「よし!」と、小さく声を出しただけで、タバコをふかしたような白い息が出るバルコニーから部屋に入り、僕は、お客さんの部屋に電話をした。
若い一人参加の女性、機内でオーロラを見られなかった女性客は、すぐに反応した。若い女性客は、僕と同じで星空を眺めていた。新婚夫婦は寝ていたのか寝ぼけ声だったが、天気のことを伝えると、テンションがすぐに上がった。
一番反応が悪かったのが初老の夫婦だった。ゆったりとした感じで、
「いろいろ気にしてくれてありがとう。でも、いいんですよ。オーロラが見られなくても、ゆっくりできたいい旅でした。自然が相手ですからね。こんなこともあります。別にオーロラが旅の全てではありませんからね。」
ある意味、素晴らしい心がけではあるが、今は、そんな時ではない。
「ツートンさんも、そんな気負わないでください。オーロラが出ないのはあなたのせいではありません。もういいんですよ。」
なんという優しいお言葉!でも、今は必要ない。僕の「天気が回復している」と案内は、まったく耳に入っていないようだった。作戦変更。
「すみません。奥様とお話しさせてください。」
「はいはい」と言いながら、電話をかわってくださった。
「ツートンさん、本当にもういいのよ。私たちは・・・・」
「奥様!」ゆっくりとお話する奥様の言葉を僕は遮った。
「今、星が見えてます。ベランダに出るときれいに見えますよ。」
「あらそう。じゃあ、見てみるわ。」
なんとのんびりしたマダムだろう。
「いや、そうじゃなくて星が出るくらいだから、オーロラを今度こそ見られそうだという話です。」
「あら、そういうことなの。」
そういうことだ。奥様は、電話の向こうでご主人にそのことを告げた。
「おお!そういうことなのか!」
という声が聞こえた。そうだ。そういうことだ。やっとのことで、全員での出発が決定した。良すぎるくらいの物分かりの良さが、逆に弊害を生むという珍しいケースだった。
12時過ぎ。僕は6人のお客さんと一緒に、最後のオーロラハンティングに出かけた。最後にして、初めて望みのあるハンティングに。
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