりもお友達が早くこたえた。カニにこだわりはないと言っていたのに、「あなたのせいで、カニを食べ損ねた」と、嫌味な冗談まで言っていた。

 

次の日の出発前、前日の誓いを破って、お客様は激しい口調で、僕に話しかけてきた。癖はなかなかなおらない。だが、この時は、傍から見たら横柄にしか見えないこの方に、一組のご夫婦の奥様が怒った。

「ツートンさんは、そんな案内はしていません!」

「あなたは、話を聞いていないだけ!」

攻撃的な物言いをする女性も、ツアー仲間から責められると、さすがにこたえるらしく、黙り込んだ。厳しい言葉をほんの一瞬浴びせられた後、僕はすぐに間に入り、奥様に前日のことを話して、これ以上責めないように頼んだ。

「そういうことなの?」

奥様は、グループの中でも僕のことを贔屓にしてくださっていたので、落ち着いて話を聞いてくださった。

「聞こえないそぶりを見せないから分からなかったわ。」

話し方には、多少の同情が見えたが、彼女を見つめる目は厳しかった。

「ツートンさんがそう言うなら、それでけっこうです。でも、それなら彼女の、あの物言いをなんとかしてください。ご存知でしょう?本当にみんな不愉快な思いをしてるのよ。」

確かにその通りだった。僕は、お客様に近づいて、前日のうちに書いて用意していた、この日の流れや注意事項をお渡しした。

「バスの中でお話する案内の内容です。これさえ手元にあれば、今日は不自由しません。どこの案内か分からなかったら、その場その場で聞いてください。それと、さっきみたいな怒鳴り口調はもうだめですよ。皆さん、びっくりしますから。」

彼女は、頷きもせず、無言でそれを受け取った。「よく聞こえないこと」を他の方に教えるのは、ある意味個人情報保護の点で問題と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、この場合は、個人情報よりも、その方のツアーにおける立場を守るほうが優先だった。

 

その日は、ツアー最終日だったが、珍しく怒号が飛ばずに一日を終えて、千歳から帰りの便に乗るに至った。問題児だったお客様は、最後まで一言も僕に謝りはしなかったが、お友達も含めて、周りに誰もいない時に一言だけ言った。

 

「最後の日のメモはありがとう。助かりました。」

そして、前日に食べられなかったカニを空港でお求めになったのだった。

 

正直、最後までムカつくお客様ではあったが、最後のお礼は、その後の仕事でのヒントとなった。

マスク着用で口頭案内するようになってから、確かにお客様からの聞き返しの多さが気にはなっていた。よくよく考えてみると、マスク着用中は、口の動きが見えないだけではない。口を大きく開けるとマスクがずれるから、大声を出せず、口も開けずに話しているのだろう。マイクを使ったバスの案内も含めて、話し手の想像以上に、聞き手にとっては聞き取りにくいのかもしれない。

僕は、字が極端に下手でコンプレックスがあるので、海外添乗中の書面案内は、パソコンで打つようにしていた。しかし、国内の添乗は準備に忙しく時間がないため、最低限の案内だけをメモにして、大半のことは口頭で案内していた。

その結果、聞き返しが多いという状態をつくってしまっていたが、「字が下手でも、聞こえなければ読んでくれるだろう。聞き返しは、聞いてくるほうにとっては意外にストレスかもしれない。」と考えを改めて、情報を、ことごとく文字にするようにした。

実は、僕の国内添乗におけるお客様の評価は、海外時に比べて著しく低かった。だが、この作業をやり始めてから、現時点まで2本ツアーをこなしたが、それまでとは違う高評価になっている。3回目以降は、コロナ禍が悪化してしまったため、まだ試せていない。

コロナ禍における、より分かりやすい案内は、口頭よりも書面であることを見つけた出来事だった。

 

これは、海外が再開してからもそうなっている可能性が高いから、より分かりやすい書面案内を研究しておこう。

この日の夕食は、コロナ対策とテーブルの混雑の関係で、29人のお客様を、30分おきに2組に分けて案内することになっていた。問題の二人組は、先のグループに割り当てられていた。ところが、集合時間になっても来ない。ひょっとして、後のグループだと勘違いされているのかと思いきや、その時間になっても、やはり来なかった。

「レストランを勘違いされているのではありませんか?」

レストランのスタッフが助言してくれた。

「お客様がお持ちになっているお食事券ですが、ホテル名と価格が記載されている金券で、このレストラン専用というわけではないのです。」

「・・・ということは、間違えて他のレストランに行っても入れてしまうわけですか?」

「そうです。空席があれば入れてしまいます。お客様が、間違いに気付かれて、お問い合わせいただければご案内いたしますが、何も仰っていただけないと・・・」

「どのレストランに予約を入れてるかなんてわからないですよね。そうなると、受けるしかない。」

「そういうことです。もし、遅れていらしても、この後の予約は詰まってませんから、お入りいただけます。念のため、別のレストランに確認にいらしてはいかかでしょう?もし、こちらにいらっしゃいましたら、添乗員さんの携帯にご連絡差し上げます。」

 

スタッフの助言に従って、僕は別のレストランに行っていないか確かめてみることにした。とはいえ、宿泊ホテルは、広大なリゾート地にある巨大な建築群で、本館を中心にあちこちにレストランが散らばっていた。僕がいたレストランから最寄りの別のレストランまででも、さっさと歩いて5分はかかった。

手間を覚悟で、でもため息をつきながら、全部で15ほどあるレストランを、間違えて行ってしまいそうなレストランから探してみようとしたら、幸運なことに一件目ですぐに見つかった。

「あ!ツートンさん!ここおかしいの。今日はカニをたくさん食べられるって聞いていたのに。あそこのグラタンにしか入ってないのよ。」

二人は、ホテル内で最大のビュッフェレストランに入っていた。予定されていたレストランは、カニを中心としたシーフードがメインの高級ビュッフェ。

「少々お待ちください。」

僕は、レストラン受付のスタッフに事情を説明しに行った。

「やはり、そういうことでしたか。」

「ご存知だったのに席に案内したんですか?」

「ツアーバッジを身につけられて、6千円の食券をお持ちの方は、だいたい、カニビュッフェで予約が入ってますから、確認はいたしまた。いたしましたが・・・」

「どうかされたのですか?」

「こちらでいいと仰ったのです。時々ツアーに参加されている団体のお客様の中にいらっしゃるんですよ。『カニが好きじゃないからこちっちに来た』、『甲殻類アレルギーだからこっちに来た』、中には、『以前、カニビュッフェは食べたことあるからこっちに来た』という方もいらっしゃいます。」

アレルギーの方は、おそらくツアー申込時にそのことを旅行会社に伝えたうえで、最初からこのレストランを提案されていたのだろう。でも、それ以外の方はどうなんだろう。予約を断る連絡もしないで、勝手に他のレストランに来ているのではないか?だとしたら、ホテルにも添乗員にも迷惑な話だ。国内添乗員も大変だなあ・・・。

おっと、今はそれどころじゃない。

「わかりました。ご確認ありがとうございます。それで、このホテルの食事代はおいくらなんですか?」

4500円です。」

「ということは、カニレストランの予算から1500円浮きますが。」

「はい。ですから6千円の食券をお持ちの方は、アルコールを含めたドリンクを飲み放題にしています。」

「飲み放題!?なるほど!ありがとうございます。」

僕は、お二人のテーブルに戻った。テーブルについて食事を始めてしまったということは、いまさらカニビュッフェに変更はできない。レストランを間違えたのはお客様の責任だが、楽しみにされていたカニを食べられないのは、少し気の毒に思った。

「ダダをこねる可能性はあるけれど、二人ともお酒をよく飲むし、飲み放題が落としどころだな。」

そんな計算をしながら、

「なんで確認されたのに、レストラン間違いに気付かなかったんだろう?」

という疑問も残っていた。

テーブルに戻ると、すぐに大声で怒鳴るお客様だけが席にかけていて、お友達はフードを取りに行っていた。僕は、二人が揃うのを待たずに説明を始めた。手配されたレストランと違うところへ来ていること、そこにカニはないこと、そのかわりドリンクが飲み放題になること。

一通り話を終えると、その方は頷いて

「分かったけど・・・カニは?」

「いや・・・だからカニはないのです。」

「後から、私たちだけに出てくるってこと?」

最初は、我儘を通そうしているだけだと思ったが、表情を見る限りそうとも思えない。揉めていると思ったのか、先ほどのレストランスタッフが来て、かなり丁寧に説明してくれた。だが、それに対して頷きはしても、まったく要領を得ない。なにを言っても、「カニは?」となる。なんだか小馬鹿にされているような気がしてきた。

 

話が通じなくて困っている時に、お友達が帰ってきたので、まったく同じ説明をすると、

「あら・・・やはり間違ってたの。おかしいと思ったわ。」

と、納得した様子で頷いた。テーブルの傍で立ったまま僕の説明を聞いたお客様は、話が終わると座って、相方にレストランを間違えたことを伝えると、

「え?私たち間違ったの?」

と、初めて話に理解を示した。お友達の言葉しか耳に入ってこないのだろうか。その後も、僕の話にはトンチンカンなこたえを繰り返し、お友達の言葉にはまともな回答をした。僕は気付いた。席に座ったお友達は、食事をするためにマスクを外していた。

このホテルは、飛沫を防ぐためのアクリル板が、固定されておらず移動式になっていた。レストランの許可を取って、空席のアクリル板を持ってきて、僕とお客様の間に立てた。そして、マスクを外してもう一度丁寧に説明した。

 

「えー!?じゃあ、私たちはカニを食べられないの!?」

ようやく話が通じた。心底がっかりしたお客様の表情を見ながら、僕は心底ほっとしていた。

2019年の大晦日、僕はモロッコへ旅立った。このツアー中に、コロナが目立ち始めて、僕も初めて意識した。また、感染というものを意識する出来事もあった。それについては、「コロナの記録と記憶③」に書かれている(なにげにアピール)。

↓      ↓      ↓

コロナの記録と記憶③ 急変の直前 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

 

それはそれとして、このツアーでは、興味深い経験をした。

お客様の中に、聴覚障害のご夫婦の方がいらした。ご夫婦揃ってまったく聞こえないのだが、奥様は、話している相手の唇の動きで、何を言っているか理解することができた。それが訓練されたものなのか、障害が後天性のものだから可能なのかは聞かなかった。いずれにしろ、かなりの能力の高さで、出発時の空港受付で初めてお会いした時、あまりに普通に会話できてしまったものだから、しばらく障害のことを忘れていたくらいだった。その時の話がこれ。

↓    ↓    ↓

こぼれ話 読唇術 : マスター・ツートンの仁義ある添乗員ブログ (livedoor.blog)

 

このリップリーディングなのだが、実は、聴覚障害者でない人でも、わりと普通にやっていることなのだということを、国内添乗の仕事で実感した。

北海道に行った時のことだ。そのグループの中では最年長の女性二人組のうち、一人に話がまったく通じなくて困っていた。

聞こえる言葉を自分の都合のいいように組み合わせて解釈していた。海外ツアーのお客様でも、よくそういう方はいらしたが、この方は極端で、自分の解釈が違っていると、他の方が周りにいても平気で怒鳴りながら添乗員を叱った。この時、僕の中ではクレーマーのような存在だった。

マスクをしていても、大声を出せば多少の飛沫は飛ぶ。コロナ禍の今、参加者の大半は、それを理解している。だから仲間内で話すときでも大声は出さないように注意している。或いは、それを指摘や注意しても、不快感を表すことなく受け入れてくれる。この北海道ツアーの直前は、感染者が全国的に急増した時で、ツアー出発直前のキャンセルが多発した時だった。当然、参加に踏み切ったお客様も敏感だった。

この、時々大声で文句を言うお客様には、僕よりも他のお客様たちがイライラしていた。そのうち、あちこちで声が聞こえるようになった。

「ちゃんと話聞けよ。」

「人の話も聞かないで何を言ってるんだ、あの人は?」

横柄な態度で接してくるその方に、僕自身もイライラしていた。そして、だんだん優しく接することができなくなってきていた。

 

周りが気づかなかった事情は、この日のディナー時に見えてきた。彼女たちは、夕食に姿を見せなかったのだ。

この前のツアー中、ある温泉ホテルでの夕食前、いきなり
「福山正治さんに似てるって言われませんか?」
と、自分よりもやや年上の仲居さん三人組に言われた。
言われたことは、あるにはあるのだが、発言主は常に75歳以上の男性限定で、発言時に、すぐそばにいる福山ファンらしき女性からは、いつも真っ向から否定された。別に自分でそう言ってるわけでも思ってるわけでもないのに、なんでそこまで否定されなきゃいけないんだというくらいに。

まあ、年齢の高い男性の目からはそう見えるのであろう。そもそも、僕はイケメンの部類ではない。

ところが、今回は自分と年齢が近い女性からの発言。今思うと、少し舞い上がっていた。はい。嬉しかったです。素直に。

しかし、やがて現実に気づく。僕は、それまでずっとマスクをしていた。仲居さんたちは、僕の隠れた顔の、鼻の上の部分しか見ていない。
お客さんの誘導を終えて、添乗員用のテーブルについた。この日に限って、「マスクとりたくないなあ」などと思いながら。
でも、そこは仲居さんたちもプロフェッショナル。「マスクをとってもいい男ね」などと言いながら、接客してくれた。しかし、僕は気付いていた。彼女たちの、僕に対する関心が薄れたことに。僕へのチヤホヤ度数が格段に落ちたことに。

別に、イケメンに見せようとしてマスクしているわけではないのに、なんか悔しい。
同時に、カフェやレストランで、マスクを外した女性に対して何度もがっかりした経験があるけれど、彼女に対して失礼だったことにようやく気付いた。この場を借りて、お詫びします。どうもすみませんでした。

みなさん、マスクをしている人を褒めて優しくしてしまたら、外した後も最後まで優しくしましょうね。

それでは素敵な日曜日を。「史上最悪な盗難事件」の再開は、あとちょっとお待ちください。

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