マスター・ツートンのちょっと天使な添乗員の話

自称天使の添乗員マスター・ツートンの体験記。旅先の様々な経験、人間模様などを書いていきます。

タグ:添乗員エッセイ

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リスボン市内の闘牛場。地下はショッピングモールになっている。
とあるポルトガルツアーにて、リスボンに着く前に、現地手配会社から連絡があった。

「リスボンの市内観光で、ガイドの見習いを同行させてもよろしいでしょうか?東京のツアー担当者には許可を得ています。添乗員さんがよければ問題ないとのことです。」

時々この手の依頼はあるのだが、人材育成が理由だし、僕は必ず受けることにしている。


当日現れたのは、中年の優しそうな女性だった。だが、どこか日本語がおかしい気がする。こちらの言葉を完璧に聞き取れるし、流暢に話せるのだが、時々単語の選択というか言い回しというか、何かが違うような気がした。

聞けば、ブラジル生まれの日系3世とのことだった。日本語は、両親から教わったらしい。

南米で日本語を話せる日系人は二種類に分けられる。両親から習ってネイティブ並みに使いこなせる人と、元々は話せずに、完全な外国語として学んで話せるようになった人だ。僕が出会った人の中では、ブラジルやアルゼンチンには前者が多く、それ以外の国々では後者が多い。
「私は、二年間、日本に住んでいたことがあります。でも、最初はたくさん分からない単語がありました。ブラジルで日系人が話しているのは、昔の日本語。明治時代の言葉です。」
国外に出ると、新しい言葉が入ってこないため、母国語の変化についていけなくなるというが、その例だろう。
「でも、昔に比べたら学びやすくなりましたよ。」
と言った、メインの初老男性ガイドに僕は尋ねた。
「日本人から見てもそう思いますか?」
するとメインガイドは笑いながら言った。
「いえ、実は私も日系ブラジル人です。」
「え?うそ!」
思わず声をあげてしまった。男性ガイドの日本語は、間違いなく完璧な現代日本語だったから驚いた。
僕の反応を目の当たりにした男性ガイドは、どこか得意気だ。
「彼女とは、生きた現代日本語と接している時間が違いますから。私は26年ガイドをしています。その間、ずっと日本人観光客の相手をしながら、いろいろな日本語を聞いて、衛星放送も毎日見て、最近はユーチューブも見てね。」
「日本語を学びやすくなった」大きな理由のひとつに、メディアの発達を挙げようとしていたようだ。

「よくポルトガル語を上手だと褒められるんですが、私が上手いのは日本語なんですよ。」

これを言いたかったのかな。言い得て妙だ。女性見習いが続く。
「私が日本に住んだのは二年だけ。ポルトガルには二十年住んでいるけど、同じ人としか日本語を話していませんから。まだまだこれからです。」

なお、二人とも日本語の読み書きは堪能だ。やはり、それができないと、言葉の劇的な上達は難しい。
「なるほど。そういうことですか。ところでどうしてポルトガルに来ようと思ったのですか?」
「初めてヨーロッパ旅行に来た時に、気候がいいなと思って。本当はスペインがよかったんだけど、まずは、言葉に困らないポルトガルで暮らそうと思って。いつかスペインに住みたいです。大好き。」
「ふーん・・・もし、ヨーロッパを出るとしたら、また日本に住みますか?それともブラジルに帰りますか?」
「・・・・・ブラジルです。」
「え?」

受けたショックが顔に出ていたのだろうか。彼女はすぐに「ごめんなさい」と付け加えた。
「どうして日本はだめなのですか?」
「住んでいて一番便利だと思うのは日本です。公共交通機関とか行政のサービスとか。でも、気候が・・・。夏は暑くて湿気があって死にそうになっちゃう。冬は、すごく寒いし。ブラジルやポルトガルには、こんなに夏と冬の温度差はありません。私には、気候が一番大事です。」

なるほど。それは一理ある。特に真夏は、僕もなるべく添乗に出ていたいと思うし。

旅行先としてはともかく、居住先となると、日本の気候の過ごしにくさを指摘する人は意外といる。特に真夏の高温と湿度は評判悪い。

「ガイドさんもそう思いますか?」

と、メインガイドに振ってみると、

「いや、私は一度も日本に行ったことがないんです。完全に未知の外国です。」

それもまた驚きだった。「未知の外国」という日本語を使いこなせる人が、日本渡航経験なしだとは。

あー、でも日本に来たことがない日系ブラジル人ガイドってけっこういたなあと思い出しながら、お客さんが全員揃ったバスに乗り込んだ。

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ロカ岬。ユーラシア大陸の西の果て


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シントラのペナ宮殿内部

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リスボン市内にあるサンタジェスタのエレベーター。

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ロシオ広場とコルメシオ広場を結ぶ目抜通り。カフェやレストランが並ぶ。
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ロシオ広場のカフェにて。客が余したつまみをハトがつついている。この辺りのハトは人を怖がらない。客もこの状態を楽しみながら撮影していたが、このあと店員さんが出てきて、ハトたちは追っ払われた。当たり前。

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円安と物価高で、年々上がる海外旅行ツアー代金。しかしながら、コロナ禍でため込んだ気持ちが、まだまだ消費者には残っているようで、参加者は増え続けている。本当にありがたい。いつ減少し始めるか分からない恐怖感を抱えながらも、嬉しさと感謝でいっぱいの気持ちでいる。

 

そんな中、ガザ地区での紛争の影響で、日本発着のエジプトツアーでキャンセル客が続出した。どの旅行会社も利益率カツカツで出発したようだ。

キャンセル理由の多くは、隣国で紛争が起きていて怖いから。

気持ちは分かる。だが、怖がり方として正しいかと言われると微妙だ。下のURLに日本国外務省が出しているエジプトの危険情報がある。

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/map/2022T088_1_Detail.html

シナイ半島は危険度3が出ているので避けて当然だが(エジプト人は問題ないと言っている)、ツアーで入っている部分は危険度1だ。パッケージツアーは、危険度1までは出して良いことになっている。2になったら催行中止にしなければいけない。

感染症の危険度は、コロナの例にあったように急激に広まることもあるが、治安に関するそれが、俄かに広がるとは考えにくい。

日本の旅行会社は、このガイドラインに沿って忠実にビジネスを行っているので、現状ツアーに参加しても問題はないと思う。

もちろん、旅行は気持ちの問題があるから、むやみに「行け」とは言わないが、「隣国で紛争があるが、旅行して大丈夫か」と聞かれたら、僕は「大丈夫」とこたえる。

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今回も、こんな雰囲気を楽しんできた。 
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新博物館もソフトオープンした。
一方、アメリカ人のパッケージツアーも極端に数が減っている。というかほとんど来ていない。

こちらはアメリカ政府が止めているらしい。イスラエルとハマスの紛争にアメリカが必要以上に関与しているというのがエジプト人の一般的な考えで、批判が凄まじい。そのため、アメリカの企業商品のボイコットが起こっている。ガイドの言葉を借りれば、

「アメリカ企業の商品は買わない。子供がどんなに泣いて行きたがっても、マクドナルドやケンタッキーには行かない」

というほどだ。つまり国民レベルでの制裁が起きている。

一般人のボイコットだけで済めばいいが、アメリカが恐れているのは、「アメリカ人観光客を狙ったテロ」だ。そのため、渡航自粛を促しているとのことだった。

これは、日本人がなんとなく隣国での戦争を怖がっているのとは違う、頷ける理由だと思う。

なお、アメリカ人グループが0というわけではない。他国のグループとは違い、常にしっかりと警察の警備がついて動いている。(他国グループでは、カイロで一人つくくらいだが、アメリカのグループには、常に二人ついていた)

実際に来ているアメリカ人に対しては、エジプト人は手厚くもてなす。ボイコットと矛盾してはいない。ボイコットはアメリカ政府に対する抗議だ。好奇心旺盛で、観光を真面目にして、ノリがいいアメリカ人は、案外多くのエジプト人の観光業者から好まれている。

アメリカ政府とアメリカ人は別物というわけだ。

ツアー中は、こんな視点で世界を見ることもできる。
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このシリーズは、既に終えたつもりでいたが、このブログ自体コロナ禍をきっかけに書き始めたものなので、筋を通して言及しよう。

デジタル庁が、コロナワクチン接種証明書アプリのサービス停止を発表した。
国内でも海外でも、提示機会がほぼなくなり、もはや役割を終えたということらしい。というか、
「逆にまだあったの?」と思う人もいるかもしれないが、海外旅行ツアーに参加されている方の中には、マメに7回接種分全てを記録していた方もいるから、人によって感じ方は様々だろう。

総ダウンロード数は1566万回だそうだ。これは多かったのか、少なかったのか?

具体的な流れとしては、
4/1 アプリの発行機能停止。その後は機能停止バージョンに移行。これ以降は、新たな接種記録を反映できなくなる。

5/7 アプリストアでの公開停止。これ以降、一切ダウンロードできなくなる。

なお、機能停止バージョン後も、それまでの記録が自動的に削除されることはなく、端末には残すことはできるという。

今回のツアー参加者の中のうち4割は、このアプリを取得していない。つまり、コロナが五類になってから海外旅行を再開した方が、4割を占めている。そういう時代になったのだな。

以下、デジタル庁のURL。(記事が削除された時点だ読めなくなります)
https://www.digital.go.jp/policies/vaccinecert#:~:text=%E5%9B%BD%E5%86%85%E3%81%A7%E3%81%AF%E6%8E%A5%E7%A8%AE%E8%A8%BC%E6%98%8E%E6%9B%B8,%E5%BF%83%E3%82%88%E3%82%8A%E6%84%9F%E8%AC%9D%E7%94%B3%E3%81%97%E4%B8%8A%E3%81%92%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
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明日からエジプト。今回お世話になる日本語ガイドとは、とあるSNSで繋がっている。それを通じて、メッセージが来た。

「すみません。お願いがあります。無理ならけっこうなのですが・・・。」

日本人以上に正確な日本語を話す彼が、実に悲痛な書き方をしてきたので心配になったが、

9万円分の米ドルを用意していただくことはできませんか?交換してください。」

と、なんなくできることの問い合わせだったので、「いいですよ」とこたえた。

軽く返事はしたものの、ちょっと考えると、日本人にとってはショックで面白くない話だ。
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ガイドのために両替した米ドルのレシート。現地で9万円と交換する。当たり前だが、手数料などは一切もらわない。なお、取引先旅行会社から預かった準備金ではなく、筆者個人のお金で対応する。だからガイドの頼み方も慎重になる。
彼が持っている円は、ツアーのお客さんからいただいたものだろう。エジプトの土産屋さんでは、観光客は米ドルで払うことが多い。ユーロでの支払いも可能だが、外貨での支払いは紙幣のみに限られるので、より小さな紙幣がある米ドルが使いやすい。

円での支払いも、かつては可能だった。円が全盛の90年代には「米ドルは弱いから、できれば円で」とお願いされたこともある。エジプトだけではない。モロッコやチュニジア、アラブの国々では、どこもそうだった。

だが、今はだめだ。弱くなった円は、受け取ってもらえないことが多い。ガイドが僕に米ドルの用意を頼んできたのも、そういう事情があるからだ。

実は、年末年始のエジプトツアーでも同じガイドだった。その時も、円からドルへの両替を頼まれた。現金しか扱わないお店で、米ドルを使い切ってしまったお客さんに、ガイドが円での支払いを提案したのだ。店は受け取ってくれないので、その分の現地通貨を彼が立て替えた。

その後、お客さんがいないところで、彼は相談に来た。

「米ドルに換えられない?今、円は銀行に持っていっても両替してもらえないんだ。コロナ禍前はできたのに・・・。」

この時は、予備費が十分にあり、なんとか両替をしてあげられた。ほっとしたガイドの顔が忘れられない。

お客さんの中には、コロナ禍前にエジプトを訪れた知り合いの体験談である「円でも支払い可能」という口コミをあてにして、ためらいなく出される方がいらっしゃるが、現在の現地事情とは食い違ってしまっている。

日本のGDPは世界四位に後退した。前々から確実視されていたから、ニュースそのものには驚きはしない。順位で言えば「一つ下がっただけ」と思われる人もいるようだ。

だが、全盛期の90年代半ばには、世界の17%をも占めていた日本のGDPは、今では4%強しかない。そして、為替もここまで弱くなっているとなると、こんな扱いになってしまっても仕方ないような気がする。

ほんと、コロナ禍後というか2022年からの海外旅行現場は、2020年までなら考えられなかったことばかりだ。

現金しか扱わないところでは「ドルかユーロのみ。または現地通貨」

クレジットカードは「あれば便利なもの」から「なくてはならないもの」に変わった。

円が強さを取り戻す時代なんて、なかなか来そうにない。どうしても行きたいところがあったら、円の回復など待たずに、今行ったほうがいい・・・と、2024219日の時点では思っている。

 

今回も、米ドルは少し多めに用意しよう。
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初めてお会いした時は、「ちょっと元気がなさそうな方だな」という印象だった。

お渡しした書類を、とても読みにくそうにしていた。「文字は大きめにしてあるのに。目が悪いのかな?」と思った。

その取引先旅行会社での参加履歴はなかった。健康上の問題点等の申告履歴もない。だが、なにか胸騒ぎがした。

こんな時の胸騒ぎは、だいたい当たる。乗り継ぎ地のフランクフルト空港で移動する時、その方だけ歩行が遅く、ついてこれなかった。

「まあ、石畳が多いスペインの観光ならもっとゆっくり歩きながら案内しなければいけないし、この方のスピードに合わせても問題ないだろう。説明をしながらだと、さらにゆっくりになるし。」

前向きな言葉を自分に言い聞かせながら、それとは矛盾した不安感が胸中に広がっていくのを感じた。

スペインでのツアーは、すべての観光地でガイドがつき、そのうちの多くは日本語を話す。なにかあった時に、この男性客に僕の神経を集中させることが許されるところが大半だ。

問題は英語ガイドの時だ。人によっては英語が聞き取りにくく、言葉に集中せざる得ない時がある。そんな時は、お客さんがついてこれないほどのガイドの歩行スピードを見逃してしまいがちだ。時として、それは迷子を生み出す原因になってしまうので、注意をしないといけない。

「神経を使いそうだな。」

頭の中で、ある程度のシミュレーションを組みながら、軽い溜息をついた。

バルセロナの観光は無事に済んだ。観光後、南に向かいながらタラゴナの水道橋も、なんとか無事に終えた。
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タラゴナ水道橋。非常に貴重な無料で見られる世界遺産。高速道路の休憩場所から歩いていける。
最初の修羅場はバレンシアだった。分かりやすい英語ガイドに安心して、簡単に案内を終えてバスに戻る時だ。人数を確認すると一人足りない。誰だかはすぐに分かった。

人数確認の際、足りない時に、添乗員は、最初に一人参加者が揃っているかを確認する。夫婦や友達同士で参加している場合、片方がいなかったら知らせてくれるが、一人参加は、ある程度ツアーが進んでお客さん同士が顔見知りにならないと、いなくても気づいてもらえない。ところがだ。

「いないのってあの方よね?」

お客さんの一人は分かっていた。しかも傍にいた三人も頷いていた。四人で参加していた女性グループだ。他にも気づいていた方はいたようだ。28人と比較的人数の多いツアーで、たった一人のお客さんの不在が誰なのか、すぐに特定するのは珍しい。しかも、ツアーは始まったばかりだ。よほど初日の乗り継ぎ時の歩行の遅さが印象的だったのか、男性客のことは、大半の参加客に既に認知されていた。

「ツートンさん、あそこ、通りの反対側を歩いている人じゃないですかね?」

親切そうな夫婦のご主人が教えてくれたが、まさにその通りだった。

「本当だ。明神さん!」

僕の声は聞こえたようだが、きょろきょろして見つけてもらえない。

「え?」僕は急な違和感を覚えた。通りを挟んでと言ってもそれほど大きな通りではない。しかも、歩道に人はそれほど多くなく、日本人グループは僕らしかいない。見つけなくても目に入る状況だった。結局気付いてもらえず、明神さんは歩き出し、スペイン人らしいグループを追い始めた。

僕は、他の方のバスへの誘導をガイドに頼んで、通りを渡って彼のところに駆けつけた。

「明神さん!」

「ああ・・・すいません。そこにいましたか。」

迷子になっていたという自覚がないのか肝が据わっているのか、まったく動揺の気配がない。少し腹を立てている自分の感情を抑えながら、僕は気付いた。彼は、顔はこちらに向けてはいるが、目が合っていない気がした。また、瞳があまり健康的な様子ではなく、澄んでいないように思えた。

「あの、今日みたいな天気だと見えにくいですか?」

この日は、バレンシアにしては珍しい曇天だったことを理由に、遠回しに目の状態を伺ってみた。

「いや、雲っているかどうかは関係なく、よく見えないんだ。白くぼーっとしちゃってさ。」

この時、初めて明神さんは、自分の視力の問題を告白した。

「最近、緑内障が進んじゃってね。困ったもんだよ。」

「そうでしたか。」

とりあえず相槌を打った。

「違うグループの後を追われていたようですが、あちらの人たちはスペイン人ですよ。」

「ちょっと離れちゃうと、日本人かヨーロッパの人かも区別つかないんだよね。」

「それなら、立ち止まって待っててくだされば・・・。」

「私は、海外赴任が長かったおかげで、英語とスペイン語は分かるんだ。日本語が聞こえなくても、まったく不安はないんだ。」

「それはつまり、聞き取れる言葉が聞こえるほうに進んでしまったというわけですか?」

「まあ、そうだね。」

彼の不安感の無さに、僕は最大の不安と恐怖を覚えた。
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翌朝、前日までの天気が嘘のように晴れた。
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12月下旬。朝9時半頃のヴィレの街とスキー場。極夜の時期のスキー場は、いつもライトがついている。
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なお、これ以上明るくなることはない。
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実際よりも少しだけ明るく撮れたヴィレの朝
この時は冬至の直前。一年で番暗い時期。ヴィレは、極夜の時期に当たっていた。太陽は、地平線間際まで近づくが、顔を出すことはない。

ある程度、明るくはなる。「極夜」という響きで、ずっと夜の暗さが続くというイメージをお持ちの方はいらっしゃるかもしれないが、おそらく一般の人が思っているよりも明るい。

とは言え、朝焼けを見たと思ったら、すぐに夕焼けの時間だ。時計を見ていないと時間を掴めない。お客さんたちも、空港に向かう11時半に夕焼けを車窓から眺めて驚いていた。
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空港に向かう途中、だんだんと赤くなっていく空。午前11時過ぎ
お客さんたちの心にも、一度きれいなオーロラが見られて余裕が生まれたようだ。

風景を眺めたり、ヘルシンキに移動してからの自由行動や観光中の表情が、とても柔らかくなった。

「オーロラの他にも、冬のフィンランドってきれいなものがたくさんあるのね。」

という言葉は本音だとは思うが、オーロラが見られなかったら、同じニュアンスでは出てこなかっただろう。

添乗員とは違う意味で「オーロラが見られなかったら」というプレッシャーを背負っていたのだと思うと、それから解放された彼らを、なんとなく優しい思いで見つめることができた。
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早朝でも夕方でもない、昼間のキッティラ空港。ここもまた北極圏の街で、この時期は極夜だった。
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キッティアからヘルシンキまで移動する航空機からの風景。この時期の航空機からの風景もまた神秘的。
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クリスマスの装飾に彩られたヘルシンキの街は、オーロラの余韻に浸りながら楽しむのに、心地よいところだった。

2023
年最後に帰着のツアーは、こうして終わった。

今でも、奇跡的に見られたオーロラを思い出して、鳥肌が立つことがある。
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「よし!」と、小さく声を出しただけで、タバコをふかしたような白い息が出るバルコニーから部屋に入り、僕は、お客さんの部屋に電話をした。

若い一人参加の女性、機内でオーロラを見られなかった女性客は、すぐに反応した。若い女性客は、僕と同じで星空を眺めていた。新婚夫婦は寝ていたのか寝ぼけ声だったが、天気のことを伝えると、テンションがすぐに上がった。

一番反応が悪かったのが初老の夫婦だった。ゆったりとした感じで、

「いろいろ気にしてくれてありがとう。でも、いいんですよ。オーロラが見られなくても、ゆっくりできたいい旅でした。自然が相手ですからね。こんなこともあります。別にオーロラが旅の全てではありませんからね。」

ある意味、素晴らしい心がけではあるが、今は、そんな時ではない。

「ツートンさんも、そんな気負わないでください。オーロラが出ないのはあなたのせいではありません。もういいんですよ。」

なんという優しいお言葉!でも、今は必要ない。僕の「天気が回復している」と案内は、まったく耳に入っていないようだった。作戦変更。

「すみません。奥様とお話しさせてください。」

「はいはい」と言いながら、電話をかわってくださった。

「ツートンさん、本当にもういいのよ。私たちは・・・・」

「奥様!」ゆっくりとお話する奥様の言葉を僕は遮った。

「今、星が見えてます。ベランダに出るときれいに見えますよ。」

「あらそう。じゃあ、見てみるわ。」

なんとのんびりしたマダムだろう。

「いや、そうじゃなくて星が出るくらいだから、オーロラを今度こそ見られそうだという話です。」

「あら、そういうことなの。」

そういうことだ。奥様は、電話の向こうでご主人にそのことを告げた。

「おお!そういうことなのか!」

という声が聞こえた。そうだ。そういうことだ。やっとのことで、全員での出発が決定した。良すぎるくらいの物分かりの良さが、逆に弊害を生むという珍しいケースだった。

12時過ぎ。僕は6人のお客さんと一緒に、最後のオーロラハンティングに出かけた。最後にして、初めて望みのあるハンティングに。
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夜のレヴィの街を行き交う人々。
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日目の朝。雲は空高くに立ち込める靄に変わったが、相変わらず晴れる気配はなかった。

9時過ぎ頃。ヴィレは極夜の時期ではあるが、太陽は地平線の浅いところまではやってきて、多少は明るくなる。僕は、お客さんたちに、スキー客でなくても乗れるゴンドラを紹介した。

「昨日までと比べると視界は良さそうだから、きれいな景色を楽しめると思いますよ。」

そう言って、乗り場まで行ってお見送りをして帰る途中のことだ。知り合いの添乗員に会った。

S子さん。」

「あ!ツートンさん!」

同じ派遣元の所属ではあったが、会うのは久しぶりだった。僕の記憶では、国内添乗を始めるにあたって、初期研修を受けた際に同席して以来だ。あれは、コロナの第一波が収まって、いろいろ批判されたgotoキャンペーンが始まり、国内添乗員が足りなくなった頃だった。ということは、2020年の10月半ばか。え?3年ぶりってこと?(この話は202312月のできごと)・・・ずいぶんと会っていなかったんだな。オフィスに通勤している会社員ではない添乗員同士ならよくあることではあるけれど。

まずは、お互いが持っている情報を共有しあい、その後、オーロラの話になった。

「ツートンさん、ここ何日目ですか?」

4日目。」

「オーロラ見られました?」

「全然。昨日が一番状態がいいことになっていたけど見られなかったから、かなりやばい。」

「それはきついですね。でも、今晩は可能性あるんじゃないですか?」

「今日の予報は、確か最悪なはず。」

「そうでしたか?」

「僕が見たアプリではね。」

「どのアプリですか?・・・あ、私が使っているのと同じだ。そんな悪かったかなあ。」

言われて確かめてみると、本当に予報が変わっていた。この時点で朝の9時過ぎ。6時に見た時は、一日中曇天だった予報は、夜の11時過ぎには晴れるようになっていた。

「そんな短い間に変わったのか。この後もよくチェックし続けたほうがいいですね。」

S子さんと別れた後の僕は、変に神経質になり、30分おきくらいにアプリをチェックしていた。まるで、翌日に運動会を控えた小学生のようだった。

自由食のランチでは、6人のお客さんのうち5人とご一緒した。みんな、ある程度オーロラを見られない覚悟をしているようだった。

「飛行機の中で見ておいてよかったです。じっくり見られたから、あれでけっこう満足しています。」

と、いう新婚夫婦のご主人の言葉は、「満足すべきなのだ」と、自分に言い聞かせているようだった。奥さんも頷いている。機内でオーロラ鑑賞をできると助言したのは僕なので、お礼も言われた。だが、無念にも見逃された、たった一人のビジネスクラスのお客さんは、

「起きていられなかったなあ・・・」

ひとりごとのわりに、やや大きな声で呟き、それはテーブルを沈黙させた。

「なんとかならないものか・・・」

と、どうにもならない自然を相手に、僕は考え込んだ・・・というよりも祈るしかなかった。

だが、無情にも再び予報は悪いほうに急転した。午後11時以降。雲が空を覆う割合が、一時的に8%に下がったものの、ディナーを食べている時には、70%に上がってきた。雲が流れていかない・・・。

ディナーの際、僕はお客さんたちに、正直に予報の変わり具合を報告した。

「オーロラポイントへは、天気を見ながら深夜に出発することになると思います。もちろん、皆様の判断で、個人的にいらしていただいても構いません。」

休憩所などなく、ただひたすら外で待つしかないビューポイントだから、案内するタイミングには、かなり気を遣った。

これまで、犬ぞり、トナカイ牧場やスノーモービル体験など、気を紛らせてきたお客さんたちも、さすがに元気がない。短い、無言のディナーを終えて、それぞれ一度部屋に戻った。

この時点では、このまま出発しないで一日が終わってしまう可能性もあった。

部屋で、テレビをつけて、音楽番組にチャンセルを合わせて気を紛らそうとしたが、どうにもならない。

「とうとう僕も、オーロラを見られずにツアー終える日が来るのかな・・・。」

この日は土曜日だった。ヨーロッパのサタデーナイトは盛り上がる。レヴィのスキーリゾートでも、それは同様だった。若者たちのはしゃぐ声が聞こえる。アジア系の人たちは、オーロラ目的でここに来るが、ヨーロッパの人たちの多くはスキーをメインにここを訪れる。オーロラは、わりとついでだ。

彼らの騒ぎは、この時の僕には煩く感じず、むしろ救いに感じた。

「そうだよな。僕らは楽しいところに来ているんだよな。」

夜も11時を過ぎてきた。そろそろお客さんたちに、出かけるかどうか結論を求めなければならない。僕は、久しぶりにアプリを開いた。

「・・・あ!」

またもや予報が急転していた。11時以降の雲の割合は30%にまで落ち、12時から1時は10%以下にまで落ちていた。急転の急転の急転だ。

僕は、部屋のバルコニーに出て、空を見上げた。雲の割合が30%という予報を信じて。

そして、このフィンランド滞在中、初めて星を見た。
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超便利アイテムオーロラアプリを手に入れたものの、入ってくるのは悪い情報ばかり。

オーロラの発生に関してだけ言えば、ツアー期間中の条件は良かった。だが、見えるとなると毎晩分厚い雲に邪魔をされた。

「晴れれば、オーロラを見られる可能性が高い」

というアプリの表示が虚しく目に映る。

美しいオーロラが見られることで知られるフィンランドのレヴィでの滞在も3日目を迎えていた。予報では多少晴れ間が出るようなことを言っていたが、アプリでは常に雲が空を覆うと出ていた。そして、実際の天気は後者の通りだった。
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ホテル近くのスキーゲレンデ。サラサラの粉雪が、わずかな風で宙に舞い、薄い靄となっている。オーロラが見えない中での、ちょっとした癒しだった。
それでも、夕食後には片道約10分歩いて、オーロラのビューポイントにやってきた。こんな時は、雲がたちこめていても外に出てくるものだ。お客さんたちも迷いなくやってくる。ほぼ出ないと分かっていてもだ。あきらめきれないのだ。

雪がちらついてきた。ますます条件が悪くなっていく。「雲に隙間ができれば、そこからわずかばかりでもオーロラを見られるかも・・・」という儚い願いは絶望へと変わっていく。

こんな状況でも、空に集中するお客さんたちを横に見ながら、僕は上着のポケットに入れていたiPhoneでアプリをチェックした。上空では、かなり高い率でオーロラが出ているようだ。

本当は、雲が立ち込めた空の下でオーロラを待つなど、限りなく無駄に近い。天の川を見渡せるような快晴の夜空の下、じっくりと発生を待つような環境でないと、きれいなオーロラを見るのは難しい。

きっと、お客さんたちもそれは分かっている。それでもあきらめきれないのが旅人の心理。
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オーロラポイントにて。雲の下でオーロラを待つ。オーロラよりも雲が切れるのを待っているような感じだった。
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別のポイントから。星一つ見えない中で、スキー場の明かりだけが山の向こうから漏れていた。
「ふー・・・」

溜息をつくと、白い吐息が2メートルくらい先まで届いた。気温-14℃。

それを見ていた女性の一人参加客が僕のそばにきた。

「ねえツートンさん。ひょっとして、もう部屋に帰りたい?」

「いや。そんなことないですよ。」

正直に言うと、ホテルを出る前に「こんな悪条件の中、外に出て行きたくないな」とは思っていた。だが、この時のお客さんの様子を見て、帰りたいなどと思えないようになっていた。

「あら・・・そうなの。」

僕のこたえに、少しがっかりしているようだ。

「・・・あのね。」

一度、下を向いた後、その方は続けた。

「私、もういいかな。帰りたい。」

「いいんですか?」

「ええ。まだ明日もあるし。それにこの雪よ?絶対に晴れないわよ。」

他の方もそう思っていたようだ。彼女の言葉は引き金になったらしい。僕に視線が集中した。

「帰りましょうか。」

皆、あきらめの表情の中に、わずかに力のない笑みを浮かべていた。僕らは、ホテルに足を向けて歩き出した。

オーロラチャンスは、残りあと一日。
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既にご存知だと思いますが、LINEのブログリーダーの更新通知サービスが終了しました。便利だったのに、残念です。

つきましては、今後の更新通知をを得るには、ライブドアのアプリをインスト―ルをしていただき、その中でフォローしていただくと、更新ごとに通知されるようになっています。

やり方としては、このブログを読んで下にスクロールしていくと、

IMG_9067
この通知が出てきます。ここで「ライブドアアプリで更新通知を受け取る」をクリックしてください。先にアプリをインストールしていれば、これで作業終了。

未インストールの方は、アプリインストールの案内が出てきます。ガイダンスに沿って進んでいくとアプリストアに入り、「購入しますか?」という文言が出てきます。

ここで「購入する」をクリックしてください。便宜上、「購入」という言葉が出てきますが、これは無料アプリです。料金はかかりません。

その後、いろいろ質問が出てきますが、そこは好みで入力していただき、最後に、もう一度ブログに戻って「ライブドアアプリで更新通知を受け取る」をクリックしたら作業完了です。

 

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