昨日、試験官の仕事の最終日だった。朝の打ち合わせ前、同じ会場を担当する仲間内で話題になった。僕と女性2人での会話だ。

「ミーティングは、同性同士のみのほうが、早く話が進む。個人差はあるけれど、男女の考え方や感覚は違うから、異性混合のミーティングは、そこを擦り合わせるために時間がかかる。森さんが言ってたのはそういうことではないか?」

そのうえで、

「正直、女性の話って長いと思うことはある。」

と繋げた。この森さんの弟分のような僕の発言に、彼女たちは、耳を傾けてくれた。

「それは分かる。女性のほうが、危機感知力が強いから、細かく話を詰めようとする。その中には無駄と思えるものもあるから、どうしても話が長くなる。」

僕が言いたかったのは、まさにそこだったのだが、彼女の話は続く。

「でも、男の話も長い時はあるよ。『無駄に』ね。『分かってるよ!』ということを、回りくどく何度も言う。」

その後、彼女と親しい男性スタッフがやってきて、仕事の簡単な確認をしていた。傍で聞いている限り、30秒以内で終えられる内容を、回りくどい言い方で、何度も言いながら、2分ほどかけて話していた。

「長いなあ。」

と、僕が言うと、もう一人の女性が

「長いですねえ・・・無駄に。」

と、言って笑った。無駄に長い話から解放された本人も、

「ほら!『無駄に』長かったでしょ?ほんと、無駄が多いのよ、あいつ!」

と、やたら「無駄に」を強調して笑った。

森さんの問題発言の真意も、おそらく、このなんてことない会話程度のものだろう。身内で話してる分には、騒ぎになるようなことではなかったと思う。だが、公の場で「男性が女性が」という言い方は、今はタブーになっている。こと、男性がそれを口にした時は大変だ。

 

不思議で仕方ない。カメラが回っていたのは分かっていたはずだ。1人の政治家の発言として、あれが世の中に出回ってしまったら、どのようになことになってしまうのか、想像できなかったのだろうか。

 

70年代生まれの僕は、中学生くらいまでは「男らしく、女らしく」と言われた中で育った。高校生になっても、その意識だったと思う。親戚の家での夕食前、テーブルに茶碗を並べるのを手伝おうとしたら、

「男の人は、そんなことをしたら大物になれませんよ。」

と、叔母に止められたことがあった。(そのぶん、力仕事はやらされたけどね)。そういう育てられ方、或いは、わずかでもそういう経験をしている日本人男性は、まだまだ多いのではないだろうか。

意識はなかなか変えられない。今でも、子供の頃「女のくせに」と思った時に湧き出たのと、同じような感情が芽生えることもある。

 

一方で、女性が、社会で受けてきた差別を学んだのは、10代後半から大学生の頃だ。(それが当然だったので、自分がそうだとは意識はしていなかったが)男尊女卑が普通である思考の中で、男女雇用機会均等法が出来る前の女性の雇用状況を知った時には、少年ながらショックだった。

女性は、結婚したら家に入るものだとは思っていたが、「働こうとしても働けない、男性と同じ条件をもらえない環境にいる」というのには、大きな不公平感を感じた。女性って・・・いやあえて言うなら、「女って大変だなあ」と思ようになった。

 

20代前半くらいを境目に、女性の権利について、いろいろ言われるようになった。その頃を境に、男女平等の意識が、両極端な時代を生きた僕らの世代の人間たちであるが、なかなか男性社会の時の癖はぬけない。意識していても、スッとそれが顔を出して、女性に不快感を与えているのではないかと、少し不安になることもある。

それとは別に、そういう感覚を表に出さないように努めているのを見つけた時、女性は、それはそれで努力として認めてくれることも分かってきた。

 

森さん世代の男性だと、僕ら以上に意識を変えるのは難しいだろう。でも、言葉を慎むことはできたはずだ。メディアに指摘されているような意図がなかったとしても、現在においては、公の場で言ってはいけない、表現としては認められないことだったのだ。考え方や意識を変えられなくても、言葉を慎むことで、それを見せずに済んだはずだ。

しかも、あの発言が、オリンピックに絡んでしまったことが、とても残念だった。

 

海外メディアの反応は、日本のそれよりも遥かに辛辣で厳しい。日本のメディアも、独自の言葉で批判するよりも、欧米のメディアの言葉や記事を取り上げたり引用したりして、森さんバッシングの材料にしていることが目立つ気がする。

ますます勉強になる。あのような言葉に、欧米は、日本の100倍厳しい。ますます意識を変えるように努力しようと思った。

 

余談だが、僕の意識がある程度変わったのは、旅行会社に入ってからかな。元々女性が多い業界で、みんなしっかり仕事をしていた。「個人個人で能力に差があっても、そこに性別は関係ないな」と、初めて思った。その前に勤務していた会社が、今では許されないような男尊女卑だったので、余計にそう思ったのかもしれない。環境って大切だ。