旧足利の中心部、足利学校の東側に走る昭和通りを北に真っすぐ進んでいく。右手に見える野球場を過ぎると、すぐに田舎町の風景になっていく。
自転車で走りながら、時々携帯でグーグルマップを確認する。目的地のワイナリー「ココファーム」を見逃さないようにするためだ。
だが、その心配はなかった。いちいち分かれ道には、立て札があり、自動的に辿り着けるようになっていた。
北関東の山地。道がだんだん細くなり、そろそろ車がすれ違うには、徐行しなきゃだめだなということころまで来た時、急勾配の山の斜面にぶどう畑が現れる。
急勾配のぶどう畑
傾斜38度は、スキージャンプ台と同じくらいなのだとか。その様子は、ドイツのライン渓谷のぶどう畑を思い起こさせる(あそこまで規模は大きくないが)。
元々は、軽度な知的障害者を学校で受け持つ教員が、「生徒たちが社会に出ても働けるように」という主旨でつくられた農場がきっかけだった。最初は平地で土地を求めたが予算の問題で買えず、当初は野菜農園を考えていたが、雑草の処理が難しかった。地面にある野菜は雑草との区別が難しかった。設立当初の60年前は、まだ日本が豊でなく、甘いものが貴重だったため、それならば「果汁園が良いのでは?」と考えた。木に実がなる果物であれば、地面の野菜と違って区別がつきやすい。
いろいろ調べてみると、ぶどうは収穫時期だけでなく、年間を通して様々な手入れが必要なことが分かった。普通なら、手間がかからないものを選びそうなものだが、障害者に働いてもらう場所をつくることが目的にひとつだったから、あえてブドウが選ばれた。
安価で手に入った急斜面の土地は、水はけがよく、土の性質もぶどう栽培に向いていた。最初は食用のぶどうをつくっていたが、果物農家のライバルが増えてきたため、ワインに転向した。
というような説明を丁寧にされながら、醸造所の見学が進んでいく。
樽倉の風景は、ちょっと感動的。手をそっと当てるとたまに酵母の反応を感じられるとか。
圧搾、発酵、熟成。現代農業らしく機械を使ってはいるが、比較的手作業が多い。特にスパークリングワインは、オリ取りや発泡も、すべて手作業で行われている。見学しながら思って質問しようとしたら、案内人が先に言った。
「伝統的なシャンパンの製法と同じ手法でつくられています。」
やはり。手間をかけているのだ。この工程を見ると、シャンパンがどうしてあれほど高価なのかが分かってくる。しかし、
「最近は、オリ取りを機械ですることもあるし、発泡も普通のワインに直接ガスを入れるところが多くなってきた。それなら安価でつくれるし、しかも十分に美味しいのです。でも、ここの目的のひとつは障害者の社会貢献もあるから、手作業が基本。そのかわり高価になる。今、うちが苦しんでいる部分です。」
という本音も出た。
「スパークリングワインが高価なのは、この工程を見るとわかりますね。」
と言うと、
「でしょう?安いくらいだと思いません?」
と返された。これも本音だろう。
しかし、僕の経験上、(個人的な好みは別にして)ワイン生産工程の手間と値段は嘘をつかない。シャンパン並みに手間をかけたスパークリングワインはとても美味しい。芳醇な香りと滑らかさは、一本五千円に相応しいものだと思う。このまま製造を続けて欲しい。きっといつか、偉大なブランドになると信じている。
ほか、手頃なお値段のワインがたくさんある。
また、カフェレストランが併設されており、ここがまた美味しい。予約すればコースメニューもある。
ぶどう畑を眺めながらのランチは最高。三種類のワインのテイスティングと生ハム、チーズの盛り合わせ
なお、希望すればペアリングもあるとのことなので、今度来た時には、必ずそれを楽しみたい。
街中から近い、山奥のワイナリーでの静かなひとときをおすすめする。
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ワインの後は、梨で肝臓をいたわり
美しい夕方の足利の街を歩いた。
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