これまた新潟でのお話。舞台は佐渡島。
ホテルの売店で、どんなお土産があるのかチェックしていた時のことだ。かわいらしい朱鷺(トキ)のデザインが入った小さな箱を見つけた。中身はクッキー(ビスケットかも)。なにより値段が安かった。ひと箱250円。店員さんが言うには、
「それは、修学旅行生用に仕入れるのです。ここに置いてある通常の商品は、高校生くらいまでには高すぎますからね。」
僕らが、二泊している間に、高校生のグループが出ていき、中学生が入ってきた。その後は小学生が入ってくると言っていった。みんな新潟市内からだそうだ。港から船で2時間。ずいぶんと近場の修学旅行だ。
「いや、それだけ入ってくるならあっと言う間に売れちゃいますね。」
「それが、今年はいつもほど売れないんです。」
「え?そうなんですか?」
「今年は、みんなクーポン持ってるでしょ?だから、小学生でもあちらにある大きいの買っていくんですよ。」
「あの、大きなお菓子の箱詰め?三千円のをですか?」
「はい。」
「小学生が?」
「はい。」
「・・・・・・生意気ですね。小学生のくせに。」
「・・・はい(笑)」
店員さんは、マスクの上に手をあててクスクス笑い出した。
「中学生や高校生になると、知恵がついてきてね、お土産が250円のクッキーで、クーポンでは自分の好きな物を買ってる子もいます。それでも、ここぞとばかりに高いものを買うのは一緒ですね。」
なるほど。地域共通クーポンで小売り事情がこのように変わることがあるのか。
「ふーん。これ、余ってるの?安いなあって思ってたんだ。」
そばで話を聞いていたお客さんが会話に入ってきた。
「倉庫にまだまだありますよ。」
店員さんがにこやかにこたえた。
「段ボールひと箱どれくらいなのかな?」
商売が始まった。お客様の男性は、奥様と相談して、ひと箱丸ごと修学旅行生用朱鷺クッキーを購入して、その場で宅配手続きを済ませた。
「よしっ!これでかなりクーポンが片付いた!!」
満足そうなご夫婦。
後からやってきたお客様も、そのご夫婦から話を聞いて、次々と修学旅行生用朱鷺クッキーを購入した。さすがに箱買いされる方はいらっしゃらなかったが、5個、10個をお求めになられた方はたくさんいらした。
一番最初に購入されたお客様が、店員さんに得意気に話した。
「よかったねえ、余ってる品がはけて。」
「ええ。本当にありがとうございます。助かります。」
と、店員さん。
僕は、興味深くその現場を眺めていた。そして、みなさんがお買い物を終えて、お店が静かになった頃、
「よかったですね。品がはけて。」
と、労いの言葉をかけた。すると、店員さんはエレベーターのほうを覗き込んで、お客様が誰もいなくなったことを確かめてから。
「添乗員さんよね?じゃあ、言ってもいいわよね。」
と、言って語り始めた。にこやかな営業スマイルは、少々苦笑に変わっていた。
「この時期だからありがたいのだけどね。大人には、大人の商品を買ってほしいわあ(笑)」
言われてみれば、このクッキーを10個買っても売り上げは2500円だ。お菓子の詰め合わせ一つほどにしかならない。この時は極端だったが、実は、大人が修学旅行生用朱鷺クッキーを買っている現象は、今年に限って、多く起きているとのことだった。
「小学生だと、ふだんなら持たせてもらえないお金を持っているようなものだから、買っちゃうのでしょうね。大人だと、お土産を買っていくべき人がたくさんいると、できる限りクーポンの中で済ませようってことになっちゃうのかしら。」
店員さんの分析は、なかなか鋭いと思う。
僕が、店員さんとこんなことを話さなければ、もう少し高いものを買ってくれたのかなあという、多少の罪悪感があったので、その売店で、地酒を買った。佐渡のお酒もまたうまい。
以上、地域共通クーポンで発生した小売り現場の逆転現象をお伝えしました。
=========
追加の小ネタ
佐渡から新潟へ渡る船の中で、あるお客様から言われた。
「ずっと気になっていたのですが、今回のクーポンの金額。間違えていませんでしたか?友達が9月に同じツアーに参加したのですが、13000円もらったと言ってました。私たち、12000円でしたよ。同じツアーなのにおかしくないですか?」
「9月と11月では料金が違うのです。クーポンの金額は旅行代金の15%です。申し訳ないのですが、ツアーの種類は関係ないのです。」
お客様は、手元にパンフレットを広げて代金を確かめた後、「失礼しました。」と言い残して去っていった。そう。クーポンは、代金の15%です。よろしくお願いします。