「あれ?そう言えば今日は来ていないな。」5月9日。気付いた僕は、LINEを開いて、あるアカウントを追った。
コロナ禍が始まって少ししてから始まった、東京都が作成した公式コロナ情報アカウント。そこで毎日チェックしていたのが、都内のPCR検査陽性者数だった。国内添乗中だろうが、海外にいる時だろうが、チェックしなかったことは一度もない。
それが、9日は来ない。「どうしたんだろ」と思いながら僕は、8日分を見直した。そして、納得した。
「五類移行に伴い、日々のコロナに対する発表は終了」とあった。
「そうか。終わったのか。」と思いながら、僕は胸の奥から、何か重いものが取り除かれたような気持ちになった。「もう気にしなくていいんだ」とでも言おうか。
「こんな数字をずっと気にしていたのか?」と嘲り笑う人もいるだろう。
だが、かつての僕には無視できないものだった。第一波がおさまって、すぐに人々が社会の日常化を期待した時、実は、多少なりとも海外旅行業が動き出しそうになった時があった。活発になりかけた欧州の旅行業界に合わせるかのようだった。
デルタ株が収まり、陽性者数が極端に減った時もそうだった。僕の取引先は、ツアー販売の準備を始めていた。だが、2021年暮れから猛威を振るったオミクロン株に、その先の動きを阻まれた。(流石にこの時のショックは大きく、多くの人が業界を離れた)
業界の人々が、どれほどこの数字を意識していたかは分からない。だが、その動向は、まちがいなく反映れていた。僕が、たまに出演を依頼されていたオンラインの旅行イベントも、陽性者数の増減で、ある程度開催のタイミングを計っていたと思う。
旅行の仕事だけではない。ワクチンコールセンターの勤務中もそうだった。陽性者数が増加傾向にある時は、やたら電話の数が増える。それまで静かだったコールセンター内が、急に戦場のようになった。それによって、シフトの変更をスタッフにお願いしたこともある。
もちろん、この数字だけで全てを読んでいたわけではないが、大きなひとつの指標になっていたことは確かだった。
その数字の発表がなくなった。そして気付いた。今の僕には、もはや必要ないものだと。
先に挙げた理由で、日々のチェックは必要だったが、それとは別に不要な一喜一憂をしていた自分に気付いた。
その数字に呪われていた自分に気付いた。世界の動向からして、日本でも、ちょっとやそっとの陽性者増で社会の動きが止まることは、もはやない。頭では分かっているのに、陽性者が増えると、また「自分の仕事が止まってしまうかもしれない恐怖」に襲われていた。
多少の増加傾向にある今、コールセンターの電話は増えているらしい。でも、今、それを気にする立場に僕はいない。
そうなのだ。僕は、この数字に憑りつかれていた。呪われていた。身体はコロナに感染したことがなくても、心は感染していたのだ。
「前を向かなければ」と、やたら自分に言い聞かせていたのも、本当は気にする必要のない数字から、余計ものを連想していたからだろう。
自分が「呪縛に合っている」と初めて気づくのは、それから解き放たれた時だと今、実感している。
「もう気にしなくていいんだ」とようやく思えた。
陽性者増で、ツアーが中止になることはないし、そんな夢を見ることも、もうないだろう(と願いたい)。
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